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はらわたじる

 商店街にあるたい焼き屋の前にはいつも賑やかだ。客がいれば客の行列、客がいない時にはスズメがたむろしているからだ。

 いわゆる天然、手焼きのたい焼きは大将が焼いている。一度に五匹焼き上がると、女将さんがハサミで余分な部分を切り落として形を整えるのだ。
 スズメたちの狙いは落とされたそのバリ部分だ。ほどよく焦げた甘い生地は、きっとごちそうなのだろう。

「岳、おさかなのあんこのやつはお家でも作るんですか?」

 年齢から察して、この道四十年以上と思われる大将と女将の連携プレーを見ていたしぐれが言った。たい焼きがすっかり気に入ったしぐれは、たい焼きが仕上がっていくのを眺めるのも好きになったらしい。買いに来るたびに抱き上げて、焼き上がりを見学させてもらうのが習慣になってしまった。

「専用の型が必要だから、自宅で焼く人は少ないんじゃないか?」
「じゃあ、どうしてはらわただけを売ってるんですか?」
「はらわた?」

 思わず繰り返して、岳は店先に並べてあった小さなプラスチックパックに気がついた。黒々とした餡子が小分けされて、値札が付いている。大きい方は四〇〇グラム、小さいほうは一五〇グラム。

「そうか。しぐれは知らないのか。あれははらわた汁を作るための餡子だぞ」
「は ら わ た じ る……!」

 岳に抱っこされたまま、しぐれが目を輝かせた。

   ×   ×   ×

 スーパーで買った切り餅をオーブントースターで焼いている間に、買ってきた餡子を鍋で溶き温める。沸騰させないようにかき混ぜるとき、小豆の粒を潰さないように気を付けなければならない。
 まあ、とても簡単なものだ。

「よし、できたぞ」

 ダイニングテーブルについて待っていたしぐれの前に、小さなお椀を出してやった。餅は一センチ角に切り分けてあるし、テーブル脇には小型掃除機も用意してある。安全対策は十全だ。

「これが、はらわた汁ですか。おさかなのあんこのやつのはらわただけを汁にして、焼いたお餅にかけてあるんですね」

 しぐれは言って、フォークで餅を突き刺して、ふうふうと息を吹きかけた。小さい口がとがるのがかわいい。
 岳の見守る先、しぐれは餅を口に入れた。

「……っ岳!」
「どうした」
「おいしいです、はらわた汁! サイコーですね、はらわた汁!」
「あーそれ。……本当の名前は『おしるこ』だからな」
「はらわた汁だって教えてくれたのは岳ですよ」

 満足げに。しぐれがくふふと笑った。

(了)


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