後藤ひなた
2024年盛夏。後藤ひなたが約8年続けたアイドルを卒業した。僕はその半分程度の期間しか推してない。すっかり肌寒くなった10月下旬。今でも引きずっている。
もともと、地下アイドルに対するイメージは『自称アイドルとそれを崇める集団』程度にしか思っていなかった。女子小中学生のお遊戯を、薄暗く狭い地下で金を出してみている様は異様だ。僕はそんな異常者にはならない。なってはいけない。ずっとそう思ってメジャーどころのアイドルをなんとなくみてきた。
ところが、3年前の5月、僕はその『地下』にいた。縁もゆかりもない名古屋の小さなライブハウス。東京では3回目の緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出は自粛が求められている中、僕は東京を抜け出した。推しのために買った誕生日プレゼントには手紙が添えてある。
どうしてこうなってしまったのか
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服部桜子
はじめに目がいったのは彼女だった。『はっとりさくらこ』声に出して読みたくなる心地のよい語感。将来性を感じさせるビジュアル。ギターやバレエまでこなすマルチな才能を知り驚いた。
やがて彼女の横にいつもいる女の子に気づく。男性顔で鋭利な顔立ち、奥二重は、完全に僕の好みだった。ときおり衣装とみられる水色のギンガムチェックを着ているが、どうやらメンバーカラーのようだった。
このメンカラも運命的で、もともと僕は赤緑色弱を持っているために、赤が含まれる色があまり鮮やかに見えない。自然、物心ついた時には青系と黄色系を好む傾向があった。
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『ダイスキ!』がリリースされるらしい。
僕は避けていたYouTubeの再生ボタンを押してみた。衝撃だった。地下アイドルに対する今までの偏見が全て砕けた。小中学生がこれほど見事なパフォーマンスができるのかと思った。編集でよくみせているに違いない。今度は彼女たちのライブが収録されている『Girls Bouquet Extra』のDVDを買ってみたが、疑う余地はなかった。見事なパフォーマンスだった。
折良く『ダイスキ!』のネットサイン会なるものがあるというので購入。そしてそこで初めて自分の名前を呼ばれた。アイドルが自分の名前を呼ぶ経験などなかったし、ツイートにリプしていることもしっかり認識してくれていたことが嬉しかった。
地下アイドルっていいかも…こうして後藤ひなたを推すことになっていった。
この後、4年も続くとは思わずに。
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卒業の発表があってもあまり驚かなかった。発表より前に、『その時がいつきても、覚悟ができている。』と手紙に書いていた。予感はしていたのだ。
8年間の活動に終止符を打つことは簡単じゃない。自分のことより相手のことばかり考えるあの子が、自分のために決断できたことが嬉しかった。本当によく頑張ったと思う。
この4年間の思い出を挙げたらキリがないが、大きなところでは、
4回の生誕ライブに行けたこと、5人体制東京ラスト公演でもらい泣きさせてしまったこと、4回目の生誕ライブで最前ガチ恋口上ができたこと、それで推しを嬉し泣きさせたこと、横浜ラストでスタンドフラワーを贈ったこと、最後の定期公演に行けたこと、そこでニンニンのひなたコールができたこと、初恋レボで告白を受けたこと、卒業ライブでありがとうを言えたこと…
そして何より、後藤ひなたを通じて、多くの人と知り合えたこと。
人生の半ば近くになってこれほどの人たちと出会えるなんて想像もしていなかった。
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3年前の5月。初めて推しに会って話したときのこと、まだ鮮明に覚えている。
そしてあのときプレゼントしたハンドタオル、まだ使ってくれていた。あの子の好きな色、ブルーグレーのハンドタオル。