2/19:あーん
家庭料理を作る際に大事なことは次の二点だと、岳は思う。
まず第一は献立立案。これは最初の課題であり、最終課題なのかもしれない。
素材、栄養、調理難度諸々を考え合わせた上で、何を作るのか決めるのは言ってみれば、作戦目標の設定である。目標設定が曖昧では、任務遂行は難しい。また、必要なものの調達も目標次第だ。予算も含めて、買い物計画は副次的なものと言えるだろう。
ただし、家庭料理熟練者はスーパーで見かけた素材から逆算的に目標設定することもできるという。岳にはまだ到達し得ない高みである。
第二は継戦能力。家庭料理は一回作れば終わりではない。一日三食、三日で九食、七日二十食。飯を食わない日はないのだから、三六五日継続しなくてはならないのだ。
途中、惣菜や外食、弁当を購入することによる中食も含めて計画を立てる必要があるのだ。調理者の体調管理や休日も考慮せねばならないのは言うまでも無い。
調理技術はどうにでもなる。
そういうわけで、日曜日は冷蔵庫内の食材整理を兼ね、残り素材をできるだけ突っ込んだ汁物を作ることにしている。
「岳、今日はカレーですか? シチューですか?」
しぐれが言った。
「どっちがいい?」
「んー……」
短い腕を胸のところで組んで、しぐれが首を傾げて考え込んだ。
かわ、いや、平常心。
岳は咳払いをした。
× × ×
「岳、あーんしてください」
スプーンを持ったしぐれは実に楽しそうだ。
小さなスプーンには掻き回されてドライカレーみたいになっているカレーライスがぎっちり掬われている。
いつからだったか、カレーを作るたびにしぐれは岳に食べさせたがるようになった。ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。
それでも、岳には背中を丸くしてスプーンを受け入れる道しかない。
「……あー」
水増し+片栗粉で薄くしてある幼児用カレーは上手いとは思えないが、まあ、悪くもないのだった。
(NK)