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うさぎに憧れた龍の話

小学1年生のときだっただろうか。
わたしは同じクラスの同級生がとても羨ましかった。
なぜなら彼らは1987年生まれの兎年で、
私は1988年生まれの辰年だからだ。

幼いときは、干支の概念をちゃんと理解していなかった。
もしかしたら、自分も兎年なのではないか、
なにかの間違いで、辰年ということになっているのではないか、
そう思うこともあった。


兎年になりたかった理由は、ズバリ「かわいい」から。
うさぎはかわいい。
辰は・・・全然かわいくない。

しかも十二支の中で、唯一実在する動物ではない。
うさぎのキャラクターはたくさんいるし、グッズもたくさんあるのに、
辰のかわいいグッズはどこにもない。

そんな私に、ついに「辰年も悪くない」と思える時が来た。


きっかけは、父が愛用していたパーカー。
ジップアップ式の紺色のパーカーで、胸元に真っ白な糸でタツノオトシゴの刺繍が施された、いたってシンプルなパーカーだ。

このパーカーは、横浜元町発のブランド「FUKUZO」のもの。
ハマトラの代名詞といっても過言ではないだろう。
そしてこのブランドのロゴが、タツノオトシゴだ。

父がよく着ていたこのパーカーに、幼いながらも、とても魅力を感じていた。
紺色の生地に、真っ白のワンポイント刺繍がとても良く映えていたし、刺繍も小さいものなので、主張が強くないところも好きだった。

そしてなによりも、かわいい「タツ」に出会えたのがとても嬉しかった。

いつかわたしにこのパーカーを譲ってくれるのではないかと、
「それどこの?」「めっちゃかわいいやん」と父に欲しいアピールをしまくっていた。
(結局そのパーカーは私が手に入れる前に父が着倒してしまった。)


大学生になり、成人になってからもタツノオトシゴのパーカーが忘れられず、ついに母と横浜元町本店を訪れた。

明るい店内には、メンズとレディースの商品がディスプレイされていた。
定番のトレーナーやチェックのスカートがズラリと並んでおり、「ついに来たか」と感動したことを覚えている。

この日、私が手に取ったのは、パーカーではなく、裏起毛の分厚いスウェット素材のカーディガンだった。
私が憧れていた紺地に白い刺繍が胸元に施されている。

前はぷちっとボタン式で、丈は慎重158cmのワタシの腰くらいの位置にくる。
スナップカーディガンというそうだ。

パーカーを選ばなかった理由は、大人になって、パーカーの着心地があまり良くないことに気がついたからだ。
フードの重さで首元が詰まる現象が、どうにも好きになれない。

一方綿のカーディガンは首元に余裕があり、ウェストラインをキュッと絞っているわけではなく、生地もしっかり肉厚で、裏起毛になっているので
気になる体型を拾わないところが私の好みにハマった。

正直、流行りの洋服を着たほうが、スタイルが良く見えたし、今どきっぽく見える。
でも、とことんベーシック好きの私には、FUKUZOのデザインがベストだったのだ。


FUKUZOの好きなところはまだまだある。

FUKUZOが流行に媚びないこと。
短丈が流行ろうが、細見えが流行ろうが、デザインが変わることなくFUKUZOらしさを保っていること。
ネット販売は行っておらず、お店に行くか、電話やFaxで注文する必要があること。

そして、私は京都に住んでいるので、まず人と被らない。これも嬉しいポイント。

ちなみに父がなぜ「FUKUZO」を持っているかというと、父は東京出身で、洋服が大好きな人だから。

FUKUZOのスナップカーディガンは、たしか2万円ちょっとだった。
大学生である当時の私からすると、非常に高い洋服だ。

「せっかく横浜まで来たのだから、思い切って買っちゃおう」という気持ちと、「買ったのに全然着なかったらどうしよう」という気持ちが入り混じり、購入を渋っていた。

すると「何してんの?はよ買いなさいな」と、一緒に旅行を楽しんでいた母が気前よく買ってくれた。


結局、このとき買った洋服は、10年以上経った今も愛用している。
着心地がいい、扱いやすい、へたらない、上品に見える。
そしてタツノオトシゴがかわいい。

ちょっと色褪せてるけどまだまだ着れる

あの日、父のパーカーに刺繍されたタツノオトシゴは、
辰年生まれの自分にとって、希望の光となり、「辰年も悪くないな」と思えたんだ。

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