郷土紙という超ローカル新聞(連載6) 理想は逆三角形
【結論からね】
新聞記事は、文体が古い以外にも独特の文章があります。
前回紹介した「記者ハンドブック」の最初のほうにも書かれているのですが、新聞記事の基本は「5W1H」+「逆三角形」です。
補足する必要はないかもしれませんが
WHEN いつ
WHERE どこで
WHO 誰が
WHY なぜ
WHAT 何を
HOW どのようにして
で、六何の原則ともいわれますよね。
5W1Hはわかるとして「逆三角形ってなんだ?」ってなりますよね。
理想の体型とボケてしまえば、おおむね合格点です。
いやいや、違います。
正解は「結論から書く」ということです。
話の起承転結のうち「結」の部分である結論から書くわけですね。
以前は、新聞の特徴的なスタイルでしたが、企画書なども今は結論から書くことが主流です。
起承転結の順で書いているのは、今では検察官が書く供述調書と小説、インタビュー記事、ムダに言い回しが長い企業の決算短信くらいではないでしょうか。
【ちょっと切るよ~】
記事は、5W1Hのうち必要な項目と結論をリードと呼ばれる最初の紹介文(リードがない記事なら最初の段落)で書きます。
たとえば事件・事故などの記事なら
○日2時13分ごろ、〇〇市郊外で建物火災があった。
燃えたのは、●○▽町の△□産業本社ビル4階と5階部分。中で働いていた150人は、全員避難。けが人はいなかった。
警察と消防で出火原因を調べているが、4階の分電盤付近が激しく燃えたあとがあり、漏電などの可能性が指摘されている。
この火災によって周辺の道路が一時通行止めになったほか、付近一帯が一時停電し、約150世帯が影響を受けた。
ベタ記事といわれるような小さな事件記事を書くのは10年ぶりくらいなので果たしてこれでよかったのか微妙に自信が消えかけていますが、おおむねこんな感じです。
これくらいの記事でしたら、掲載スペースがないから「切る」なんてことはあまりありませんが、紙面の事情で掲載スペースが少ない場合は、記事をボツ(不採用)にするか、記事の一部を削らないといけない場合もあります。
他の社でもそうだと思いますが原稿を削ることを「切る」といいます。
社内にいる場合、デスクとか整理記者から「araioちゃーん、この記事ちょっと切るよ~」なんて言ってくれることもありますが、忙しいときは、黙ってサクサクと切っていきます
【セイリキシャ】
前出の仮の記事の場合、通行止めか停電が最初に切られる候補です。すでに復旧していることですし、事件全体にあまり影響がないと思われるからです。
それでも掲載スペースが足りない場合は、出火原因です。これは、大きな事件に発展する場合は、その後の記事で追加して書けばいいということになるからです。
10行程度の記事になる場合は
△□産業ビル火災
○日2時13分ごろ、〇〇市郊外で建物火災があった。
燃えたのは、●○▽町の△□産業本社ビル4階と5階部分。中で働いていた150人は、全員避難。けが人はいなかった。警察と消防で出火原因を調べている。
これで見出し1行と記事が約100字なので、1行14字だと7行~8行です。大きな字になった1行11字版だと9行~10行です。
記事を削るのは整理記者といわれる内勤のレイアウト担当の人たちです。ふつうに「セイリキシャ」と読みます。記事が入り混じる誌面を上手く整理して割り付けるからそういわれたと私は、先輩記者からききました。このへんは、全国紙も県紙も同じだと思います。
記事を削る場合は、原則として後ろの段落からカットしていきます。状況によっては、段落内の一部の文章を削除したり、最後の段落は残して途中をカットすることもあります。
一面の記事や重要なニュースは、整理記者と記事を書いた記者、担当のデスクが相談して削ることもあります。
紙面制作は、時間との戦いなので、すべての記事を相談しながら手直ししたり、削っているヒマはありません。後ろから切るという大原則をどの新聞社も採用しているのだと思います。
私がいた郷土紙では、突発的な事件以外は昼過ぎまでに「出稿予定」というのをデスクに社内ネットかメール、電話で連絡しています。その際に各記事の予定行数も伝えるので、それを大幅にオーバーした記事を書かなければ削られることはあまりないです。
都会と違ってのんびりしているので、大きなニュースが緊急的に入ることがほとんどないからです。
【悪文を書いていた人たちが…】
率直なところ、新聞記事は悪文の見本みたいなものです。
にもかかわらずけっこう新聞記者出身の作家もいるんですよね。しかも、文章が上手い人。
警察小説やスポーツ小説などで人気の堂場瞬一さんの作品は、私もたくさん読みました。全国紙、読売新聞出身です。地方紙(県紙)出身の方もたくさんいます。テレビドラマにもなった「盤上のアルファ」などの塩田武士さんは神戸新聞出身です。作家というよりはジャーナリストというほうがしっくりくる江川紹子さんは神奈川新聞出身ですね。
みなさん、元からあった才がコラムや囲みの連載で開花し、悪文から離れることができたんでしょう。
私もできれば仲間入りしたいです。