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アルゼンチンタンゴとシメイと天板の厚いテーブルのはなし(2345文字)

酔っている。
酔いに任せて書いてしまう。
そして朝を待たずに、読み直すこともなく投稿してしまおうと思う。

テーブルを買ったのだ。天板の厚い、アンティークな雰囲気の。

悪くない。
そう思って、テーブルくんのウェルカムパーティーを開くことにした。

妻と飲んで、食べて、夜が更けて、妻は眠り、僕は独りでテーブルと差し向かい。

すでに酔っていたけど、まだ酔いたくて、シメイの白をグラスに注いだ。青が好きなのだが、今夜はなぜだか甘くないタイプが飲みたくて。

で、YouTubeでアルゼンチンタンゴを掛けた。なぜかというと、むかしよく通っていたカフェバーのテーブルを思い出したから。アルゼンチンタンゴが流れていたその店の名前は『ミロンガ・ヌオーバ』。勤めていた会社のある町の、古くからある喫茶店(僕的にはカフェバー)だった。

分厚いテーブルに屈んでよく原稿を書いていた。片手には勿論ベルギービール。酔っ払うと筆が進んだ。

筆が進まないときもあった。深く沈み、ただひたすらタンゴに耳を傾けているような。例えば、一緒に住んでいた女が先輩にヤられちゃったときだとか。

妻と結婚する前に僕は、別の女性と結婚し、そして離婚しているのだが、それよりさらにずっと前、ある女性と婚約し、世田谷の、小さな庭付きのテラスハウスで同棲していた。これがたいそうな美人であった。いや、今の妻も、前の妻も、みんな美人だ。って書いとかないと、万が一妻がこれを読んだとき面倒なことになる。だなんて酔った勢いでバカなこと書いてるけど、ま、しかたない。そんな夜だ。

さて、同棲していた美人のことだけど、互いの足首に、Yes, we are crazy! って彫ろうか、だなんて言い合っていたんだから、いかにイカれた関係だったか容易く想像していただけると思う。

彼女はライターで、僕の所属する編集部に出入りしていたんだけど、隣の編集部に、とてつもなくセクシーな男性編集者がいて、この人は僕のゲロを素手で掃除してくれたことのある人で、僕は彼をたいそう慕っていたのであるけれど、ドイツの古城での結婚式を1ヶ月後に控えていた彼女ったら、もう、ちくしょうめ、食べられてしまったのであるよ、よりによって彼に(彼女の名誉のために書いとくけど、彼を拒める女はいない。少なくとも僕は知らない。それが彼の名誉であるかどうかは知らんけど)。

詳しくは書くまい。
彼を殴って、彼女を追い出した。他に何ができる?

でもって、アルゼンチンタンゴなのである。
僕は潜った。深く潜った。そして考えた。なぜ彼女は?? なぜ彼は?? なぜ僕は?? さながら名探偵、いや迷探偵、いや瞑探偵、っつか端的に酩探偵よろしく。

アルゼンチンタンゴが響くんである、とぐろを巻くんである、ぐるぐると。

赤黒い情熱みたいなのが僕を灼いて、眠れなくなり、痩せて、ギラギラして、バカみたいに仕事をした。すなわち会社の机のみならずミロンガ・ヌオーバのテーブルでも原稿を書いた。
そして手を止め、ベルギービールを飲み、目を閉じ、タンゴに身を任せ、深く潜り、しばらくすると浮かんで原稿を書き、すぐにまた手を止めて、潜り……。

センチメンタルにしてロマンティックな悩み方ができていたのであるな。若かったし、平和だったし、仕事もあったし、金もあったし、仲間もいたから。

それから、別の相手と結婚して、傷つけ合って離婚して、ずいぶん経ってから今の妻と結婚し、いろいろあって仕事を辞めて、移住し、静かに暮らしながら、他方でひどく現実的な苦しみを苦しんでいたりする。

ベルギービールで酩酊し、分厚い天板のテーブルに肘を預けて、おめでたかった頃の潜水を思い出し、シメイの甘さと苦さの深い意味を改めて知る。

酔える程度の苦しみに、戯れのように灼かれてご満悦だった頃の僕よ、と今夜の僕は呼び掛けたい。確かにおまえはcrazyだったよな。でも、ま、今のこの俺もかな? たぶんな?

まだまだ青い僕なのであるから(おいおい、いくつだよ?)、やはりシメイはブルーが似合うのであるよ。だなんて酔っ払いめ、何を書いているんだかもうわからないよ。

最後に1つ、このしょーもない文章を最後まで読んでくださっちゃったあなたのために。不思議な話をしたためて終わりにいたしましょう。

僕と結婚するよりずっと前に、妻、親元を離れて2年程、世田谷のマンションAで暮らしていた時期があるらしいのですが、最近になって判明したことには、なんとA、かつて一緒に暮らしていた「あの女性」が、僕と住み始める前と、僕との同棲を解消したあとに住んでいたマンションなのでありました。なんたる偶然。
しかも時期もまんま重なっているのですよ。妻とくだんの女性は同じ時期、同じマンションに暮らしていたんですね。
というか僕らが同棲していたテラスハウスは、マンションAからすぐのところにありましたので、つまりは僕も、あの時期、まったくの他人であったところの未来の妻と、同じコンビニに通ったり、同じマックでハンバーガーを食べたりしていたのでありますねえ。
いや、びっくり。結婚するより10年近くも前に僕ら夫婦は、互いを知りもしないまま、そのようなエニシで「むすぼれていた(量子力学?)」のだなあ……、だなんて思いながら飲むシメイは、またずいぶんと深いところにある模様を浮かび上がらせてくれちゃうわけです。

いろんなあれこれはすべて今夜この時に向けて生じていたのでありますなあ。

アルゼンチンタンゴとシメイの夜が更けてゆきます。ぐるぐると。

妻を大事にしようと思います。と、わざとらしく書いときます。でもまあ本音です。酔ってはいるけどたぶん本音です。――今の僕らのこの日々は、たくさんのムクロ(!)の上に鎮座ましましているわけだから^^;

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あひろ
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