赤い境界線
ある日オムライスを作っていたところ、ケチャップが「もう限界です!」と言わんばかりに「ブシュッ」と音を立て、コンロの周りに沢山の生きた証を刻み付けながら見事な最期を迎えた。
フライパンの中には、まだ半分くらい白い部分の残ったご飯。このまま卵にくるんで出したいところだけど、多分、出したら子に「ご飯白い部分があるんやけど?」とトメトメしい事を言われるのは間違いない。
「文句言うなら自分で作って」
と言い返しても
「文句じゃない。事実を伝えているだけ」
なんて子憎たらしいことを言うアヤツ。
「ほんま、親の顔が見てみたいわ!」
と言うたびに
「鏡見てき〜」
と聞き飽きたセリフを返してくるアヤツ。
「どこで育て方間違ったんやろ」
とため息と共に吐き出すのを耳にするたび
「子供は親の思い通りには育たへん」
とドヤ顔をするアヤツ。
誰に似たのか減らず口が減らない(←
おっと、オムライスの話をしていたはずなのに、愚痴になってしまった。
話を戻して。
もちろんこうなることを見越して、ケチャップライスを作り始める前に新しいケチャップの手配は済ましてある。蓋の中の銀色の紙だってちゃんと外したし、ケチャップの勢いでキャップが食材に出されたケチャップにめり込んだりしないように、しっかりとキャップを閉めてあることも確認済み。
でももうちょっと頑張れるはず。
ワタシは蓋を閉めた古い方のケチャップを思いっきり振ることに決めた。蓋とは反対側をしっかりとつまみ、手首を使って勢いよく振る。何度もふることで、もう出ない!となってから大匙2杯分くらいの隠し財産を絞り上げることが出来るのを知っているから。
でもあの日はなぜだかキャップがちょっと緩んでいたみたいで、エイッ!と手首のスナップを最大限に利かせた瞬間、足の甲に冷たいものが乗っかった感触があった。
なんだ?
なんとなく反応したものの、状況を把握することはできていない。歳。惰性で動き続けるワタシ。そして第2陣。
ん?
あれ?
冷たいな。
視界の端に。
赤いもの。
もしや。
……。
あ。
足元を見ると、ケチャップによって足の甲を2分割するために使う補助線が引かれていた。指側の人たちはどこかへ行ってしまう気なのだろうか?さようなら踵さん。いざ参らん新天地へ!
お断りします。
そして、その補助線は足だけにとどまらず、台所を半分ずつに分ける境界線にもなっていた。
「オレ、ガスコンロとシンクね」
「じゃぁ、ぼくは冷蔵庫と食器棚」
ワタシの頭の中で、誰だかわからない二人組がキッチンの領土の分配を始めた。
いやいや、勝手に分けないで。
そんなしょうもない事を考えてしまうくらい、大きなショックを受けたワタシが次に思ったことが
「天井は無事でよかった☆」
と、解決策でもなんでもなかったことに我ながら驚きを隠せない。