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晩秋の妙義山の麓で…

2020年11月、群馬県は妙義山の麓。
この夜は本当に美しい星空が広がっていた。

2020年10月山形県樽口峠での素晴らしい星空と飯豊連峰の朝焼けに癒された翌月、私は群馬県の妙義にいました。
関東ではどうしても南方面は東京の光害に阻まれ美しい星空というのは見ることが難しいのですが、北関東、とくにこの群馬県の妙義や内山峠まで行くと素晴らしい星空に出会うことができます。

群馬県妙義の麓

妙義界隈は東側は高崎や前橋の影響で明るいのですが南から西にかけてはそこそこの暗さを誇り、そして北方面の夜空は関東では屈指の暗さを誇っています。さらに妙義山の麓という立地上、標高も1,000mあり非常に透明感のある星空です。

季節は巡って山はすでに晩秋、いやもう初冬の装い。
北アルプスなどの高山ではもうすでに雪の便りも届いていました。この夜は夜半に南中するオリオン座周辺の星々にレンズを向けました。

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前回の樽口峠での反省も踏まえ、この夜はいろんな魅惑的な対象を転々と撮影するのではなく1つ、ないしは2つに絞ってしっかりと露出時間を確保しようと決めていました。

私は天体写真に関してはまだまだ初心者の域を出ないレベルですし、今のところは山岳写真をメインとしているためなかなか天体遠征の頻度も上がってかないところがあります。
なのでどうしても今までは『いろんな星雲・星団を撮りたい』という初心者にありがちな思いが強くて、一晩に3対象以上を撮影していました。

しかし自動導入機能などない “ポタ赤” ということで撮りたい天体を導入し、さらに構図の微調整などにも四苦八苦してしまい、結果的にはどの対象にも中途半端な露出時間しか充てることができませんでした。
その反省点を踏まえ、この夜は少なくとも今までより倍の露出時間を当てようと撮影対象を2つに絞りました。

『Orion's Belt & M42』

とにかくこの夜はオリオン座の “おいしいところ” をしっかりと露出をかけようと決めて撮影に挑みました。

いつもなら1対象につき40分前後しか露出をかけないのですが今回は2時間近く撮影しました(結果的には捨てコマもあり90分弱)。そして今回はあえてオリオン大星雲の中心部 “トラぺジウム” が飛んでもかまわないので多段階露出は行いませんでした。

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カメラ Nikon D7100(IR-custom)
レンズ AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ(200㎜ f/3.2)
架台 unitec SWAT200(ノータッチガイド)
三脚 Vixen APP-TL130
露出 160秒×32枚 計85分 ISO1600
ダーク減算 RStacker(32枚)
フラット補正 RStacker(薄明32枚)
コンポジット Deep Sky Stacker
現像&画像処理 Adobe Photoshop CC

もちろん画像処理も未熟ですし、なにより大三元レンズとは言え望遠ズームレンズという天体望遠鏡ではない光学系のため各諸収差がてんこ盛り。コマ収差はもちろん、とくに軸上色収差や倍率色収差に起因する“色ズレ”はもはや宿命的で、ピントの追い込みも含めて限界を強く感じました。

しかし露出に今までの倍の時間をかけたことによる画像品位の良さを痛感しました。天体写真家の先人たちの言われる『露出は正義』という金言が骨身に染みました。

『バラ星雲』

次にレンズを向けたのはいっかくじゅう座のバラ星雲

バラ星雲

カメラ Nikon D7100(IR-custom)
レンズ AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ(200㎜ f/3.2)
架台 unitec SWAT200(ノータッチガイド)
三脚 Vixen APP-TL130
露出 160秒×16枚 計42分 ISO1600
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(薄明32枚)
コンポジット Deep Sky Stacker
現像&画像処理 Adobe Photoshop CC

晩秋から冬にかけての超メジャー対象であるバラ星雲。
真っ暗な宇宙空間にまさしく “バラ” のように咲く深紅の星雲は毎年でも撮影したいとても美しい対象です。

燃える妙義の朝

ライトフレームの撮影後はダークと薄明光を利用してのフラット撮影。
そうこうしているうちにあたりは少しずつ白んできます。やがて東から眩しい朝日が昇り妙義山自慢の奇岩の荒々しい山肌が燃えるように赤く染まりました。

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妙義山登山はコースによっては北アルプスの難所以上の危険度を誇ると言われています。私自身はこの撮影地に天体写真を撮影しに頻繁に来るのですがこの妙義山自体にはまだ登ったことはありません。

ただこういった岩の険しい山というのは朝や夕暮れにはとても美しいコントラストを見せてくれます。私にとって妙義山は登る山ではなく “見る山・撮る山“ の代表格と言えます。

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追加遠征

翌月の12月。
前月の撮影で、しっかりと露出をかけた撮像のS/Nの良さを実感して「これなら淡い対象もイケる」と再び妙義へ。

実は前月の遠征で天体写真を美しく仕上げるコツを掴み始めたと同時に、やはり望遠ズームレンズの限界も見えてきていたため、天体撮影用に新たに中望遠レンズを導入を決めました。実際の導入は春の銀河の頃になるのですが、その前に現在使っている望遠ズームの最後の天体写真を撮影しようとの思惑がありました。

ということで今回は最後の最後に露出時間をたっぷりとかけて、このレンズには淡い対象に無残に散ってもらおうという趣旨の遠征。

対象は淡い領域として天文やの間では有名な『IC348とNGC1333』。位置的にはM45(すばる)とカリフォルニア星雲の間で、淡く広がっています。

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3時間以上は露出しましたが結果的には使えるフレームはわずか90分相当。淡い領域を描出する以前にそもそも撮影スキルを上げていかないといけないという結果になりました。

山岳写真と天体写真

天体写真というジャンルは山岳写真とはまったく性格の異なるジャンルなのでとても興味深く取り組めます。

山岳写真は撮影自体はとくに難しいジャンルではないですし、ひょっとしたら撮影技術自体はもっとも簡単なジャンルかもしれないと思えるほどです。ただ山岳写真の難しいところは『その瞬間に、その場に居合わせるかどうか』ということ。
・急な気象変動は日常茶飯事
・撮影地まで山を4,5時間かけて登るのは当たり前
・20kgはゆうに超える機材を詰め込んだ重いザック
・岩場や泥濘、悪路、アイスバーン
このような困難を乗り越えてしかその場に居合わせることは叶いません。そしてそれを乗り越えるべき体力だけでなく、高いモチベーションを維持し続けなければなりません。長年にわたって山の写真を撮ってきましたが、そういったことの難しさというのは経験や年齢を積むことでどんどんと大変になってくるものです。

天体写真はその真逆で、体力的には車の傍で撮るので何の苦労もありません。しかし撮影自体はあらゆるジャンルの中でも最も困難なもののひとつであることは間違いありません。

ひょっとしたらこの真逆な分野だからこそ両立してやっていけるのかもしれません。山が恋しい時もあれば、美しい星空の下でシャッターを切りたいという時もある。

天体写真と山岳写真、共通項があるとしたらそれは間違いなく『非日常的なエキサイティングな写真』ということ。


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