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ルアーマンよ、フライマンよ、たまには延べ竿で釣りしてみようぜ!! って話

「今どきはリールがついていない竿で魚を釣ったことがない人だっているからねェ。わしの若い頃は釣りといえば竹の延べ竿で近所の川に住んでいる魚を捕るものじゃったが……」みたいな言説はいま37歳の筆者が小学生の頃から既にありましたので、最近の若いルアーマン・フライマンは当時よりもなおさら、リール付きのロッドのみで釣りをしてきた人が多いでしょう。そういった若きアングラーの中にはオジサンが昔ながらの道具を薦めてくることに辟易としている向きもあるかもしれませんが、もし今までの人生で延べ竿を使ったことがないなら、一度だけでも 試してみると新たな釣りの楽しみに出会えるかもしれませんよ! ……え、すでに高性能なタックルを持っているのにわざわざ原始的な道具を使う意味が分からない? まぁまぁそう邪険にしなさんな、オジサンのいうことを聞いたらきっと気持ちよくなれるからサ……ぐへへへ。

▲都会のオアシス・市ヶ谷フィッシュセンターでは気軽に延べ竿での大物釣りが楽しめる。

さて、延べ竿の特徴を理解するためには、まずリール竿との違いを知らなくちゃいけませんよね。以下にリール竿と延べ竿、それぞれの特徴を列挙してみます。

【リール竿】
①キャスティングできる
②ドラグを利用したファイトができる
③竿とリールを組み合わせて使うので、タックル総重量が重い
④狙う魚が同じ場合、延べ竿より短いものを使うケースが多い

【延べ竿】
①竿の長さ+糸の長さ+αの範囲しか狙えない
②ドラグがないため、竿と糸の強度を超える負荷に耐えられない
③竿と糸と針だけでタックルが完結するため、軽い
④狙う魚が同じ場合、リール竿より長いものを使うケースが多い

こう並べてみると、延べ竿はとても不自由……というか「人間側でなんとかしなくちゃいけない部分」が多い道具であることが分かります。仕掛けを投げられないから狙いたいポイントに自ら近づく必要があるし、魚を掛けたあとは常に竿と糸の強度を気にしながらやり取りしなきゃいけないし。じゃあ岸から近い場所にいる小さい魚を狙うならリール竿と同じように使えるのかというと、そのような場合も水際から離れてキャスティングできるリール竿と違って、気配を殺しながら撃ちたいスポットにそ~っと寄っていかないと獲物が逃げます。延べ竿はとかく甘えを許しません。

▲キャスティングできない延べ竿でも、船に乗れば沖の魚を狙える。遠浅なのが条件だけど……。

が、これこそが延べ竿のイイところなのです!  延べ竿を使って釣りをしていると、自然と"人間性能"が鍛えられます。先に書いたことの繰り返しになるようですが、広い範囲を探れない以上は仕掛けを撃ち込む前に地形や水の流れを見て魚がいる場所の見当をつけるようになりますし、ポイントまで近づくのにも身を低くして、足音を立てずそろそろ歩くクセがつくでしょう。首尾よく魚を掛けられたとしても、それが抜き上げられないほどの大物だったら大変です。リール竿ならドラグ機能に任せられる糸の出し入れを、身体一つで行わねばなりません。当然ながら魚の側に送り込める糸の量には限界がありますから、竿の弾力と糸の張力を限界まで使って相手に負荷をかけたり、岸から遠く・水面から深くに逃げられないよう魚体の向きをコントロールする技術が求められます。

▲2号のラインで50cm強の鯉を掛けてしまったときの写真。緊張感のあるやり取りだった。

なんだか延べ竿での釣りを修行のように記してしまいましたが、釣り人ならこれがとっっっっても面白いコトを分かって頂けるんじゃないでしょうか。延べ竿での釣りは高性能なリール付きのルアー・フライタックルを用いたそれとはまた趣が異なる、プリミティブで"狩り"もしくは"漁"のような雰囲気が味わえる釣りです。未体験の方はぜひ! お近くの釣具店で3m程度の延べ竿をお求め頂き、まずはパン鯉あたりから挑戦してみるのはいかがでしょうか。せっかく新しい道具を買うのだから、ルアーやフライではまず狙えないターゲットを釣れるタックルが良い……という方は、小物竿とタナゴ用の仕掛け、グルテン餌を使って里川の小物たちを追いかけてみるのも面白いでしょう。タナゴはやや難易度が高めですが、クチボソや淡水ハゼの仲間なら、いる場所に仕掛けを垂らせば簡単に食ってきますよ。

▲全長数センチしかない魚の口に針を掛けて釣れるのはタナゴ仕掛けならではの面白さ。

また、今まで釣りをしたことがない人に初めて釣りを体験してもらう場合にも、延べ竿は有用です。我々釣りキチはリールの取り扱いに慣れすぎてしまってもはや忘れているかもしれませんが、例えばベイトキャスティングリールを用いて仕掛けをバックラッシュさせずに投げたり、スピニングリールで適切なフェザリングを行ったりできるようになるまでには、結構な量の練習を必要としませんでしたか? せっかく自然を相手にした魚釣りという遊びに興味を持ったのに、機械をうまく使えないせいでそれが堪能できないとしたら、さすがに勿体ないですよね。その点、延べ竿は持ち上げて仕掛けを水面に垂らしさえすればOKですから、誰でも竿を持ったその瞬間から釣りを楽しめます。ファミリー層が訪れるようなニジマスの管理釣り場には必ずといっていいほど竹の延べ竿が置いてありますが、これは子供から大人まで誰でも簡単に釣りの面白さに触れられるようにとの配慮でしょう。

▲リールの扱いがおぼつかない幼児にも、延べ竿なら気軽に渡せる。

そうそう、最後になりましたが延べ竿の大きなメリットを記していませんでした。それはズバリ"値段"です! 竿とリールの両方を購入しなければならないリール竿に対し、延べ竿は竿と糸だけでタックルが完結しますから、相対的にだいぶ安く済みますよ。たとえば上の写真で筆者の息子が持っている振り出し竿「インジェクター」は3,399円です。これ一本でクチボソクラスの小物から50cm超の鯉まで狙えるワケですから、コストパフォーマンスは相当に高いといえるでしょう。 また、小物釣りの定番モデルとして知られる「万能小継」はなんと実売価格1,500円程度! これなら家族で釣りに出かけるとき、人数分の竿を購入しても大した負担にはなりませんね。安い・楽しい・釣りの技術を磨ける……と三拍子そろった延べ竿は、ルアーやフライをやりこんでいる人にこそ一度試して頂きたいです! しつこいようですが、わずかな出費でこんなに面白い釣りができるんですから挑戦しないテはありませんよ。

――え、延べ竿だから一概に安いとはいえないだろう、鮎の友釣り竿についてはどう説明するつもりだって? ……そんなのは知らない子ですね……。


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