Apple Vision Pro発表時に覚えた違和感
こんにちは!空間コンピューティング技術で人々のまなざしを拡張するMESONの小林です。
今年の6月にAppleが新しい空間コンピューター「Apple Vision Pro」を発表しました。
発表当日はこれまで空間コンピューティング領域に関わってきた多くの方々が興奮し、やっとこのときがきたと感じたことかと思います。
自分自身、Vision Proが発表されたことにとても興奮した一方で、1つの違和感を覚えました。
このnoteでは自分がVision Pro発表の際に感じた違和感と、Appleが持っているであろう意図を考察してみたいと思います。
Vision Pro発表時に自分が感じた違和感
WWDCでAppleがVision Proを発表した際に、自分はAppleがなぜこんなに平面のコンテンツばかり推してくるのかが気になりました。
Vision Proの様々なユースケースがWWDCの中で紹介されていましたが、どれも私たちが使っているスマートフォンやパソコンの延長のような使い方でした。
平面のディスプレイを空間いっぱいに表示して、自由な位置における。
長年、この領域に関わってきた自分からすると、「もっと立体的なコンテンツを扱うシーンとか出さなくていいのかな?」「なんでAppleは立体的なコンテンツのユースケースを推さないんだろう?」と違和感を覚えていました。
過去に他社が発表したデバイスでは「空間に没入できます。」「立体的なコンテンツがこんなにきれいに表示できます。」など、とにかく立体的なコンテンツをゴリゴリに推してきました。
そして自分もそれが普通のことだと思っていました。
Appleが本当に気にかけている人々
しかし、WWDCで様々なAppleの方と話したり、記事を読んでいく中でAppleがなぜ平面のインターフェースを推していたのかがわかるようになりました。
Appleは自分のようなAR/VR技術に精通していて、類似デバイスを掛けたことがある人たちにはKeynoteセッションで訴求する必要がありません。なぜなら、そんなことしなくても飛びついてくるからです(笑)
AppleはこのVision Pro、そしてこれから出す後継機の空間コンピューターを本気で次のコンシューマーデバイスにするために、立体的なインターフェースに慣れていない人々を気にかけ、Vision Proを訴求しているのです。
ゲームを除くと、まだまだ一般の人たちには立体的にコンテンツが表示されることで何が嬉しくなるのか、どういうメリットが自分たちにあるのかわかりづらく、自分たちから距離を感じてしまいます。
しかし、自分たちが慣れ親しんでいる平面コンテンツが空間に自由に配置できるという訴求であれば、自分たちとの距離を感じず、興味を持ってくれるはずです。
先日、Vision Proをテーマにした「Decode Apple Vision Pro」というイベントを弊社が開催したのですが、その中の1つのセッションでギズモード・ジャパンの綱藤さんがしてくださったお話がこの考えをより強固にしてくれました。
綱藤さんがVision Proの記事や動画を作成されていた時、お母さんから電話があり、Vision Proはすごいねという連絡をもらったそうです。
綱藤さんのお母さんは別に空間コンピューティング技術に詳しい方ではないのですが、Vision Proがあればいろんな画面を空間に並べて仕事ができたりすると、Vision Proによって実現する未来を自分ごと化してイメージされていたそうです。
業界に閉じず、より広く一般の人達にVision Proに興味をもってもらい、空間コンピューターを使いたいと思ってもらうために、AppleはVision Proの紹介で徹底的に平面コンテンツの活用を推していたのです。
作り手もしっかり巻き込むApple
平面コンテンツに慣れているのは消費者だけではありません。
これまでiPhoneやiPadのアプリケーションをつくってきた作り手も、平面コンテンツに慣れている方がほとんどです。
AppleはWWDCでのセッションで「Swiftでアプリを開発してきた人はすぐにVision Pro向けのアプリを作ることができる」ということを強調していました。
もしVision Proの紹介が立体的なコンテンツをゴリ押しの紹介であれば、これまでiPhoneやiPadでアプリをつくってきた人たちは「自分には関係ない」「もっとデバイスが普及してから参入しよう」と考えてしまいます。
Vision Proのような新しいハードウェアは、スペックがどれだけ優秀でも、中で使えるアプリケーションが充実していなければ普及することは難しい。
App StoreによってiPhoneの普及に成功したAppleだからこそ、作り手を巻き込むことをかなり意識しているのだと思います。
Appleが抱えているSwiftエンジニアが慣れ親しんでいる平面コンテンツの活用イメージを推していくことによって、Vision Pro向けのアプリをつくることを彼らにとっても自分ごと化しようとしているのです。
今のVision Proのインターフェースデザインは過渡期である
では、Vision Proはこのまま平面コンテンツを扱うだけのデバイスになってしまうのかというとそんなことはありません。
Appleはこの平面コンテンツをベースとしたインターフェースデザインは過渡期であると捉えているはずです。
iPhone初代が出た時、アプリのデザインはスキューモーフィズムという考え方が採用されました。
まだスマートフォンという存在に馴染みがなかった人々がスマートフォンを扱えるように、現実世界にある物質の質感や見た目に似せてデザインすることが推奨されていました。
しかし、人々がスマートフォンという存在に慣れるに従って、デザインはよりフラットでスマートフォンの形状にあったデザインに変わっていきました。
今回のVision Proでも今後インターフェースデザインは同じような変遷を辿ると思います。
人々が空間コンピューターという存在に慣れてくるに従って、徐々に平面のインターフェースは淘汰され、より空間コンピューターにフィットしたインターフェースデザインが採用されていくはずです。
やがてインターフェースは溶けていく
では、今後空間コンピューター上ではどのようなインターフェースデザインが主流になっていくのでしょうか?
「もっと立体的になる」というのがわかりやすい答えですが、自分はそれだけではないと考えています。
空間コンピューターは立体的にデジタル情報を表示できることよりも、リアルとバーチャルを自然な形で融合できることがもっと本質的な価値ではないかと思っています。
私たちがいまいる現実世界の中で、もはやバーチャルなのかリアルなのか意識せずに操作している。そんなインターフェースこそが、究極的には空間コンピューティングのスタンダードになるのではないかと思っています。
例えば、「人」という形がインターフェースになる可能性があります。空間コンピューターで目の前には仮想的な人が表示され、その人と会話しながら自分の知りたいニュースについて教えてもらったり、なにかタスクをお願いする。
ユーザーはただ人と会話していると感じるが、実はその相手は空間コンピューティング技術とAIで形成された仮想人格で、インターネット上の情報やあらゆる知能を身に着けた状態で、ユーザーのサポートをしている。
また自分の身体に溶け込んだインターフェースも考えられます。
僕たちは自分の体で様々なメッセージを飛ばしています。うなずくことは「肯定」、首をかしげることは「疑問」、手を払いのければ「不要」などなど…
人間にとって自然な所作を通してコンピューターに自分たちの意思が伝達され、デジタル情報をもっと自由に扱うことができるようなインターフェースが実現されると自分は考えています。
自分は、もはや私たちがデジタルとの接点を意識しなくなり、インターフェースがリアルの中に溶け込んでいく未来がくると考えています。
現時点で、Appleがこういった情報を出してはいませんが、Appleもきっとこうした未来を見据えてVision Proのこれからの戦略を考えていることでしょう。
以上、今回のnoteでは自分がVision Proの発表で感じた違和感と、Appleが持っているであろう意図を自分なりに考察してまとめてみました。
いまは空間コンピューティングシフトの過渡期であり、これから様々な当たり前が変わっていくと考えています。
インターフェースデザインの考え方もその一つだと思っており、今回の自分の考察がこれから空間コンピューティングシフトに関わる皆さんのヒントになったなら幸いです!
このnoteではこれからもVision Proを中心に、空間コンピューティングの未来についての記事を書いていきますので、興味がある方はぜひフォローやいいねをお願いします!
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