【8/31】盗塁得点(wSB)の世界~セイバーで考える盗塁の価値を再現~(徳)
0. はじめに
今回は「セイバーメトリクス入門 脱常識で野球を科学する」(蛭川皓平著)を読んだ際に、印象に残った「盗塁得点(Weighted Stolen Bases Runs)」を紹介し、実際に再現してみたい。
最近、ロッテ和田の活躍が著しい。昨年日本代表にも選出され、一躍シンデレラボーイとなったソフトバンク周東や元投手で類まれな身体能力で代走として一軍に定着したオリックス佐野に、今季は投手として登板するなどユーティリティ性が留まるところを知らない巨人増田など「代走」を足掛かりにブレークを果たした(果たしそうな)選手が多くいる。彼らの代走稼業は言わば「ゼロか百」。盗塁死してしまえば、一気に流れが相手に行ってしまう可能性がある、リスキーな仕事である。その中で「盗塁」の価値を考えてみたいと思う。
1. (加重)盗塁得点とは
盗塁得点とはなんだろうか。
前出の「セイバーメトリクス入門」及び盗塁得点のwikipediaによると
「同じ出塁機会でリーグの平均的な走者が盗塁して稼ぐ得点」
のことであるとのこと。
式としては
wSB = A-B×C
・A=(盗塁数×盗塁得点)+(盗塁死数×盗塁死得点)
・B=(リーグ総盗塁数×盗塁得点+リーグ盗塁死数×盗塁死得点)/(リーグ総単打数+リーグ総四球+リーグ総死球ーリーグ総故意四球)
・C=単打数+四球数+死球数ー故意四球数
として定義されている。計算上、Bでリーグ平均の「出塁機会に対する盗塁の利得(前出:蛭川著より)」に選手の出塁機会を掛けたことで、このぐらい塁に出ればこのぐらいプラスがあるという標準値をリーグ基準で出している。
(そのため、同じ盗塁数/盗塁死数でも、リーグ全体でBがプラスである時は、自力で出塁した回数が多い選手ほど、逆に盗塁得点は低くなる(?))
盗塁成功=必ずそのランナーがホームに生還するわけではないので、もちろん「盗塁得点=1 盗塁死得点=-1」なんてことにはならないが、一般的には「盗塁得点=0.2 盗塁死得点=-0.4」であるらしい。盗塁がいささかリスキーであることがこのことからもうかがえる。
今回はこの「盗塁得点=0.2 盗塁死得点=-0.4」の設定の下、前掲の数値に実際の公式記録にあてはめて考えてみよう。
2. 検証結果
(図) 両リーグ全体・球団別の盗塁/盗塁死/四球/故意四球/死球数データ
(図)2020.08.31現在 セリーグ盗塁数上位10傑の仮wSB(盗塁得点)計算
(図)2020.08.31現在 パリーグ盗塁数上位10傑の仮wSB(盗塁得点)計算
計算したところ、セはB=-0.00124, パはB=0.00207であった。
(パシフィック)
16盗塁1盗塁失敗の現在盗塁王ロッテ和田・10盗塁で盗塁失敗ゼロのオリックス佐野が高い値をマーク。代走で出場も多い2人だけに、警戒される中で確実にチームにプラスを生んでいることがわかる。
全体的にパリーグの上位勢は盗塁失敗が少なく、10傑の中に盗塁得点がマイナスになる選手はいなかった。日本ハムだけ少し少ないが、おおむね各球団30後半~40前半程度の盗塁数をマークしている。
その中でも、成功率が7割に到達していない2球団(西武・オリ)が下位2球団となっていることが少し興味深い。盗塁失敗でのアウト献上はここぞに響いている証といえるかもしれない。
(セントラル)
パと違い、10傑内に盗塁得点がマイナスとなっている選手が数名いる。各々、盗塁成功率が他選手に比べ少し劣るため、やはり「アウトを1つ献上すること」が重くのしかかっていることがうかがえる。
セリーグの方がクリーンナップを打つ打者が走っている傾向にあり、またDHが無い影響か故意四球(申告敬遠)数が多く、そのため指標がわずかながら下がる要因となっていた。
(ちなみに)
この指標、DELTAの公式サイト(転載は出来ない)で発表されており、自分で出したものと比較すると数値に多少ずれはあるものの、おおむね一致していた。
3. 最後に
今回の記事では、最近読んで「これ楽しそう!!」と思ったものを再現してみた。再現することにより、セ・パのでの盗塁の違いや和田・佐野・増田といった代走の選手が高い盗塁成功率の下、チームにプラスの影響をもたらしていることがうかがえた。
これからレギュラーを狙う3選手は、定着後、出塁機会が増えるほど、毎機会走れるわけではないため、この数値が下がってしまう可能性がある。しかし、信じられないことに昨年の1位は山田哲人で数値はなんと3.9であった。(2位は中日大島で2.1) よってレギュラー定着後もwSBを高く維持することは可能であるともいえるかもしれない。
「走り屋」の指標的な争いにも注目してみたい。
文責:徳