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院試のあゆみ~独学の極意~



プロローグ

 まずは軽く自己紹介から。初めまして、D-sukeと言います。関西の最果てにある大学の理学部で物理学の研究をしています。主に量子力学や統計力学に纏わる研究で、ハイゼンベルグ模型の数値対角化法や磁化プラトーなどの理論解析をしています。

 今回、私は大学院試験を経て名古屋大学工学研究科 機械航空宇宙工学系マイクロ・ナノ機械理工学専攻(以後、名大機航)に進学することとなりました。この記事を通じて皆さんに当時の院試の状況や今に至るまでの経緯を知ってもらうことで、今後の院試勉強への何かの足しになれば幸いです。特に私の院試は独学に塗れた勉強だったので、他専攻かつ独学が必須な院試を受験される方には何かしら参考になるのではと思います。

エピソード1 ~院試受験の動機~

 私は元々東海地方の出自で、今通っている大学が第一志望ではありませんでした。私と同じ大学かつ同じ学部に通っている方は、大なり小なり苦い思いを経験して入学された方も少なくはないのではないでしょうか。私自身浪人を経験しており、学部受験時代に突きつけられた二度の不合格という現実は、❝辛酸を嘗める❞という言葉では方が付かないほどでした。
 そんな私が今の大学に入学しようと決断した要因は、研究内容にありました。私は予てより鉄道業界に興味があり、今でも度々話題に上がるリニア中央新幹線に使われている超伝導体の研究をしているところが幾つかあったため、「ここに身をおいて勉強しよう!」と決断し入学しました。
 入学してから3年間、理学部の座学を受けました。特に1回生の頃はコロナ禍ということもあって在宅時間が多く、授業時間外でも偶に自分の興味のあることについて自分で勉強していたこともありました。しかし、どうも自分は理学の基礎研究に適正を感じることができず、学部受験時代に志していた工学への道を再び拓こうと一念発起したのでした。

エピソード2 ~学部の過ごし~

 本題に入る前に、私の学部生時代の過ごし方について少し語ろうと思います。私は、勉強(座学)自体が世辞でも好きとは言えない人間なので、先輩方や同級生の人脈を頼りに過去問を入手してテストを乗り切っていました。(本当にありがとうございます。)
 この過去問を持っているか否かで単位取得難易度が大きく変わるのは言うまでもありません。まして、私はテストギリギリまで友人たちと遊んでいたので、本腰入れて対策したのはテスト2日前とかが多かったと思います。ただし、自分には行きたい(現在所属している)研究室は大学入学時には既に決まっており、それなりの成績が要求される所だと情報を得ていたので、自分のキャパシティと試験までの残り日数を逆算して、効率よく良い成績を取ることを意識していました。

エピソード3 ~院試勉強の始まり~

 前項で私が如何に座学が好きではないか伝わったかと思いますが、院試勉強のスタートは意外にも早く3回生の5月頃でした。理由は、❝独学で勉強する必要がある科目が沢山存在したから❞です。
 後ほどにも記載しますが、理学部から工学研究科、まして機械工学系統へ進学する場合、筆記試験で課される専門科目はほぼ全て独学で行う必要があります。具体的には、熱工学の一部以外は全て独学となります。このことから、人一倍早く勉強を始めなければ間に合わないと判断し、制御工学から勉強を始めました。
 …始めたのはいいのですが、私のサボり魔は壮健でして、翌年の5月までダラダラして参考書1冊目の320ページ中30ページぐらいしか進んでいませんでした。当然、他の科目はノータッチ。
 結局本腰を入れて筆記科目を始めたのは翌年の5月中旬頃でした。(エピソード6へ続く)

エピソード4 ~研究室訪問~

 3回生11月頃、院試受ける組たちの中でぼちぼち院試対策を始めているとの話題が上がってきて、いよいよ院試受験が身近な存在になってきたんだなと感じてきました。
 相変わらずサボり魔は健在でしたが、このままではまずいと思い、まずは研究室訪問をしてモチベを上げるべく、名大の希望研究室の教授へアポイントメントのメールを送りました。返信はとても早く、最初の1通目を送ってから2,3時間後ぐらいには返ってきていました。そこからトントン拍子で研究室訪問の日程が決まり、所定の日に研究室訪問に伺いました。

 研究室訪問はカジュアルすぎない私服で臨みました。人によってはスーツで来ていたりもしていたそうですが、基本は私服で大丈夫だと思います。アクセサリーや香水など派手にお洒落していくと先方に悪印象を与えかねないので、気をつけましょう。(院試の面接でマイナスになることは避けよう)
 研究室訪問では教授や准教授と話す時間、研究室の先輩方と話す時間が設けられ、研究内容や研究室のイベント、規則、院試過去問やその解答、院試で使った参考書、院試勉強の過ごし方などを聞きました。このときいただいたファイルの中には❝名大機航院試マニュアル❞なるものが入っており、これが私の院試当日までの最大の助けとなりました。

 ここで独学勢にとってポイントとなるのが、❝院試で使った参考書を先輩に聞く❞という点です。先述のように専門科目は理学の授業では扱われず、ほぼ全て独学になるため、勉強に必要な参考書探しから始まります。
 これが中々の曲者でして、ネット上に転がっているおすすめ参考書口コミなるものを漁っても、色んな大学の色んな方が色んな用途に応じて口コミを投稿しているので、その参考書が必ずしも自分の行きたい大学院の院試勉強の参考になるとは限りません。
 そこで、自分の行きたい大学院の試験を乗り切った先輩に聞くことで、その試験を乗り切るための武器を知り、効率よく院試勉強に取り組むことができるというわけです。

 また、大学院の試験には必ずと言っていいほど、口頭試問(面接試験)があります。質問内容は受ける大学院によってマチマチですが、十中八九希望研究室の教員は面接室に同席している(仮に不在でも情報は伝わっている)ので、希望研究室には2回ほど訪問しておくと良いでしょう。教員に顔と名前を覚えてもらうことで、ひょっとすると面接の時に何か良いことがあるかもしれません。
 この際、1回は自分でアポイントメントメールを送って訪問。もう1回は各大学院が独自で開催しているオープンラボ大学院説明会に参加して訪問すれば良いと思います。

エピソード5 ~そんな要るん…TOEIC~

 3回生11月の名大の研究室訪問ではTOEICについてのアドバイスも仰ぎました。名大機航の院試合格者のTOEIC平均スコアは750~800点とのこと。流石に高すぎないかと肝を冷やしました。それもそのはず、このTOEICのスコアだけ見れば、東大の理系大学院(TOEIC採用の専攻)の合格者平均と何ら変わりません。
 しかも、この合格者平均スコアは年々少しずつ上昇しているとのことで、スコアのインフレが止まりません。これに関しては研究室の先輩ではなく、教授陣が仰っていたので間違いないと思います。
 この事実を知ってからというもの、私は4回生の4月までTOEIC対策に奔走することになります。(今振り返れば、良い着火剤だったと思います。)

 そんなTOEICですが、勉強の際使用した参考書を後述しておくのでそちらをご覧いただけたらと思います。
 TOEICの良いところはやはり何度でも受け直せるという点です。何度か受験をしてその上振れの点数を院試出願時に提出すれば良いので、自分の納得のいく点数が取れるまで何度も受験をすればいいと思います。
 何度も受け直せるデメリットとしては、費用がかさむのと、途中でダレるということでしょうか。前者に関しては頑張って工面していただくしかないですが、後者に関しては一緒に勉強する仲間を早めに見つけておくのが良いと思います。実際私も周りの院試受ける組と時々集まってTOEICの勉強をしてモチベーションを維持していました。
 ここで私見なのですが、TOEICは当然就活のESにも使えます。修士卒で就職を考える場合、TOEICのスコア取得時期をうまく調整すると、院試にも就活にも使うことができてお得です。具体的には、4回生の4月実施回に自分のベストスコアが出せるよう勉強スケジュールをうまく調整すると良いと思います。TOEICのスコア期限は2年間なので、このタイミングでうまく取得できると、修士2年の4月までライセンスが有効になります。良かったら参考にしてみてください。

 さて、ここまでTOEICの話を熱く語りましたが、院試に関わるTOEICについての話に戻すと、大学院試でどれくらいTOEICスコアが関与してくるのかは本当に皆さんが志望する大学院の専攻に依るとしか言えません。現に私が受けた他2つ(東工大・静岡大)の大学院は研究室訪問で聞いたところ、合格者のTOEIC平均は600~700点位とのことでした。
 また、理系大学院を目指すならば配点は大なり小なり専門科目に軍配が上がるので、専門科目の勉強時間も踏まえたうえでTOEICを受ける必要があります。こと院試においては、優先度が高いのは圧倒的に専門科目です。
 自分にとってTOEICの存在がどういうものなのか、いま一度整理をした上でTOEICの対策や目標点の設定をされることを強く推奨します。

エピソード6 ~院試勉強ギア全開~

 TOEIC対策が一通り終わり、自分の目標点に達したところで私はようやく筆記科目の勉強に注力し始めました。この時点で4回生の5月中旬、独学科目が控えていることを踏まえると明らかにまずいのは言うまでもありません。ここから私はバイトや予定がある日は6時間、何もない日は10時間ぐらいを目処に集中して勉強していくことになります。
 古典制御工学(残り)→現代制御工学→機械力学→材料力学→熱工学→数学→力学→金属組織学→伝熱工学の順で勉強していきました。残り日数や自分の地頭を考えると、参考書だけでは間に合わないし、理解が不十分になると判断したのでYouTubeの動画をメインに参考書は復習兼問題演習用として進めました。(各科目の勉強方法や使った参考書は後述)

 また、この時期には出願書類を準備するのですが、特に大変なのが志望理由書の作成でした。どんな研究をやりたいか明確に決まっていない人は尚の事、この時点で決まっている人でもどこまで書けばよいのか分からず苦戦を強いられることになると思います。なので、一通り書き上げた段階で自分の研究室の教員に添削や相談をしてみると良いです。専門分野や研究内容が似ているならより具体的な内容を、そうでなくとも文章校正をしていただけるので必ず1度はお願いしましょう。

エピソード7 ~試験は突然に~

 7月初旬、東工大から院試の試験日程がA日程に選ばれた旨の通知を受け、私は大急ぎで情報収集、新幹線や宿の予約に取り掛かりました。東工大は院試実施方法が少々特殊なので詳しくはこちらをご覧ください。
 東工大は試験日程がA日程かB日程か判明するのが7月初旬で、ここでA日程に選ばれた場合、その1週間後には東京まで行き受験する必要があります。私もこのA日程に選ばれたので、その1週間は忙殺されていました。
 1週間後、東工大の大岡山キャンパスに出向き、試験に臨みました。結果はボロボロでした。A日程(面接)の過去問なんて当然存在しないので、聞かれそうな質問事項をネット上で掻き集めて対策をしていきましたが、試験本番で実際に聞かれたことはほとんど当たりませんでした。当然A日程は不合格です。

 今思い返すと、面接内容をネット上で調べていた事自体がそもそも間違いだったと思います。面接内容は試験規約上話せませんが、先生によって変わるようですし、何より希望研究室の先輩に直接聞いた方が確実だったと思います。想定と準備があまりにも不足していました。

エピソード8 ~落ちる恐怖との戦い~

 7月下旬、改めて東工大A日程の不合格通知を受け、私の脳内は学部受験の頃に感じた❝不合格への恐怖❞でいっぱいでした。それからというもの、私はバイトも予定も全て無くし、全て勉強の時間に捧げました。ここから院試本番(8月下旬)までの約1ヶ月は、周りの院試受験組の誰よりも集中して勉強していたと思います。

エピソード9 ~運命の合格発表~

 試験当日に台風が直撃するなど紆余曲折あった院試も無事に終え、迎えた合否発表日、恐る恐る合格発表のホームページを開きました。
 結果、名大・東工大(B日程)・静岡大の全大学院から合格内定をいただけました。家族や友人各位に結果を報告し、大変喜んでもらえました。どこに進学するかはかなり悩みましたが、最終的には自分のやりたい研究内容の優先順位が一番高い名大機航に進学することにしました。

エピローグ

 いかがでしたでしょうか、できるだけ一受験生のリアルな状況や心境の変化、それらの所々に付随する重要な点をお伝えできたと思います。
 まとめると、私の独学受験の成功の秘訣は、
①希望研究室の先輩から直接情報を得たこと
②常に過去問・自己分析と残り時間でできることの見直し
③運

だと考えています。

 ①は必須事項です。エピソード4でも語った通り、大学の授業で扱わない科目が試験で出題される以上、一番の近道は希望研究室の先輩に聞くことです。エピソード7で私が東工大A日程に落ちたのもこれを怠ったからだと思います。A日程選抜基準がブラックボックスに包まれているとはいえ、❝東工大A日程は外部の場合、旧帝大の成績優秀者レベルじゃないとまず通らない❞といったネット上の情報を鵜呑みにしたことが、準備不足を引き起こした要因だと考えます。東工大B日程受験の際には、事前に希望研究室の先輩に試験の対策などを相談して乗り切りました。

 ②も欠かせません。独学院試対策をする上で、過去問・自分のキャパシティの分析、および試験までの残り日数との照らし合わせによる勉強方法の見直しは定期的に必ず行ってください。試験までの残り日数が短くなればなるほど、この見直しは頻繁に行ったほうが良いです。過去問分析は皆さんやるのですが、意外と忘れがちなのが自分のキャパシティ分析です。エピソード6でも触れましたが、自分のキャパシティを事前に分析しておくことで、準備する勉強ツール(参考書のみでいけるのか、それとも要点纏められている音声アリの動画もセットで必要か)が分かります。その練習になるのが、普段の大学の定期試験です。過去問は皆さん準備すると思いますが、それを踏まえてどれくらいの勉強量、勉強方法でどれくらいの成績だったかを振り返ってみてください。大体の自分のキャパシティが分かって来ると思います。怠惰を続けたツケが回ってきた私は、何度も何度も勉強計画を見直すことになり、最後らへんはほぼ過去問演習だけの形になりました。それでも、惰性で勉強せずに、常に自分の現状を把握して勉強スタイルを変え続けたことが今の自分に繋がっていると思います。

 そして、どれほど綺麗事を言っても最後に待ち構えているのは③です。独学院試をする場合、この要素が占める割合はより高くなります。どれほど勉強したとて各科目に自分の苦手分野は付き物ですし、過去問分析をしたとて傾向が変わることもあるでしょう。例年その研究室を志望する外部受験生が少なくても、今年多ければ合格難易度は跳ね上がります。また、その研究室の内部進学生とも戦うことになるので、彼らがどれほど外部進学や就職で抜けてライバルが減るか、これも運です。大学院受験(特に外部受験)は大学受験以上に運に左右される試験であるということは知っておいてください。合格可能性を少しでも確実に上げる方法があるとすれば、それは早い時期から計画してコツコツ頑張ることでしょうか。私には無かった要素ですね。いずれにせよ、外部院試を受験する、まして専門科目を独学で勉強するならば当然周りの友達にも学部の先生にも質問できない過酷な環境です。相応の覚悟を持って勉強に臨んでいただきたいと思います。

 模試なし、勉強方法正解なし、模範解答なし(研究室の先輩方が作っている解答はあれど、それが正しいとも限らない)と、どこまでも不安との隣り合わせな院試受験ですが、それを乗り越えた先には皆さんの求める世界があるはずです。自分の求める世界が❝そこ❞にあるのなら、どうか戦い抜いて下さい。今の大学に受かった実力者の皆さんなら、外部院試に受かるポテンシャルは十二分に持っています。後は、皆さんの希望する大学院や専攻、研究室に応じて対策し、ひたむきに勉強するのみです。
 この院試体験記が皆さんにとって、これからの院試勉強のほんの僅かな参考になればこれほど嬉しいことはありません。もしなにか気になることや質問がありましたら、Xの@D_ham_string511までご連絡下さい。最後に、勉強方法、使った参考書、動画などを掲載して終わりにします。またどこかでお会いすることがあればその際はよろしくお願いいたします。それでは、ごきげんよう。

(+α)勉強方法、使用参考書、動画など

◉合格実績
・TOEIC 800点超
・名古屋大学工学研究科 機械航空宇宙工学系マイクロ・ナノ機械理工学専攻
・東京科学大学(旧東京工業大学)物質理工学院 材料系材料専攻
・静岡大学総合科学技術研究科 工学専攻機械工学コース

◯TOEIC
・参考書
→金のフレーズ(単語帳)、1駅1題!文法特急、極めろ!リスニング(リーディング)解答力 TOEIC L&R TEST Part1~7、TOEICテスト公式問題集 8~10、TOEIC L&Rテスト 精選模試【総合】200×2

・勉強方法
→TOEICの勉強方法については情報は沢山転がっているので、ネット上を探すなり先輩に聞くなりして、実践して自分なりの勉強方法を見つけてみて下さい。もし、私の勉強方法に興味を持たれる方は、Xの@D_ham_string511までご連絡下さい。


◯数学

・参考書
→【微分積分学】チャート式 大学教養 微分積分
   【線形代数】入門線形代数(三宅敏恒 著)
   【微分方程式】マセマ 演習常微分方程式
   【ベクトル解析】マセマ 演習ベクトル解析
 +過去問

・勉強方法
→①大学の授業で扱っていない内容の勉強
 具体的には、ベクトル解析全般です。厳密には、ベクトル解析も理学の授業では電磁気学演習(2年前期)、分光学(3年後期)でチラッと触れているのですが、それだけでは対応できません。名大機航については、マセマをやれば十分です。マセマをガッツリやって下さい。特にガウスの発散定理、ストークスの定理は頻出です。フレネ・セレーの公式は過去の出題は無さそうですが、余裕があればやっておいた方が良いと思います。

→②過去問演習
 私は時間がなかったので、ベクトル解析1周した時点で過去問演習に取り掛かりました。微積、線形、微分方程式は1年の授業で扱っていたので、過去問の中で思い出しながら演習しました。できれば、余裕があるうちから勉強を始めて、微積、線形、微分方程式の復習もしっかりした上で過去問演習に入ることをおすすめします。特に、線形代数の基底写像の内容は抽象度が高く、理解に時間がかかるので復習しておいて下さい。私自身、過去問演習で最後まで苦しんだのがこの内容でした。

◯力学
・参考書
→考える力学(兵頭俊夫 著)、マセマ 演習力学、過去問

・勉強方法
→①大学の授業で扱っていない内容の勉強
 具体的には、剛体の運動(慣性モーメント)です。何故かこの内容だけ理学の力学の授業(基礎物理学、力学A、力学B)では全く扱われていなかったので、参考書を使って習得しました。

→②過去問演習
 慣性モーメントを一通り理解した段階で過去問演習に取り掛かりました。名大機航では剛体の運動はほぼ毎年のように出題されていたので、過去問演習の中で定着を図りました。聞いたところによると、剛体の運動自体は理学研究科物理学専攻工学研究科物理工学専攻(素粒子、宇宙系)の院試でも出題されているそうなので、演習を積みたい方は外部院試仲間を見つけて対策をされると良いかと思います。
 因みにこれは噂なのですが、名大機航では力学の配点が数学の配点の2倍になっているらしく、力学で転ぶことは院試不合格に直結するので、入念に演習をしておいたほうが良いです。

◯金属組織学
・参考書
→鉄鋼材料 日本金属学会、過去問

・勉強方法
→東工大の院試科目です。試験4日前までは別の科目で受験しようとしていたのですが、あまりの点の取れなさに絶望し、一縷の望みにかけてこの科目を独学して試験に挑みました。
 試験までの日数があまりにも少なかったので、過去問を沢山解き、その過程で知識をつけていきました。過去問で出た問題は参考書の該当箇所の説明を読んで頭に入れました。
 暗記要素が結構強めで、かつ出題範囲が狭く、理解もしやすかったことから少ない時間でも身につけられたのだと思います。不変形反応の種類、ギブスの相律、ギブスエネルギー、状態図の読み取り、てこの原理、結晶構造、ベイナイト変態、オーステナイト、マルテンサイト、べガード則あたりをおさえたら、後は過去問演習で乗り切れると思います。

◯熱工学
・参考書
→【熱力学】理学部の授業資料、マセマ 演習熱力学、過去問
   【伝熱工学】名大の授業資料

・勉強方法
→①熱力学の復習
 専門科目では唯一、理学の授業で学んだ内容が活かせる科目でした。基本的には、マセマと理学部の授業資料で勉強しました。熱工学については、マセマが一通り終わってから過去問演習に入りました。
 特に、機械工学系の院試の熱力学は、断熱変化(比熱比)、各サイクルのP-VグラフやT-Sグラフ、状態変化によるエントロピー変化、マクスウェルの関係式などを絡めた問題がよく出題されます。自分が志望する大学院の過去問をよく見ながら対策をして下さい。
 補足ですが、サイクルについて完璧にしたい場合は、実はマセマに載っているものだけでは足りません。不安がある方は、希望大学院の授業資料をもらって下さい。実際、今年度(令和6年度)静岡大機械工学コースの院試では、理学の授業でもマセマにも出てきたことがないサイクルが出題されてかなりの痛手を負いました。
 また、熱工学では工業仕事単成分理想気体の状態方程式(PV=mRT、質量 m [kg]、気体の種類に依存する気体定数 R [J/(kg・K)]など)も出題されますが、こちらは理学部の熱力学の授業では扱わない内容となるため、自分で調べて理解する必要があります。

→②伝熱工学
 名大機航では、伝熱工学も出題範囲でした。理学の授業でお目にかかることは無いのでこれは独学必須です。
 この科目、厄介な点が一つありまして、名大機航で出題され始めたのがここ数年(3年前?)の話なので、解答の有無どころか過去問演習ができません。なので、名大の研究室訪問の際に先輩から名大の授業資料をいただきました。幸い、出題範囲は伝導伝熱、対流熱伝達と指定があったので、問題を決め打ちして乗り切りました。
 院試想定の問題演習を積みたいならば、他大学院の過去問にも目を傾ける必要があると思います。


◯機械力学(振動工学)
・参考書
→機械振動工学(石田幸男・井上剛志 共著)、過去問
・動画
こちらの「振動工学」の動画にお世話になりました。

・勉強方法
→①動画で機械力学の概要を理解
 独学必須の科目です。マス-バネ-ダンパシステムといった基本事項を中心として、1自由度系、2自由度系、多自由度系の振動について勉強しました。実際に勉強してみると分かるのですが、内容はどこか力学と近しいものを感じます。なので、実際勉強される際は力学から始めて、機械力学を勉強すると理解が深まりやすいと思います。後は、機械力学特有のモード解析を理解すれば一通り大丈夫だと思います。

→②過去問演習+参考書
 動画で一通り履修したところで過去問演習に取り掛かりました。物体が違ったり状況が異なるなど、見え方は変わっていても、解き方は毎年割と一辺倒なものが多かったので、過去問をベースに演習に取り組みました。モード解析については、過去問演習だけではあやふやだったので、機械振動工学の本を参考に理解を深めました。


◯材料力学
・参考書
→JSMEテキストシリーズ 材料力学、過去問
・動画
こちらの「材料力学」の動画にお世話になりました。

・勉強方法
→①動画で材料力学の概要を理解
 独学必須の科目です。覚えるべき公式や問題設定が多く、習得するのになかなか時間がかかりました。基本的には上記の動画で解説をしてくださっているのですが、柱の座屈、エネルギー法(ひずみエネルギーやカスティリアノの定理など)、トラス構造については説明がほとんど無かったのでネット上の動画を駆使して何とか理解しました。

→②過去問演習+参考書
 一通り内容をおさえたところで、過去問演習に取り組みました。過去問演習を一度解き終えるのにかなり時間がかかりました。その背景には、材料力学ならではの計算量の多さにあります。
 材料力学では特にはりの曲げに関する出題が多いので、曲げモーメントを求めた後、曲げモーメントとたわみに関係する微分方程式を積分して解くという操作をよく行います。この際の計算量が非常に多く、たくましい計算力が要求されます。
 煩雑な計算を解き終えた後に、自分の解答と研究室の先輩方が用意している解答の値が異なるときは相当メンタルにくるものがありましたが、ここで培った❝最後まで計算ミス無く解き切る解答力❞は他の専門科目の勉強にも非常に役に立ちました。最初はあまりの計算量に面食らうかもしれませんが、腐ることなく最後まで頑張っていただけたらと思います。
 

◯制御工学
・参考書
→はじめての制御工学(佐藤和也・平元和彦・平田研二 共著)、はじめての現代制御理論(佐藤和也・下本陽一・熊澤典良 共著)、演習で学ぶ基礎制御工学(森泰親 著)
・動画
こちらの動画シリーズにお世話になりました。

・勉強方法
①参考書+動画で制御工学の全容を理解
 独学必須の科目です。私はこの科目の勉強に一番時間をかけました。制御工学には古典制御現代制御の2つがあり、どちらも勉強する必要があったため、最初に勉強を始めた科目でもありました。
 この科目の特徴の一つに、ラプラス変換が非常に多く使われるという点があります。伝達関数や定常特性、システムの安定評価など使用用途は幅広く、予めラプラス変換の復習をしてからこの科目の勉強に入ると理解が深まるのでおすすめです。理学の授業では、物理数学Ⅱ(3年後期)、物理数学Ⅱ演習(3年後期)で扱っている内容になります。良かったら参考にして下さい。
 また、制御工学独自の定義や解析手法も複数存在するので、一つ一つを整理したうえで問題演習に取り組み、定着させる必要があります。
 とにかく時間はかかりますが、知識を一通り詰め込んだ上で上記の動画を見ると、知識が整理されて問題演習や過去問演習にスムーズに移行することができるので非常におすすめです。とにかく講義が分かりやすい。

→②過去問演習
 後は演習あるのみです。機械力学ほどではないですが、制御工学も聞かれることは例年割とよく似た内容なので、しっかり演習して下さい。
 古典制御では、ブロック線図、伝達関数の導出、ラウスの安定判別法、ナイキストの安定判別法(ナイキスト軌跡)、各入力の定常偏差、PID制御、ボード線図(ゲイン余裕、位相余裕など)、ループ整形法
 現代制御では、状態空間表現、状態遷移行列、漸近安定、可制御性行列、可観測性行列、サブシステム、オブザーバーゲインの解析、最適制御
 あたりの出題が目立っていたと思います。

 
◯流体力学(私は途中で辞めました)
・参考書
→マンガでわかる流体力学(武居昌宏 著)、流体力学 ~シンプルにすれば「流れ」がわかる~(築地徹浩・青木克巳・川上幸男・君島真仁・桜井康雄・清水誠二 共著)

・勉強法
 独学必須の科目です。私はこの科目も勉強はしていたのですが、残り日数、内容の難しさ、過去問の解答が無いという3つの観点から途中で勉強を断念しました。
 残り日数はさておき、この科目の内容は他の専門科目に比べてかなり難しいです。その理由は、扱う現象の複雑さ前提条件の多さにあります。詳しくは説明できないので、気になる方はネット上で調べていただきたいのですが、特に粘性流体の流動で扱うナビエ・ストークス方程式は覚えるのも理解するのも大変でした。
 それもそのはず、ナビエ・ストークス方程式はただでさえ式が長い上に、その一般解と連続性は現代に至っても証明されておらず、1億円の懸賞金がかけられているほどです。院試でこの式を扱う際には、非圧縮性流体、粘性率ゼロという2つの近似(クッタ・ジュコーフスキーの定理)のもとで近似解を解くことになります。

 名大機航の院試では専門分野を解く際、『熱工学・流体力学・機械力学・制御工学・材料力学』から3つを選んで解答するという指定があるので、私は院試では流体力学を捨て、残り4つを勉強してその中から当日3題を選択して解くという流れでいきました。名大だからこそ使えた戦略です。先輩方の解答が無いのも、同様の理由で流体力学を選択された先輩がほとんどおられなかったからだと思われます。

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