
あひろ屋7🍭懐菓子の『生八つ橋』(905文字)
妻は甘いものが好きで、甘いものがないと不安定になっちゃうのだけど――、
僕は元来、さして甘味を好まない(甘いものではなくて、お酒がないと不安定になっちゃうタイプ💦?)
――そんな僕なのだけど、好物のお菓子があるにはある。
生八つ橋。
中学時代の修学旅行で、宿に着いたとき、部屋のテーブルの上にこれがあった。
「お、食っていいのかな!」
同部屋のクラスメートが、競うように食らい付いた。
けれども――。
「げっ」
「なにこれ」
「へんな味」
「まずっ!」
と僕を除く4、5人が口々に言った。
中学生は、ニッキの、あのかぐわしい味が苦手だったのかもしれない。
お菓子に興味のない僕はいちばん遅れて、ぼんやりと一つを口にした――。で、
「――ん?」
と思った。
「美味しいじゃん!」
と口をついて出た。
「まじかよ??」
と仲間は驚いた。
「おまえ、こんなまずいもん好きなの??」
「美味しい、美味しい」と僕は応えた。
本当に美味しかったのだ。
耳たぶみたいにもっちりと、かつひんやりとした皮(いや、耳たぶはまだ食べたことなかったけど💦)、
その味たるや、まさに、雅!
雅、だなんて言葉を知らない中学生は、
「なんかお線香のかおり!」
と表現した。
「うぇーっ、線香だってよう、ナンマイダーナンマイダー!」
みたいに仲間は囃し立てたけど、
僕は気にせずもぐもぐと、大事に自分の生八つ橋を食べた。
「よかったらオレの2個めやるよ!」
と一人が言った。
「もらう、もらう」
と言って僕は2つめの生八つ橋を食べた。
美味かった。
いくらでも食べられる気がした。
「オレのも食うか?」
と別の一人が面白がって言い、
「食べる、食べる」
と僕は3つめを食べた。
結局――、2つずつだったかあった生八つ橋を残らず一人で平らげてしまった。
「おまえ、大人の味がわかる男なんだな」
とか仲間の一人が感心したように言った。
そのあとみんなでお風呂に入って、浴衣に着替えてご飯になったんだけど――、
僕はもうお腹がいっぱいで、
湯飲みのお茶ばかりを飲んでいた――。
――「生八つ橋買ったら食べる?」
と妻に尋ねた。
「食べる、食べる!」
と妻は、
あの頃の僕みたいに応えた。
イラスト:メイプル楓さん
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