郷土紙という超ローカル新聞(連載12)警察とファッション関係のプレスは同じ?
【青焼きもらってきて】
取材を終えて帰社する途中に新聞社から電話がかかってくることはよくある話。出たついでにどこかもう1件寄ってきてほしいとか、○○で資料をもらってきてくれとかいうついでのおつかいです。
新人のころは、それがたくさんありました。。
この当時、すでに携帯電話を社会人の大多数が持っていたため、すぐに用件を確認できました。ポケベル時代はいちいち公衆電話を探すかサボっている喫茶店からかけなくてはいけなかったため、より大変だったのでしょう。
「窃盗事件の犯人逮捕の発表があったから警察に行って青焼きをもらってきて」
と編集局長。
「青焼きってなんですか?」
「行けばわかるから」
「はぁ…」
行けばわかるといわれたら、それ以上説明を求めるのもなんですから本郷警察署(仮称)に向かいました。田舎の小さな警察署です。一応、記者クラブはありますが、県警本部みたいにクラブ室はありません。メディア対応してくれる部署のデスクがある島まで「お世話になります、本郷日報で~す」と適当にあいさつしながら直接向かいます。
若手の警察官が「あ、どうも」といつもの感じで受けてくれたので
「窃盗事件の青焼きをお願いしたいおですが」
と話しかけてみました。
「え、何ですか?」
なんか話が違うぞ。そう思いつつも、行けばわかるという編集局長の言葉を信じてもう一度繰り返しました。
「先程発表のあった窃盗犯逮捕の青焼き…」
「青焼きですか…。 しょ、少々お待ちください」
若手警察官が「青焼き、青焼き…」とひとりごとのようにつぶやきながらヒマそうにしている(本当はヒマではないかもしれない)副署長のデスクに向かいました。
副署長は、私の姿を認めるなりすぐに報道発表資料が置かれている棚に向かいました。そこで1枚の紙を手に私にに近づいてきました。
「青焼きをもらってくるようにといわれたんですけど…」
自信なさげな口調になる私。
「たぶんコレ笑。昔の人の中には、コピーを青焼きっていう人もいるみたいでさ。松濤さん(仮名)に言われたんでしょ?」
ああ、そうなんですね。
手渡されたのは、コピー用紙にプリントされたふつうの報道発表資料。
事件的には何ら特徴のない普通のベタ記事にしかならない事件ですが、青焼きという言葉だけが今も印象に残っています。
たまたま署内のFAXがメンテナンス中で使えなかったため、とりあえず電話連絡をしただけのことでした。
ちなみに青焼きを検索してみたら…こういう結果でした。ほう、なるほど。
【行数が評価基準?】
新人記者の修行ともいわれる警察での事件・事故取材。いわゆる「サツ回り」ですが、一つひとつの事件は、15~30行程度。殺人事件や誘拐事件のような1面と社会面トップに加え時系列ドキュメント、識者の声、被疑者(容疑者)の横顔、過去の類似事件例など多面展開するような大きな案件とは扱いが違います。
事件があった、あるいは事件があって被疑者を捕まえた程度のことです。
郷土紙や県紙の支局程度が出入りしている小さな警察署は、事件があって被疑者を逮捕するとメディア向けに報道発表資料をFAXします。ときには電話で連絡してくれることもあります。新聞やテレビで取り扱ってほしいからです。
警察が報道発表するのは
「泥棒がいたので戸締まりに気をつけて」
「人をなぐったら犯罪ですよ」
「飲酒運転はいけません」
「シートベルトで重大被害を防止しましょう」
と一般市民に注意喚起と啓蒙をするのがおもな目的だといわれています。
報道の自由や適切な情報公開という高いレベルではなく、本音レベルでいえば「警察は、きちんと仕事をしています」というアピールのためではないかと思われます。
さらにいうならばどれだけ新聞やテレビで事件が取り上げられたかが評価の対象になるのではと思ってしまうくらいです。
ネタがない日は、普段なら黙殺かせいぜい15行の扱いの交通事故に対して「事故のあった見通しの悪い交差点」などと後から撮りに行った写真を小さく載せることがあります。
すると、後日署内で副署長とすれ違うとお礼を言われることも少なくありません。
まるで女性誌に自社ブランドの記事が何ページ載ったかも評価の一つになっているプレスの仕事みたいです。
【確認、ツッコミ、また確認】
報道発表があった事件や事故は、担当記者が警察署に行くか電話して詳細を聞きます。
発表資料には、事件概要と被疑者の氏名や年齢、大まかな住所など必要なことは書かれています。コレをそのまま書けば一応記事にはなります。
しかし、事件や事故をそのまま再現できるくらいに細かに聞くことが新人記者の仕事です。
例えば窃盗の被害にあった家の玄関はどちら向きか、施錠は、1ドア2ロックなのかなどもそうです。交通事故にしても車のどの部分が当たったのか、路面状況はどうだったのか、整備は適正だったか… ほんの一例ですが、担当(通常の署は副署長が対応)の警察官にさんざん聞いておきながら、でき上がった記事は15行。お互い仕事とはいえ、多少申し訳ない気持ちは持っていました。
15分くらい聞いて膨大な情報の中から重要な点はどこか考え抜いて15行にまとめます。とはいっても、この手の記事は定型文なので書く部分はだいたい決まっています。
プリントアウトした記事をデスクのところへ。デスクは、読んでいるうちに「その家は生け垣か、ブロック塀か?」「高さは?」などいろんなツッコミが帰ってきます。すでに取材済みならば「侵入口が玄関で無施でした。夜中で雨戸も閉まっていましたので、記事に必要ないと思い書きませんでした」などとドヤ顔で答えられます。
しかし、新人のうちはたいてい「あ」とか「確認します」となって書き直し。
自分のデスクとデスクのデスクというわけのわからないことを書かなければいけないような往復を繰り返します。警察も3回目くらいになるとうんざりした口調になるのが電話口からもわかります。その裏には「自分で現場行って確かめろよ」というオーラが伝わってくることもあります。
最初のころは、記事ができあがるまで確認、ツッコミ、また確認の繰り返しです。
郷土紙とはいえ、こうした修行を2年くらいはやるものらしいですが、私のいたころは人手不足などもあり、比較的短期間で他の担当をすることになりました。
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