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2/3:えほうまき
「のりまきが山積みですね」
お地蔵さん通り商店街のスーパーで買い物をしているとき、しぐれが言った。
「ああ、節分だからな。これは恵方巻というんだ」
「節分、追儺会から発展した民間習俗。ヒイラギとイワシとお豆とのりまきなんですか?」
「毎年続けていくうちに、いろんな便乗商売が出てきたんだよ」
岳は応えて、目の前の節分コーナーを見た。
福豆、鬼の面、恵方巻と焼いたイワシ。イワシの生姜煮もある。これはしぐれが好きそうな気がする。だが、食べさせていいものかどうか。
「……うーん」
岳はひとつずつ商品を手に取り、成分表示を睨みつけた。
× × ×
「今年の恵方は、こっちだな」
「歳徳神の方角を向いて食べる理由はなんですか?」
こたつテーブルにもたれるように座り込んだしぐれは不満と不思議をミックスにしたような表情をしている。
「ありがたい気がするだろ」
「へー」
しぐれの返事はゼロカロリーだ。
恵方巻もイワシも豆も買わなかったのが気に入らなかったらしい。
だが、奥歯の生えていない子に豆は食べさせられないし、恵方巻は大きすぎる。海苔を食いちぎれるのかどうかもわからない。イワシは塩分が気になるからダメだ。
「ほら、これで機嫌を直せ」
岳は手巻き寿司用の巻き簀を使って作った、特製恵方巻をしぐれに出してやった。
小皿にちんまりのった恵方巻は海苔のかわりにおぼろ昆布で巻いてある。具は細く切った卵焼きに、ちょっとだけ牛肉の時雨煮をいれてある。
しぐれはぱっと、恵方巻を手に取った。小さな手が掴むと、手巻き寿司サイズでも随分な存在感がある。
「だまって食べるんですよね! いただきますですよ、岳!」
「ああ」
お前が健康で過ごせますように。
岳は黙って、自分の分の特製恵方巻を口に放り込んだ。
(NK)
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