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パンドラの箱を開けるのは、誰?

男性に狩猟本能があるということは、みなさんすでにご存じのことと思います。
「さあ、どうぞ」といわんばかりに目の前に横たわっている獣など、狩ったところで何も面白くありません。狩ろうとすら思わないでしょう。
釣りだって、簡単に釣れないからこそ面白いのです。

それでは、気を惹きたい男性のいる女性は、どうすればよいのでしょうか。

全速力で逃げてみる?
冷たくあしらって知らん顔?

それは、ちょっとどうでしょう。
すごく可愛い子犬が目の前に現れたとします。触りたい、抱っこしたい。
だけど、その子犬が全速力で逃げて行ったらどうします?
諦めますよね。
でも、走って逃げて、立ち止まってこちらを振り向いたら?
思わず、走って追いかけたくなりますよね。そっと餌を置いてみる人もいるかもしれません。
そうして、ようやく手が届きそうなところで近づくことができた。
それなのに。また走って逃げていく。
あと一歩だったのに!

その繰り返し。
子犬をさわりたい、撫でたい気持ちは、高まる一方です。

今からお話するのは、どちらもつい最近、私が実際に言われたことです。

1人目は、職場の男性。仮に、片桐さんとします。
私が仕事で出入りしている会社での話をしていると、その片桐さんが、

「大丈夫? 口説かれたりしてない?」

と。

「ないですよ。もし危なそうな人がいても、私は隙を見せないので」

おわかりでしょうか。「隙を見せない」の一言には、片桐さんを安心させるとともに、片桐さんを牽制する意味も込めています。
ところが、彼は続けてこう言います。

「朝霧さんのそういうところ、余計に口説いてみたくなる」

片桐さんとは一緒に仕事をする機会が多く、日頃から結構仲良くしています(といっても、プライベートで会うことはありませんが)。
それにも関わらず、私が絶対に女の部分を見せないことが、片桐さんとしてはもどかしいようです。
以前にも、

「朝霧さんは絶対に俺を頼ってこないし、つけ入る隙がない」

と、言われたことがありました。
すぐ目の前で尻尾を振っているのに、手を伸ばして撫でようとすると逃げていく。そんな印象なのだそうです。

そして、これはある飲み会での出来事。
飲み会が中盤に差し掛かると、必ず私の隣へ席を移動してくる男性がいます。高木君としましょう。
高木君は、私に対する好意をまったく隠す気がありません。
そこへ、いつも茶々を入れてくるのが野瀬さんという男性です。

「高木君、朝霧さんにくっつきすぎ。オレなんて、半径1メートル以上は近づくこともできないのに」

彼らとは知り合ってから1年以上たちますが、私との距離が一向に縮まらないことに、やはりもどかしさを感じているようです。

「朝霧さんは全然心を開いてくれない。俺じゃ無理だな。もう諦める」

と、野瀬さん。すると、高木君。

「野瀬さん、開かないドアなんてないんですよ。入れない部屋もありません。朝霧さんだって、必ずどこかに心の入り口があるはずです」
「え、もしかして高木君、裏口から入ろうとしてる? 俺は正面のドアこじ開けて突破することしか考えてなかったのに」
「そんなやり方じゃ、朝霧さんの心のドアは開けられませんよ。野瀬さん」

私の顔を横からじーっと見つめながら、

「朝霧さん、心のなかを見せてくれないから余計に気になっちゃうんだよな…」

と、高木君がつぶやくと、

「いや、ダメ! 絶対に俺が先に開ける、朝霧さんの心のドアは」

思わず、

「野瀬さん、さっき『諦める』って……」

と私が言うと、

「いや、あれは嘘! 諦めてない!」

触りたくて仕方ないのに、近づいたら吠えられるんじゃないか、噛みつかれるんじゃないか。よし、後ろに回ってそっと近づいてみよう。
そんな心情がよく表れた、二人の男性のやりとりです。

これは、私の警戒心の強さが彼らの狩猟本能を刺激すると同時に、高木君と野瀬さんという2人の男性の競争心を意図せずして煽ってしまったことで、余計に火が燃え盛ってしまった好例(?)といえるでしょう。

ちなみに、片桐さん、高木さん、野瀬さん。
この3人に共通しているのは、いずれも「若い頃、散々遊んできたんだろうな」というタイプであること。
遊び人ほど、狩猟本能を刺激されることに弱い。簡単に手に入る女性より、難攻不落な女性を落としたくなる。
だけど、私は絶対に落ちません。彼らが飽きるまで、追いかけっこは続きそうです。

逆に、自分に自信のないタイプの男性には、もうちょっと歩み寄って、優しくしてあげてもいいかもしれませんね。
私、個人的にはこういう自信なさげな男の人の方が好きなんです。気持ちをすっぽり隠してしまうので、私のことをどう思っているのかがわからないだけに…。

あれ? これって、よく考えたら野瀬さんたちと言っていることは同じですよね。
心を開いてくれないから、無理にでも開けたくなる。
何を考えているかわからないから、どう思っているのか気になる。

狩猟本能って、パンドラの箱みたいなものなんですね。きっと。

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