kuma kuma寮に入ってみた! 第4話
みなさんお久しぶり!熊野入る子です。
クマ子、とか、クマとよく呼ばれます。
k寮に入りいろんなことがあり、気が付けば5月の下旬になっていた。
※ k寮とはkuma kuma寮の略です。
5月下旬には毎年恒例の企画、『かつらまつり』がk寮で開催される。
『かつらまつり』は、中心的な企画者はk寮ではなく京都大学の桂キャンパスの教員である。
桂キャンパスの教員は大学自治の意識が高く、かつては教授会自治の発信として桂キャンパスで祭りのイベントをやっていた。
しかし桂キャンパスの教員は桂キャンパスの世界にしか興味を持たず、外の世界に全く関心がない。
外の世界をまったく見ない人たちなのだ。
なのでいくら桂キャンパスで自治の発信として企画をやったとしても、本当に本人たちが外界に発信しようとしているのか不明だったのだ。
そこで学生運動の熱気があるk寮が注目された。
k寮の敷地で大学自治の発信のイベントをやり、k寮生と行動を共にしてはどうかと提案されたのだ。
そうすると地域と連帯するモチベーションに繋がるだろうと期待された。
そしてどうやらそれはうまくいったみたいだ。
毎年k寮で『かつらまつり』をやる度に、外の世界の人からSNSで好評をいただいて歓迎されている。
桂キャンパスの教員だけでなくk寮の人たちの努力も評価されている。
そしてこの両者は関係が親しくなり『かつらまつり』ではk寮生もイベントを催すようになった。
『かつらまつり』が実施される場所は駐輪場であり、k寮の玄関前にあるちょっとした広場である。
そしてふと気が付けば『かつらまつり』は明日(土曜日)となっていた。
さて。今日の授業が終わった。寮に帰るとするか。
すると時計台キャンパス前の楠のところで『処分阻止・撤回集会』なるものが開かれている。
その中心にメガホンで抗議を訴えている人がいる。
あれ?学生じゃないぞ。誰だこの人。
アジテーションをちょっと聞いてみた。
内容によると、メガホンで抗議してる人は学生部の厚生課の職員のようだ。
京大にはk寮だけではなく、職員自治寮という別の自治寮がある。
そこには学生部の厚生課の職員が全員住んでいる。
厚生課は全寮制なのだ。
その職員自治寮が『処分阻止・撤回集会』をいま開いているのだ。
学生部厚生課の職員は給料がとても低く手取り4万5千円くらいらしい。
だから貧困をしのぐため、生協食堂のお茶をひっそりと空のペットボトルで頂戴したようだ。
だがそのことが発覚し、京大の役員会により減給の処分にされたようだ。
どうやらその処分に対する抗議の集会のようだ。
そして処分撤回を訴える有志の人たちが集まって協力しあってるみたいだ。
主に大学職員たちだけど。
「いまから役員会のところに行って窓口交渉をしにいく!
みんなも一緒に我々と団結してともに抗議しにいこう!
処分粉砕!団結して戦おう!」
厚生課の職員たちは役員会のところにいった。
学生たちもわらわらとついていった。
わたしはこういうのはk寮だけでお腹いっぱいなので行かなかった。
どうせ京大の総長が後でTwitterで「誠に遺憾である」とかツイートするんだろう。
さて、『かつらまつり』の設営のお手伝いをしにk寮に早く帰ろう。
お祭りには近所の人が屋台やテントでお店をやりにくる。
それにミュージックライブもあるから準備はそれなりに大変だ。
寮に着いたらD棟の近くの中庭で人が集まっていた。
何かもめているみたいだ。
D2ブロックの寮生たちは毎週金曜日の日課として、
5限の授業が終わり次第、中庭で伝統空手の稽古を行うのだ。
そして練習の終わる時に道場訓を、正座して道場着の姿でみんなで声を合わせて読み上げる。
ところが、どうやらその道場訓のことでなんだかもめている。
「日本男児の生き様は色無し恋無し情有り」
という部分が人権という観点から問題ありとされトラブっているようだ。
D1ブロックの人権擁護部(以下、人権擁護部はJK)の人がD2の寮生に対して怒っている。
(D1のJK)「え?日本男児?どんだけ差別的かつ時代遅れで非道極悪で外道最低なんですか?昭和?」
(D2道場の師範)「これはあくまで道場訓であり、魁男塾から引用したものだ」
(D1のJK)「男塾とか言ってる時点で死ぬべきなんですが」
人権擁護というより子供の口喧嘩のように聞こえてならない。
(D1のJK)「このような差別的発言をすることは人道的観点から間違っています」
(D2道場の師範)「百歩譲って、仮にそれが正しいとしよう」
(D1のJK)「何が百歩やねんコラ」
(D2道場の師範)「我々の足の下で生活するD1民にそれを言う資格はないのだ」
あ~あ、戦争起きるだろうな。
(D1のJK)「死ねーー!!!」
そこに別のD2の人が駆けつけてきた。
(D2民A)「あなたたち!そんなことで言い争うのはやめて!」
D2民Aは消火器をD1のJKの人の顔面にぶっかけた。
(D1のJK)「ゴホゴホ、だれか… この子をブチ殺して…」
D2道場の師範はLINE通話をしだした。
(D2道場の師範)「休戦協定が破られた。抗争再開だ。」
入寮してから聞いたことなのだが。
D1ブロックとD2ブロックはかつて抗争しており、いま停戦の状態なのだ。
以前はD1の寮生とD2の寮生が、相手より上の階で暮らす権利をともに争っていたのだ。
両者の抗争は度々続いていたが、あるとき停戦協定が結ばれた。
しかしその停戦が今、破られたのだ。
停戦の条件は「D1の寮生はD2の寮生に逆らわないこと」だった。
D1とD2の寮生がわらわらと中庭に集まり、互いににらみ合っている。
(D1民A)「グルルルル…」
(D2民B)「ガウウウ…」
一触即発で緊張感がはしる。
(D1民B)「バオオオオ!!!」
(D2民C)「フシャァアア!!!」
D1の一人がドッジボールを投げつけた。
双方でドッジボールの投げ合いが始まった。
ドッジボールを投げあう抗争に、違和感を感じる方もいるかもしれない。
実際は過去に、殴る蹴るなどのような物理的暴力による抗争はあった。
そうすると当然、抗争のあとに怪我人が続出する。
みんな国家権力が嫌いなだけあって、怪我人が出ても警察に被害届を出す人はいなかった。
しかしきっちりと民事訴訟は互いに起こした。
「治療費に5千億円かかった。全額はらえ」
「D1民の不潔な足で蹴られ精神的ダメージを被った。この先もし留年したらその者のせいだ」
2ちゃんねるのような争いが民事訴訟で繰り出された。
このような低レベルで香ばしい争いはTwitter上で注目を集めた。
「こいつらシャブやってんの?www」
「京大k寮、動物園www」
k寮は完全にわらいのコンテンツと化した。
Twitterの画面を開くと「民事訴訟」というタイトルのトレンドが常に最上位にあがった。
そしてそれをタップするとk寮のこの珍獣騒ぎで賑わっていたらしい。
(京大総長)「信じ難い。入院すべきである」
とうとう京大総長にまで言われてしまった。
k寮は社会の笑いの種になり、面子は完全に地に落ちた。
それゆえにD1、D2ブロックは、寮内からの徹底的な怒りの対象となったのだ。
D1とD2の幼稚な抗争に対する問題提起として、緊急の寮生集会なるものが開かれた。
k寮の最も上位にある意思決定の場が寮生大会であり、毎年6月と12月に行われている。
そしてその2つの寮生大会から外れた時期に、緊急の重大な事態が起きれば、臨時的にかわりとなる寮生集会が開かれるのだ。
その寮生集会の場では、Twitterで散々笑われこき下ろされた抗争の件が取り上げられ批判された。
寮生集会は18時間にもおよぶ長時間のものとなり、D1民とD2民は全員、議長団の前で正座させられていた。
そして寮生集会に参加した寮生が、説教をマイクで思う存分にくだしていた。
しかし正座していたD1かD2の誰かがあくびをしたらしい。
それによって寮生集会に集まった寮生が激怒した。
全寮放送で全寮生が集められ、D1民とD2民は全寮生に徹底的にボコボコにされた。
なかでもタイ人の寮生による、首をかかえこんでの膝蹴りが強烈だったらしい。
NATOからきた寮生が「Justice! Justice!」と叫びながら、返り血を浴びていた光景が印象深かったようだ。
そしてその寮生集会は10月31日に行われたものであることから『血のハロウィン』として伝説が受け継がれている。
D1民とD2民は、過去に殴り合いの抗争を起こした結果そういう制裁を受けたことが深いトラウマとなった。
その結果、物理的暴力による抗争が禁止されているわけでもないのに、抗争の形態がドッジボールの投げ合いに自然に変化していったのだ。
『かつらまつり』を翌日に控えて寮生たちは準備に追われているのだが、D1とD2は脱線した。
一般の寮生からの方からも、D1とD2は完全に放置された。
翌日となった。土曜日だ。
D1民とD2民は中庭で死体のように倒れている。
『かつらまつり』が始まり、地域住民がフリマや金魚すくいなど、出店に来ている。
初日のイベントでは総合人間学部の教授会が開催するプールパーティーがある。
k寮には民青池と名付けられた池が中庭にある。
大きくて立派な木製のやぐらが池の真上に組み立てられている。
見た目も良く寮生に好かれており、時折バーベキューなどのイベントが民青池のそばで行われる。
そのプールパーティーは民青池で、『かつらまつり』の初日に行われる。
主催をする総合人間学部の教授会はとてもテンションが高い。
参加する寮生もおり、水着で民青池に飛び込んではしゃいでいる。
プールパーティーは大盛況のようだ。
夕方ごろからk寮の玄関前の駐輪場でライブが始まった。
寮生や寮外の参加者がライブに出演した。
桂キャンパスの教授は『ドリフ大爆笑』を歌い、こちらも大盛況であった。
お祭りの前日はいろいろあったが、今は良い感じでみんな楽しんでいる。
ところがそこへ謎のドローンが飛んできた。
『かつらまつり』の行われている中、不気味にふらふら浮かんでいる。
そこに地域住民の小さなお子様がうれしそうにドローンを追いかけまわした。
それにつられ、寮生も子供のようにドローンを追いかけ始めた。
一人の寮生が、ドラッグユタカの買い物カゴで捕獲した。
買い物カゴを逆さまにして地面におさえてドローンを閉じ込めた。
ドローンは『かつらまつり』に参加している多くの人の注目の的となった。
みんなドローンをのぞき込みに来た。
「解放せよ」
声が聞こえた。どこから?
みんな不思議でキョロキョロしたが誰が発言したかわからない。
「ただちに解放せよ」
ドローンがしゃべっているのだ。
ドローンにスピーカーが付いている。
ドローンを見に集まった人たちの関心が爆発的に上がった。
ドローンは誰なのか。
みんなそれに気になった。
しかしそこに、k寮の常任委員会がやってきた。
そのドローンを寮の一室に持ち運んで調査をすることに決定したのだ。
ドローンはどこからやってきて誰のものなのか、誰しも気になっている。
しかし例えば、相手がこわい人だとしたら、お祭りの雰囲気が冷めてしまう可能性もあるからだ。
実際、k寮の近所には「腹ペコ組」というヤクザの事務所もある。
「充電せよ」
ドローンがまたしゃべった。
(寮生)「どうやって?」
(ドローン)「Type-Cだ。」
その発言を最後にドローンの電源が切れたが、そのまま寮の一室に持ち運ばれた。
その部屋は普段、常任委員会の会議が行われる部屋である。
(寮生)「Type-Cってなんだ?」
寮生の多くはお金がない。
スマホは10年くらい前の中古の安いものを使っている人ばかりだ。
Type-Cが何のことなのかわからないのだ。
なので新入寮生がType-Cについて説明をし、USBケーブルを貸しに来てくれた。
さて、寮生たちはUSBケーブルをドローンにさし、充電をはじめた。
ドローンのバッテリーが少し回復してから電源ボタンを押したら、ドローンがまたしゃべり始めた。
(ドローン)「解放せよ」
(寮生)「あなたは誰なんですか」
(ドローン)「学生部厚生課のおにぎりだ」
おにぎり氏は学生部の厚生課の一人である。
学生部の厚生課は、k寮を弾圧することが仕事であり、それゆえk寮と厚生課は敵対している。
(寮生)「『かつらまつり』に何しにドローンでやってきたんですか」
(ドローン)「我々には施設管理権があり、寮生が祭りで問題行動をおこさないか様子をみていたのだ」
(寮生)「単に祭りを見たいだけなんじゃないのか、本当は」
(ドローン)「…」
いずれにしてもお祭りを妨害しに来てるわけじゃないみたいだ。
(ドローン)「解放しないと訴えるぞ」
(寮生)「そんなことをすると厚生課がドローンを所有していることが役員会にばれるぞ」
(ドローン)「それがどうしたというのだ」
(寮生)「生活費に余裕があると判断され、給料を削減されるぞ」
(ドローン)「それは困る」
寮生たちは、ドローンを操縦している学生部の厚生課に『かつらまつり』の妨害をしないことを約束させた。
そして祭りのところにドローンを解放した。
その後ドローンはプカプカ浮かんで祭りを楽しんでみてるように見えた。
そんなこんなでお祭りの初日の土曜日は、夜を迎えた。
祭りの準備はかなり大変だったが、とても楽しく良い感じになった。
テンションが上がった寮生たちはコンパをはじめた。
寮の玄関前の駐輪場で、シートを広げて行われた。
みんな楽しそうにお酒を飲んではしゃいでいた。
夜があけて、お祭り2日目の日曜日となった。
コンパで遅くまでお酒を飲んでいた人たちは駐輪場で寝ていた。
そこに近所の小さいお子様たちがやってきた。
そしてマジックで、寝ている寮生の額に「留年」と書き始めた。
他の寮生たちがそれを見に集まり、爆笑した。
写真で撮られ、またいつものようにTwitterにあげられ拡散された。
さて、今日は5月下旬の日曜日。
この日は一部の寮生たちの慣習的なイベントが、『かつらまつり』とかぶっている。
そのイベントは『日本ダービー』だ。
G1の競馬レースである日本ダービーを、寮生たちがk寮の食堂のテレビで観戦する。
ただ、企画の主な目的は、単なる観戦ではない。
D1ブロックとD2ブロックの対決なのだ。
D1がある馬を指定し、D2は別の馬を指定する。
その両者の馬のどちらがより先頭でゴールするかを競い合うのだ。
その争いが『日本ダービー』という企画名で名付けられているのだ。
それだけを聞くと、シンプルに一番人気の馬を指定したら有利なだけに聞こえるかもしれない。
その通りである。
だからD1とD2のそれぞれの代表者がジャンケンをし、勝った方が先に馬を指定できるのだ。
D1、D2の代表者がジャンケンをし、D2が勝った。
負けたD1の代表者は、D1民にボコボコにされた。
D2は一番人気の馬である「アサゴハンキムチダケ」を指定し、D1は「テイガクレキプーチン」を指定した。
人事は尽くされた。
後はレースをみて祈るのみ。
レースが始まった。
D1指定の「テイガクレキプーチン」は大きく出遅れた。
ぶっちぎりの最下位だ。
先ほどジャンケンで負けたD1代表の人は、再びD1民にボコボコにされた。
一方でD2指定の「アサゴハンキムチダケ」は順調に先頭を走る。
D2指定のこの馬はとても強いらしく、断トツ一番人気のようだ。
レースは最終局面となった。
東京競馬場の最後の直線に、馬たちがならんで駆ける。
(実況の人)「一番人気のアサゴハンキムチが先頭を大きくリード。このまま圧勝か。やはり強い」
本当にこの馬は強い。
すごく速いし大きくリードしている。
もう決着がついたも同然で、D2民が歓喜の声をあげている。
(実況の人)「おっと、大外からテイガクレキプーチンがやってきた!」
スタートで大きく出遅れ、最下位だったテイガクレキプーチンが爆走してきた。
まさかの展開となった。
(実況の人)「先頭はアサゴハンキムチ、しかしテイガクレキが近づいている!」
今度はD1民がテンションを爆上げしだした。
すごく白熱した展開になった。
D1とD2だけでなく、日本ダービーを観戦している全員がヒートアップしている。
(実況の人)「テイガクレキが差した!まさかの展開!先頭はテイガクレキ!」
逆転した。
競馬をよく知らない人が見ていても熱くなるレースだ。
どうなるのか。
(実況の人)「テイガクレキプーチンが1着でゴールイン!一番人気のアサゴハンキムチダケが敗れました!」
誰もが予想しなかったことらしい。
とにかく、この勝負はD1の勝ちとなった。
さきほどジャンケンをしたD2代表の人は、D2民にボコボコにされた。
D1民は大喜びで、そしてD2民を見下して罵倒の嵐を浴びせた。
(D1民C)「D2、よわwww」
(D1民D)「ワンとなけ!四つん這いになれ!」
大人とは思えない光景。
D2民はぐうの音も出ない。
(D1のアメリカ人)「Yeah! Fuck! Yeah!」
アメリカ人が英語で叫びだした。
(D1のアメリカ人)「Bastard! You, loser!」
次はD1の日本人たちが触発を受けて英語で罵倒しはじめた。
"fuck"、"shit"、"asshole"など下品な言葉のオンパレードとなった。
そして寮の廊下の壁に「20XX年日本ダービーD1勝利」と書かれた。
こうして『かつらまつり』の最中に行われる、D1とD2の醜い争いの企画は幕を閉じた。
わたしは駐車場の『かつらまつり』の方へ戻った。
するとお好み焼き屋に大勢の人が取り囲んでいる。
見に行ったら、ゴリラの研究の世界的な権威であるプロフェッサーヤマギワが祭りに来ていた。
そしてお好み焼き屋にゴリラを連れてきていたのだ。
驚くべきことはそれだけではない。
ゴリラがお好み焼きを焼いているのだ。
(お祭りにいる人1)「ゴリラさん、お好み焼きひとつください」
すると小さい声だが、とても低い声で「アイヨ」とゴリラがしゃべった。
(お祭りにいる人2)「ゴリラさん、ビールある?」
するとゴリラは無言で首をふった。
これはとても衝撃的なシーンである。
プロフェッサーヤマギワが、人間のコミュニケーションや行動をゴリラに教え込んだのだ。
(お祭りにいる人3)「ゴリラさん、お好み焼きとてもおいしいです」
するとゴリラは照れ臭そうに、笑って手を顔の前で振った。
(お祭りにいる人4)「ゴリラさん、ドラミングしてください」
するとゴリラは指をパチンと鳴らした。
そしたらプロフェッサーヤマギワがドラミングをして、みんなをドッと笑わせた。
こうして日が暮れて『かつらまつり』が終わりに近づいた。
プロフェッサーヤマギワはお好み焼き屋をたたみ、車で帰ろうとした。
ゴリラは車に乗り際、笑ってみんなに手を振り、そしてそのまま車は去っていた。
『かつらまつり』は無事に終了した。
十分にうまくいったと言えるだろう。
本当に楽しく盛り上がった。
『かつらまつり』で教授会自治の発信をしていた桂キャンパスの教官たちも帰っていった。
(寮生)「打ち上げをやろう」
祭りの後の打ち上げを、民青池のすぐそばでやることになった。
(寮生)「乾杯!」
打ち上げでみんな楽しく飲み始めた。
本当に『かつらまつり』は楽しかった。
「人間シャンデリアをやろう!」
ある寮生が言った。
近くにロープで拘束された人がいて、その額に「留年」と書かれていた。
今朝子供に落書きされた寮生の一人のようだ。
今は必死に助けを求めている。
しかしその人はパンツ一枚にひん剥かれ、再び緊縛され、シャンデリアで装飾された。
民青池のやぐらに寮生が登ってロープをかけた。
そのロープに、人間シャンデリアの人が吊るされ、やぐらの高さまで引き上げられていく。
シャンデリアに灯がともされた。
パンツ一枚の人間はさておき、夜空にシャンデリアが美しく輝いた。
打ち上げに参加している人たちから歓喜の声があがった。
「すごくきれい!」
感動している人が言った。
「助けて!おろして!」
人間シャンデリアの人が言った。
「花火をやるぞ!」
とある寮生が叫んだ。
その人は大量の打ち上げ花火を用意している。
数千発の打ち上げ花火は、人間シャンデリアの真下に設置された。
そしてカウントダウンとともに打ち上げ花火は点火された。
上空の人間シャンデリアの方から「熱い」とか「助けて」とか聞こえる。
そしてその声に耳を傾ける人はいない。
大勢の人がスマホをシャンデリアに向けた。
カメラのシャッターの音が実にたくさん鳴る。
一分も経つことなく写真はTwitterに上げられた。
シャンデリアの灯と花火の閃光が夜空に輝く写真は、数多くRTされ、バズツイートとなった。
こうして『かつらまつり』の打ち上げは朝まで続いていった。
「熱い!助けて!花火やめて!」
「シャンデリア、すごくきれい!」
(続く)