二度見の心理
男性も女性も、好きな人・気になる人というのはついつい目で追ってしまうもの。
もちろん、いい大人がずーっと好きな人の姿を目で追い続けるということはないでしょうけれど、つい見てしまう、つい目で追ってしまうタイミングというのはあるものです。
それが、二度見。
こちらの記事で、男性が別れ際に女性を褒めるのは本気度が高いということをお伝えしました。
今生の別れではないにしても、別れ際というのはやはり切ないものです。
もっと一緒にいたい、もっと見ていたい。そう思ったとき、人はついつい相手を目で追ってしまいます。
もう何年も前のことになりますが、当時勤めていた会社の親会社に中江さんという男性がいました。
私の直属の上司が、親会社に勤務していた頃にかわいがっていた後輩なのだそうです。
異動になった上司を訪ねてきた中江さんと初めて会ったとき「感じのよい人だな」と思いました。
向こうも同じ印象を持ったようで、そのあと中江さんが上司に、
「素敵な方ですね」
と、私のことを褒めていたと聞きました。
その後、中江さんとは何度となく顔を合わせる機会がありましたが、彼は上司に会うたびに、
「朝霧さんは本当に素敵な方ですね」
「朝霧さんはいつ見てもおきれいですね」
と、私のことを話題にしていたそうです。
私も中江さんには好意を持っていましたから、素直に嬉しかったですね。
もちろん、お互い既婚者なのでどうこうしようとは思っていませんでしたけど。
そしてこれは、親会社へ書類の受け渡しに行った私が、用事を終えて総務課の事務所を出ようとしたときのことです。
事務所のドアは透明なガラスの入った框戸で、ドアを開けようとしたとき、ガラス越しに中江さんが立っているのが見えました。
中江さんも私に気付き、お互いドアノブに伸ばした手を止めました。
私が後ろへ一歩下がると、中江さんが少し躊躇ってから、ドアを開けて事務所へ入って来ました。
挨拶を交わしたあと、私は中江さんと入れ違いに事務所を出て、そっとドアを閉めました。
ドアを閉めたあと、ふと目を上げて中江さんの背中へ視線を走らせたとき、ほぼ同じタイミングでこちらをそっと振り返る中江さんと、目が合いました。
私は思わずうつむき、逃げるように事務所の前を離れましたが、あのとき伏し目がちにこちらを振り向いた中江さんの表情は、今も目に焼き付いて離れません。
あの後すぐ中江さんが転勤になり、一度も会うことがなかったので、余計に記憶に残っているのでしょうね。
そして、これはつい最近のこと。
私の中に強烈な余韻を残してくれた、こちらの吉本さん。
もう会うこともないと思っていた、この一年後。私は吉本さんと、別の職場で再会してしまったのです。
再会したときの、吉本さんの驚いた表情。
当時と変わらず、会うたびに気持ちのよい挨拶を投げかけてくれる吉本さん。
もともと好意を持っていながら、二度と会えないと思っていた相手と再会してしまったわけです。
最初はただ「また会えてうれしい」という気持ちでしたが、やはり想いは募っていくものですね。
再会して半月ほどたった、ある日。
私が出勤し、事務所へ入ろうとしたところへ、たまたま吉本さんが通りかかりました。
「お疲れさん!」
「お疲れさまです」
挨拶を交わすと、私は彼に背を向けて、事務所のドアに手をかけました。
このとき、私はどうしても止められなかったのです。振り向いて、吉本さんの姿をもう一度見たいという欲求を。
ドアに手をかけたまま、私はそっと後ろを振り返りました。すると、同じタイミングでこちらを振り返った吉本さんと、一瞬だけ目が合いました。
慌てて目を反らし、何事もなかったかのようにドアを開けて中へ入ってしまったので、吉本さんの表情までは見えませんでしたが…。
気持ちを知られてはいけない。
だから、見てはいけない。
そんな心理が働くと、人は必ず伏し目がちになります。
あのときの中江さん然り、ついこの間の私も然り。少し俯いて、伏し目がちに振り返る。
少女漫画のようにバッチリ目が合うことは、まずないのです。
ただし、相手にどう思われようが気にしない。ただ、なんとなく好みのタイプだから見てしまう。
そのくらいの好意なら、ためらいなく振り返りますし、バッチリ目が合うこともあるかもしれませんね。
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