郷土紙という超ローカル新聞(連載27)年寄りは冬によく死ぬ
新聞社恒例の年末特集記事
新聞の規模を問わず、12月になると掲載されるのが「今年亡くなった人」をまとめた記事です。
本郷日報(仮称)では、おおむね12月後半、各分野別の回顧記事の特集が終わった後に載せていました。
1月からの訃報をすべて集めて掲載するだけで、紙面を埋めるのが楽な記事です。
1年を振り返る新聞社恒例の年末特集記事のひとつです。
12月の後半に亡くなるとまとめ記事に載りません。記事になるような有名人を自覚されている方は、死ぬタイミングに気をつけられたほうがよさそうです。
年寄りは、冬に死ぬ
本郷日報の場合、今年亡くなった人をまとめる特集の担当になったら、まずは社内の記事検索をします。訃報に分類されたものをすべて引っ張り出して、時系列に並べるだけです。
必要に応じて写真を適宜付けます。2面(2ページ)でまとめるので基本的に上から有名順に10人くらい選んでおけばできあがりです。
写真は、いちおうデスクに相談します。よほどセンスのない人選をしない限り、使う写真にNGを出されることはありません。
このほかに評伝が出ていた人の記事を焼き直ししたり、書いた記者にお通夜や告別式、四十九日の様子や、後日明らかになったエピソードを追加で書いてもらうよう依頼します。
「今年亡くなった人」は、ひとつだけ問題があります。この特集は大晦日まで進行中の案件であるということです。
つまり、いつ記事がどのくらい増えるか印刷直前までわからないということです。
しかも年寄りは、冬によく死にます。
ミもフタもない言い方ですが事実です。
お屋敷と言われるレベルの大きなお家でも、従来型の日本家屋の場合、居室以外の気温が低い傾向にあります。この気温差が心臓に負担になるのでしょうか。
年老いたお父さん、お母さんの年金が一家の主要収入源の家庭は、家全体を暖かくして、生存偽装をしなくてもいいように、1日でも長く生きてもらいましょう。
一方で遺産が1日でも早くほしい方は、できるだけ部屋と廊下、お風呂の気温差を大きくしているのでしょうか? おっとこれ以上は私の口から言えませんよ。
死にそう?
このため、11月後半には、地元の芸術家、主要経済人、政治家の健康状態を各部署の記者に問い合わせます。可能な限り連絡を密に取るようになります。
それにしても「普庵後甫先生は生きてる?」とか「入院中の短森軽信会長は死にそう?」などと毎週連絡するのは、精神的にもあまり良くないですね。
この手の情報は、芸術家と引退してだいぶ経つ顧問クラスの役員以外、基本的に機密情報です。結局は取材のかいなくお亡くなりになってから初めて知ることになります。
訃報記事になるような方ですから功成り名を遂げた立派な人物や地元の重鎮がほとんどです。
お亡くなりになるのも事故などの例外を除けば80歳以上の方ばかりです。経済的に余裕があり、安定しているので栄養面はもちろん必要な医療にも早く確実にアクセスできます。平均寿命を超えて生きられる方ばかりです。
まれに、医者の忠告を無視して暴飲暴食に生きる方は60代で紙面の片隅にその位置を占めることもありますが、基本的にお金持ちは長生きします。
医療費負担で高齢者が批判されていますが、意識のない延命治療はともかく、体の異常を感じたら早めに医療機関に行くことが長生きの可能性を高めます。メンテナンス、大事です。
◯◯元市長は二度死ぬ
冬のボーナスこと「寸志」を使い切り、取材先から呼ばれる忘年会もひと通り終わる12月20日ごろ「今年亡くなった人」の記事は完成します。
載せ忘れは「ごめん、ごめん」ですみますが、昨年載った人がもう一度載るのはやってはいけないミスです。
このため、この特集記事だけは本郷日報内でもレイアウトからすべて前年の原稿の流用禁止になっています。
こんな決まりがあるのはなぜか?
そうです。過去、やらかしたパイセン記者いたようです。
原稿は、その年のでしたが写真がなぜか前年亡くなった人のものだったようです。
たまたま某有名スパイ映画が公開されて数年以内だったため「◯◯元市長は二度死ぬ」と話題になったようで…。