土地を収用して道路を引く 土地収用法を読み解く
前回の第1回からしれっと約半年経ってますが私は元気です。
都市計画の最近のトピックから気になるものを取り上げて適当に話すこのシリーズ。今回のお題はこちらです。
また都市計画道路です。さいたま市が都市計画道路事業を行うにあたって、その予定地に邪魔な住宅がある。普通はこのぐらいの金額で買いますよと交渉して移転してもらうのだが、どうにも動いてくれないらしい。
するとさいたま市は埼玉県に代執行請求を行い、埼玉県が代わりにその住宅のある土地の収用を行うそうだ(そのためリンク先は埼玉県の記事である)。
この「都市計画道路事業の代執行」について、これから以下のような視点から見ていくことにする。
この都市計画道路はどんな道路?
この都市計画道路はそもそもどんなものだろうか。
道路名でググったところさいたま市のページが出てきた。
さいたま市の説明を要約するとこうである。
この都市計画道路産業道路(主要地方道川口上尾線)は、川口市からさいたま市の浦和地区・大宮地区の東側を通り上尾市までを結ぶもので、埼玉県地域防災計画の第一次緊急輸送道路にも指定されている重要な路線である。
本件事業で同路線のバイパスを作ることにより、同路線や大宮地区の渋滞の緩和や防災機能の向上を図る。
それぞれの単語を見ていこう。
都市計画道路産業道路
まず、都市計画道路産業道路とは何だろうか。この道路の「3・4・11号」のように、都市計画道路にはこのような分かりにくい数字が付いているが、この道路には追加で産業道路という愛称のようなものが付いているのである。
ところで、Cities:Skylineでは私の購入していないどこかのDLCで産業道路という道路が追加された。工業系エリア向けの道路で、安価だがほかの道路よりも騒音を発生させるという。
恐らく一般的な産業道路への理解は、想像するものこそ違えどこのようなものだろう。しかしこの道路におけるそれは、どちらかというと地域固有の意味を持っているようだ。国道17号の上尾道路だったり上武道路のようなものかもしれない。それならば、産業道路のバイパスという意味で第二産業という道路があるのも分かるような気がする。
と思って産業道路をwikipediaで引いたところ、同じような名前の道路は全国にたくさんあるらしい。wikipedia曰く、産業道路の多くは「自治体が道路法に基づき整備した」そうだ。
e-govで道路法を開き「産業」とページ内検索すると次の一条がヒットした。
長々と書いてあるので意訳すると「国は産業の振興などで道路を整備する必要があると認められたとき、道路管理者に費用の2分の1以内を補助できる」ということである。
その前の「国土交通大臣の指定する主要な都道府県道若しくは市道」はどうやら主要地方道のことのようである。主要地方道でもある都市計画道路産業道路は、いずれにせよ国の補助を受けて整備されたようだ。安直な名前がそのまま地域に定着したのである。
主要地方道川口上尾線
次に、この道路についているもう一つの名前、主要地方道川口上尾線について。
主要地方道については前述の通りで、国が大事だな~って思った道路を指定して整備の補助を行うものである。県道や市道の幹線がよく指定されていて、この道路もその一つのようだ。
また市のページにはその記述がないものの、この道路は県道35号の一部であるようだ。同路線は川口駅東口のちょっと北を端に発し、そのまま京浜東北線の東を並走する形で北上。東武アーバンパークライン大宮公園駅と宇都宮線土呂駅のやや東をそれぞれ越え、ニューシャトル今羽駅をくぐり国道17号に合流する。
国道17号を上り方面で見ると、大宮バイパスと大宮駅西口エリア方面との分岐の一つ手前、大宮駅東口エリアにアクセスするときにはまず使われそうな位置で県道35号が分岐しているため、市が言うように渋滞は必至だろう。
県道35号でも大宮駅東口にまさに差し掛かるというところの渋滞は深刻らしく、ちょうどその部分をさらに東に迂回する形で計画されているのがこのバイパスである。片側2車線道路とのことなので相当気合が入っている。
ここまで計画にある道路を見てきた。さすがに地域防災計画の緊急輸送道路に触れていたら文字数が大変なことになってしまうので、次に進むことにする。
収用されるのどんな土地?
前節では市の計画にある道路がどのようなものかを見てきた。ここではこの事業が私有の土地を買収したりしてまで行うべき効果を有しているのかという検討はしない。
市だって別に独断でこの計画を決めているわけではないだろうし(前回「都市計画道路って何だっけ」も参照)、ここまでつつがなく用地買収も進めてきた。それでも用地買収に応じないおうちというものは存在するらしく――このあと何件も出てくるかもしれないが、県と協力して土地の収用を決めたこの事例についての概要を掴みたいのである。
ここでは、代執行で収用されるに至った土地がどのようなものかについて見てみる。と言ってみたものの、県のホームページでは天沼町2丁目地内とだけ示されているので具体的にこの住宅と特定することはできない。
ただ記載からして1つの宅地を対象としているようだ。道路予定地の住宅を一斉に収用します!という訳ではないのが不思議である。周りの住宅は皆用地買収に応じたのか、それとも代執行は1件ずつ行うことになっているのか。
後者だとしたら裁決だったり代執行だったりが何件にも渡り大変そうであるが、撤去費用なんかを用地買収に応じなかった持ち主に請求するのだから1件ずつが当たり前といえばそうなのかもしれない。
どんな段取りで代執行されるの?
さあ、ここからが長くなるはずだったのにすでに文字数は2,600字を超えている。なぜだ。
ここからは県が行う代執行の法的根拠である「土地収用法第102条の2第2項」と関連法規を見ていくことにする。
土地収用法第102条の2
はじめに、県が土地を収用するにあたっての根拠としている「土地収用法」を見ていこう。
土地収用法の第百二条の二(土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転の代行及び代執行)は、前条の場合において次の各号に一つでも該当するときは、市町村長は起業者(市)の請求により土地などの所有者に代わって収用することができるとしている(意訳)。
前条だったり次の各号だったりと、前提条件がこの条文だけではまるで見えてこない。前条というのは同法第百二条のことで、おおよそは「明渡裁決があったら土地の収用してね」ということを言っている。
第百二条の二における各号というのは、次の2つである:
土地などを明け渡さないといけない人が、その人を責められない理由で明渡をしないとき
起業者が頑張ったけどその土地などの所有者が見つからなかったとき
第百二条の二は比較的穏便である。土地の所有者がなんらかの理由で土地を明け渡せないとき(撤去費用が工面できないとか?これはこれでよく分からない)や、所有者不明のときには、市町村が代わりに収用しますよということである。
しかし、例えば土地の所有者が分かっていて、しかも移転しようと思ったらできそうな感じなのに移転してくれないときはどうしたらいいだろうか。そこで、今回の代執行の根拠法令にもなっている第百二条の二第二項の出番なのだ。
同法第102条の2第2項
いよいよややこしくなってきた。この項は次のようになっている。
つまりは、土地などを明け渡さないといけない人がそれをやってくんないときに、都道府県知事は起業者の請求で代執行していいよということである。
市の都市計画道路事業の起業者は市であるから、第百二条は市で完結しているが、ここにきて都道府県知事が出てきた。つまり、穏便に済みそうなときは市町村長の権限で代執行し、そうじゃないときに都道府県知事が出てくるのだ。
だからこそ、さいたま市は用地買収に応じてくれない土地について埼玉県知事に請求して、埼玉県が今回代執行に至ったという訳である。
ちなみに行政代執行法は、この記事を読んでくれているあなたがぜひe-govなどで中身を見に行ってほしい。かなり短いので初めて読む法律としてはかなり優秀かもしれない。
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以上では埼玉県がどういう理屈で、なんのために代執行を行ったかについて見た。
恐らく行政職員になればパッと把握しないといけない行政行為や市町村と都道府県の関係だったかなと思われるが、法律だったりをいちいち引っ張ってくると中々に長くなるものである。
noteの文字カウンターはすでに4,200字を超えていることを示している。授業1コマ分+αでこの分量が書けるのなら、目前に迫りつつある各種レポートもきっとすぐ終わることだろう、たぶん。
この記事を読んでくれた皆さまにあたっても、どうか早め早めに課題に取り組んでもらいたいものである。
(了)