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アートと発達心理学が交差するとき,何が始まるのか?:「心と暮らしをよくするために──道具・素材から考えるアートと発達」事後レポート

 楽しくて、豊かな生活のためになる心理学を考え、実践していく。
 その一環として、ほんのちょっとかもしれないけど、とっても大事な変化のきっかけになるようなイベントを企画する。
 そのような想いのもと、2024年12月8日(土)にトークイベント「心と暮らしをよくするために──道具・素材から考えるアートと発達」を開催しました。
 本記事では、荒川出版会メンバーがイベントの事後レポートを公開します。レポーターは、荒川出版会の古川貴文(ふるかわ・たかふみ)です。

こんにちは,荒川出版会の古川です.
2024年12月8日,アーティストの永岡大輔さんをお招きして「心と暮らしをよくするために──道具・素材から考えるアートと発達」というトークイベントを開催しました.

登壇者は以下の通りです.
・永岡大輔(ながおか・だいすけ)さん
・北本遼太(きたもと・りょうた)さん

永岡さんはドローイング制作や映像制作など多彩な顔を持つアーティストであり,荒川出版会の副会長でもある北本さんは発達心理学の専門家です.

本イベントでめざすことは「私たちの暮らしをよりよくしていくことを考えていく」であり,その道筋をアートと発達心理学をかけあわせながら見つけることをイベントの趣旨としています.

イベントのアーカイブ購入はこちらから.

以下では,その様子をダイジェストでお伝えします.

永岡大輔さん(左)と北本遼太(右). 緊張の面持ち.

関係なさそうに見えることが実はつながっている

冒頭,北本さんからフレド・ニューマンらによる『みんなの発達!—ニューマン博士の成長と発達のガイドブック』(新曜社,2019)の文章を引用しながら,「発達とは活動である」という説明がありました.具体的には,発達とはみんなでやろうと決めて取り組むことであり,今の自分とは異なる自分に変わり続けていくことであると述べました.
続けて北本さんは,うまくいっていることにも注目しながら生活全体を見直すことで,強みを含めた生活全体に関わる条件の中で問題が変形し,それにより「取っ掛かり」がうまれて問題を含めた全体が回り始めること,そしてそのプロセスにかかわることにみんなで取り組むことを発達とするニューマンらの考えを紹介しました.

フレド・ニューマンの発達の考え方①
『みんなの発達』を参考に北本が作成
フレド・ニューマンの発達の考え方②
『みんなの発達』を参考に北本が作成
フレド・ニューマンの発達の考え方③
『みんなの発達』を参考に北本が作成
フレド・ニューマンの発達の考え方④
『みんなの発達』を参考に北本が作成

この話を受けて,永岡さんも「全体性の観点から,一見すると離れて関係なさそうに見えることが実はつながっている」ことは,自分のプロジェクトを進めるうえでしばしば経験することである,と語りました.ものごと単独で考えるのではなく,全体の中での位置づけも含めて考えることが大切なのでしょう.

「新しい身体と出会う」とはどういうこと?

永岡さんの「球体の家」プロジェクトは,生活で関わるすべての物事について,具体的な作品や実験として変わり続けることを促すプロジェクトです.初期の平面的な絵画イメージから,衣食住という具体的な観点や体験から家を考えることで大きくプロジェクトが飛躍したこと,プロジェクトで協働する仲間との出会いに恵まれたことを紹介しました.さらに実体験を元に,偶然出会ったある人が,問題を含めた全体が回り始めるための取っ掛かりとなる人物である可能性もあると語ります.

永岡さんの話を受けて,北本さんは活動には仲間づくりが非常に大切である一方,活動をともに行っていくなかで「仲間」に見えていくこともあると話します.これは人間関係の発達であり,活動と仲間づくりの円環構造があるということです.また,アルコール依存症の自助グループなどをごちゃ混ぜにしたさまざまな集団同士で話す中で,解決の取っ掛かりを探る方策をニューマンらが取っていたことに触れ,異質な他者としても多様な仲間がいることの重要性を示唆しました.

永岡さんは具体的なプロジェクトとして,「床が球体になったらどうなるのか」という生活実験について話します.球体の床で寝ようとすると転げ落ちてしまうのですが,それを頭の中だけでなく実際に身体で具体的に体験することに意味がある.このようにフィジカルで考えることを「新しい身体と出会う」と表現しています.

たくさんの写真を参照しながら「球体の家」プロジェクトについて語ってもらいました!

プロジェクトはまだまだ続く

休憩を挟んだ後半では,今回のトークイベントの副題にもなっている「道具」について話が及びました.道具というのはある目的を果たすために使われる器具であり,これは建築物を起点とする場合には建築空間と身体を取り持つものと考えられます.そして土器という容れ物は,焼く温度が低くても作れるものの,水が漏れやすく壊れやすい.しかし家が転がって容れ物がすぐに壊れる世界観では,作りやすいために使い勝手の良いものになる,と永岡さんは語りました.

続けて「道具には,道具に見える何かがある」と永岡さんは言います.この話を受けて北本さんは生態学的心理学という考え方を紹介しました.これは既存の知覚観に関するコペルニクス的転回とも言える理論で,わたしたちが行為することによってものの見方が変わるとするものです.永岡さんはプロジェクトの一環として,道具を道具たらしめる要素を探るための実験をしており,これと生態学的心理学との類似性が言えるかもしれません.また,永岡さんは合理性を得た道具になる前の状態,いわば「未道具」の試作を通して,道具を道具たらしめる要件や構造を理解しようと実験を繰り返しており,プロジェクトはまだまだ続くようです.

その他,さまざまな質問が会場から出て,活発な雰囲気のなかでイベントは終了しました.

 議論の詳細は,ぜひアーカイブ動画でご覧ください!

躍動感あふれる説明をする永岡さん


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