製造終了から20年の時を越えた今こそ、アブガルシア最後のスウェーデン製スピニングリール・Suverän(スベロン)について語りたいって話
日々カーディナルやアンバサダーを愛用しているAbu Garciaファンの皆さまに質問です! Suverän(スベロン)というリールをご存じでしょうか? ……聞いておいてナンですが、この質問にイエスと答える方はそう多くないと思います。また、存在は知っていても、実際に使用したことがある方はこれまでアブのリールを1台でも所有したことのあるユーザー100人のうち1人にも満たないんじゃないでしょうか。筆者はこのリールの未使用長期保管品を2022年7月に入手しましたが、最近になってやっと実釣に投入する機会がありましたので、使用感について記してみたいと思います。どうもこのスベロン、最近になってヤフオクやメルカリで大分高騰しているようなので、購入を検討している方は大枚をはたく前に本記事でざっくりとでもイメージを掴んで頂けたら幸いです!
さてさて、スベロンが世に出たのは2001年。すでにこの頃、アブ・ガルシア社はスピニングリールの製造拠点をスウェーデン国外に移していましたが、スベロンは同社最後の本国製スピニングリールとして発売されたフラッグシップモデルです。ラインナップは最小サイズの「1000M」から最大サイズの「4000M」までの4モデル。ただしボディは全て共通で、スプールの大きさのみが異なるという仕様でした。一体成型のアルミボディ、ゴツいハンドル、ベールアームのスプリングはコイル式……と、とにかく高強度・高剛性を求めた設計のリールです。普通は繊維素材で安価に作られるスペアスプールすら金属製(というか同じスプールが2つ付いてくる)で、ハイエンドリールとしての矜持が感じられますね。フルメタルボディを包み込むのに相応しく、箱はモデル名が箔押しされた化粧箱、リール袋は革製で、パッケージ全体が高級感に満ちみちています。
いつまで製造されていたのかは手元に資料がないため不明ですが、おそらく2002年を迎える前に、製造開始から1年と経たず製造中止になったと思われます。何故なら時折ヤフオクやebay、メルカリなどの個人売買サイトに出品されるスベロンのフットナンバーを見ると、全て頭が「01」から始まっているから……。ただ、海外のウェブサイトを見ているとどうやらパッケージの種類が複数ありますので、少なくとも複数ロットに渡って生産されてはいそうです。この辺り、詳しい人がいたら是非コメントください!
昔からアブのリールには独特の思想で設計された個性的なモデルが多いですが、スベロンの異形っぷりはその中でも群を抜いています。最大の特徴は「センタードラグ」を搭載していること。一般的にスピニングリールのドラグはスプールの中かボディの後端に設置され、前者は「フロントドラグ」後者は「リアドラグ」と呼ばれていますが、「センタードラグ」のモデルはスプールの直下にドラグワッシャーを内蔵しています。センタードラグのリールはフロントドラグのように大口径のワッシャーを搭載できて、かつリアドラグのように糸が勢いよく引き出されている間も高い操作性を保てる(ドラグの強さを変更する際にラインローラー付近を触らなくて良いから)というメリットがありますが、他2つの設計に比べてリール本体が重くなるという欠点があるせいか、あまり普及しませんでした。アブガルシア独自のドラグシステムといえば、他にもクローズドフェースリールの500シリーズや一部の大型アンバサダーに搭載されている「シンクロドラグ」がありますが、こちらが現在もヨーロッパ圏の鯉釣り用モデル(最新型は506MK2)などで採用されているのに対し、センタードラグはゼロ年代前半を最後に全モデルで廃止されています。今は幻となったドラグシステムを採用した、最後のスウェーデン製スピニングリール。そんなスベロンは製造中止から長い時が経った現在も一部のファンから熱烈な支持を受けており、Facebook上にはスベロンファンが集うコミュニティも存在します。
前置きが長くなりましたが、そろそろレビューに入ります! 筆者が所有しているのは2番目に大きなモデル「Suverän S3000M」です。まずはスペックから見ていきましょう。パッケージ裏に貼ってあるシールには、以下のように表記されています。
・革命的なニューセンタードラグテクノロジー
・押し出し成型のアルミボディ
・7つのステンレススチールボールベアリング
・ステンレススチールウォームギア
・マシンカットのブラスメインギア
・マシンカットのウォームギア用オシレーションシャフト
・インスタントアンチリバース(※遊びのない逆転防止ストッパーのこと。現代のほぼ全てのリールに搭載されています)
・大きなベアリング入り糸ヨレ防止ラインローラー
・ずっと消えないレーザーエッチングのコスメ
・革製リール袋付き
・ギアレシオ 5.2:1
・ラインキャパシティー:10ポンドラインを140ヤード(※約128m)
・重量:13.5オンス(※約387g)
・ハンドル1回転あたりのライン巻き取り量:26インチ(※約66cm)
まず気になるのはその重量でしょう。シマノの3000番に相当するサイズ(しかも現代のリールよりかなり小径のスプール。深溝なので糸巻き量は多いですが)でなんと383g!!! ちなみに同クラスの普及価格帯現行シマノリール「セドナC3000」は250gなので、重量面では圧倒的なハンディを負っているといえるでしょう。ハイエンドリールなら半分の重さのモデルすらありますね。現行リールと比較するのは酷ではないか?と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、古いリールだからといって必ずしも重いわけではなく、同クラスのセンタードラグ搭載リールである「カーディナル704」は約300g、1970年代に製造されていた「カーディナル44」ですら約315gですので、スベロンの重量は例外中の例外です。
ウォームギアを採用しているのもスベロンの珍しいところですね。ウォームギアは名作・カーディナル33/44でも採用されているアブお得意のシステムですが、巻き上げ効率が低いためこのシステムを採用したリールはハンドルの回転が重くなります。ただ、巻き心地自体は滑らかで心地よく、わずかな力が掛かっただけでも巻きの重さが変化するため水中でルアーがどういう状態にあるのかを感じ取りやすい=巻き感度が高いため、ウォームギア自体が一概に悪いともいえません。筆者の個人的な感覚ではありますが、スベロンはハンドルが高剛性かつ握りやすい形であることが低い巻き上げ力を補っており、実用上十分なパワーを備えていると考えています。少なくとも、ファイト中に適切なポンピングを行える人であれば、相当に大きな魚をヒットさせたときでも問題なくやりとりできるはずです。
ウォームギア+センタードラグの組み合わせは、魚が掛かった後もゴリ巻きせずにある程度魚を走らせ、ドラグを活用しながらやり取りするような釣り方にはピッタリじゃないでしょうか。筆者はバラマンディの釣り堀で50cm・2㎏強の個体を1分ほどかけて取り込みましたが、やっぱりセンタードラグは焦りがちなファイト中も使いやすい! 操作性だけでいえばリアドラグのカーディナル33/44シリーズも負けてはいませんが、走っている魚を「止める」力は大口径ドラグワッシャーを使用したスベロンに分がある印象です(筆者はカーディナル44も所有しており、主にナマズ釣り・鯉釣りに使用しています)。ただ、これはスベロンならではというよりセンタードラグ搭載モデルすべてに共通する長所ですので、実釣目的ならわざわざスベロンを導入しなくても、遥かにお安いCDシリーズやカーディナル600/700シリーズの方が便利かと思います。どれもスベロンよりずっと軽くて、長時間の釣行でも疲れませんし……今はもはや状態の良い個体を探すのが難しいですけれど。その点、スベロンはコレクション目的で箱に入ったまま保管されている個体が多いので、2023年の現在もある程度の出費さえ覚悟すれば新品ないし極美品が手に入りやすいです。
ただ、アブガルシアのスピニングリールに同じ金額を出すなら最新型の「ZENON」が買えてしまう(なんならZENONの方が5000円~1万円くらい安い)わけで、よほどこのリールに対して興味がある方以外にはやっぱりおススメできません(笑)。筆者は相場より若干安い金額でスベロンを入手しましたが、それでも販売当時の価格は上回ってしまいました。
長くなってきたので、スベロンについてここまで記した内容以外のいいところ・悪いところを箇条書きで列挙します。以下、すべて筆者の個人的な感想ですのであしからずご容赦ください。
〇メインギアへのアクセスが簡単なので注油しやすい(ネジを3つ外すだけでギアがむき出しになる)。
〇ハンドルのガタツキが他のセンタードラグ搭載モデルと比較して大幅に少ない。
〇共回り式ハンドルの「ハンドルの左右入れ替え時にハンドルキャップを落下させやすい」という欠点を設計上の工夫で解消している(そもそもハイエンドリールなのにねじ込み式ハンドルじゃないのかよ!とツッコミたくなりますが、センタードラグ搭載のリールは全モデル共回り式なので、設計上仕方ないのかもしれません。同じくウォームシャフトを採用しているカーディナル44がねじ込み式ハンドルなんだから何とかならなかったのかな、とも思いますが……)。
〇スプール径が小さい割にライントラブルが起こりづらい(気のせいかも)。
〇ドラグ設定を維持したままスプールを交換できる。
〇eBayなどでリペアパーツが2023年現在でも入手可能(もちろん100%いつもあるわけではない)。
△逆転防止ストッパーの形が独特で、慣れるまでは操作に戸惑う(慣れても操作に力がいるので、普通のストッパーより使いづらいと思う)。
×重すぎるせいでキャスティング時にロッドをピタッと止められず、ルアーを水面に叩きつけてしまうことがある。
×重すぎるせいでトゥイッチやジャーキングが疲れる。
×カバンに入れて持ち運んでいてもずっしりと重さを感じる。
×とにかく重い。
×重い……。
ざっとこんなところでしょうか。要するに「様々な実用的長所を持つが、重さがその全てを帳消しにしている」リールというわけです。もちろん、スベロンが意欲作であることは間違いありません。それに、フラッグシップモデルとしてなら既に評価が定まっているリールの軽量版など手堅く売れそうなモデルを作るという手段もあったでしょうに、こんなヘンテコリールを世に送り出したアブガルシアのチャレンジ精神には拍手を送りたいです。ただ、正直にいって全く実用的なリールではありません…! とりわけジャーキングやトゥイッチングなど、ロッドを操作する機会の多いルアーフィッシングには全く不向きでしょう。それでも筆者は使いますがね! センタードラグ愛好家の意地で!!
最後になりましたが、この記事を読んでスベロンを使ってみよう! と思い立った読者諸兄姉(いますか……?)のために、ひとつご提案を。スベロンを組み合わせるロッドは、できるだけ重くてグリップの長いロッドがおススメです。筆者は7.1フィート、ミディアムアクションのグラスコンポジットロッドを使用していますが、さらに持ち重りのするロングロッドでも良さそうな印象を受けます。キャスティングを両手で行うのは当然として、ファイト中や重めのルアーをリトリーブしている最中にグリップエンドを腋に挟みやすいロッドだと、スベロンの重量をかなりカバーできるように感じました。
いきなり話が飛ぶようですが、『釣りキチ三平』に登場する名物キャラクター・谷内坊主は作中でABU 507(これも350g以上ある重いリール)をダブルハンドロッドに付けて、キャスティングからリトリーブ、ファイトまで常にグリップエンドを腋に挟んだ状態で行うという変わった釣り方をしていました。これは倒木やボサなどの障害物が多い釧路湿原において、コンパクトにロッドを取りまわすための方法なのだと推察されますが、手と腋の両方でタックルを保持することでリールの体感重量を軽減できるというメリットもあるかもしれません。もちろんリールのボディそれ自体を掴める500シリーズと、普通のスピニングリールであるスベロンでは全く同じ使い方はできませんが、利き手だけではなく腋や肘なども用いて複数個所でタックルを保持するということを意識するだけでも大分楽になるはずです……そもそもなんでそこまでして、スベロンを使わなくちゃいけないんだという疑問は抱かないでくださいね(笑)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?