2/27:もんじゃやき
「チーズと餅のもんじゃ焼きとウィンナー焼き、焼きそばをお願いします」
「それから、生ビールとびんいりのラムネもです」
岳が注文すると、すかさずしぐれが付け足した。
しぐれのおしゃまっぷりに慣れた店員は「小さいコップも持ってくるわね」と笑顔で受けてくれた。
二十坪くらいのもんじゃ焼き屋は時々食べにくる店だ。基本的に外食は避けるようにしているのだが、岳だってたまには生ビールを飲みたい日もある。
鉄板座卓が8席の店は十八時を過ぎると宴会客もくるので、岳がしぐれを連れてくるのはいつも、開店直後の客が少ない時間帯だ。
少し待つと飲み物と、小さい器に盛られたもんじゃ焼きのタネが運ばれてきた。
「いくぞ、しぐれ」
岳は薄い水溶き小麦粉にキャベツや餅をしっかり浸けてから、熱くなった鉄板の上に落とした。
「手を出さずにじっとしていなさい」
岳の隣に立って、手元を覗き込んでくるしぐれに言う。
「わかってますよ」
しぐれは楽しそうに岳の手の動きを見ている。
岳は大きめの起こしヘラを両手に持った。
火の通り始めた生地と具材を混ぜては刻み、刻んでは混ぜ。
特に餅。
しぐれが食べやすいようにとろとろにするためにも刻む。刻む。刻む。
「岳、すごくかっこいいです!」
しぐれが歓声をあげる。
岳は生ビールを一口飲んだ。
具がしんなりしてきたら頃合いである。丸くして、真ん中に穴を開ける要領で土手をつくる。
そして。
「準備はいいか?」
「はい!」
岳は期待一杯という顔のしぐれに器を持たせてやった。
「気をつけろよ。鉄板は本当に熱いんだからな」
「まかせてください」
しぐれは両手でしっかり器を持って、残してあった薄い小麦粉液を土手の真ん中にそっと流し込んでいった。
じゅわわわわあ、と、鉄板が音をさせる。
水蒸気も立ちのぼる。
くつくつと泡を立て始めた小麦粉液の真ん中にピザ用チーズをいれたら完成だ。
岳はしぐれを膝に座らせ、もんじゃ焼き専用の小さなコテを持たせてやった。
鉄板からもんじゃ焼きを擦りとって、小皿にいれて、少し冷ましてから口に運んでやる。
「おいしいです」
くふふ、と、しぐれが笑った。
(NK)