あの日に帰りたい、帰れない

「5年前に戻りたい」と思った時には「5年後の未来から自分は今タイムスリップしてきたのだ」と考えればいい、そのほうが「今」を有意義に生きられるから――そう教えてくれたのは誰だったか。
折にふれてこの言葉を思い出す。今も少し考えている。

○年前に戻りたい。

初めてそう思ったのはいつだっただろうか。
子供の――10代の頃には既に考えていたような気がする。そのたびに空想していた。あの日に帰ったらどうやり直そうか。過去に戻りたいと思うのは、今の自分を後悔しているからだ。でも結局今の自分から変わってしまうのが嫌で「やっぱりこの軌跡でよかったのだ」と結論付けて終わるのがいつものパターンだった。

19年前の秋。その頃私は実家にいた。8年間大事にかわいがっていた飼い猫を突然の事故で亡くした。本当に呆気なく。たぶん私が今までの人生で最も涙を流した出来事だったと思う。
この子の生きている過去に戻りたいと何度も願った。
この子がいない未来なんていらないと本気で嘆いた。
何ヶ月も灰色の日々を過ごしていた。

その4年後、この子にそっくりな同じ毛色の子猫を拾った。
私の人生にまた色がついた。
そして私は過去に戻りたいと思わなくなった。新しい家族、この子猫に会えなくなってしまう可能性が生まれるからだ。

でも14年生きたこの子ももういない。
5年後の私が現在にタイムスリップしてきたとしてもあの子はいないのだ。

5年前に戻りたい。戻ったところであの子の運命は変わらないのかもしれないが、5年前のあの子がいた世界で永遠に暮らしていたかった。
だけど戻れない。帰れないから今を生きる。
この「今」だって数年、いや数日先の未来の私から見たらきっと喉から手が出るほどに欲しい、尊い時間なはずだ。だから無駄にはしない。

どうか5年後の私が「べつに5年前に戻らなくてもいいかな」と思える未来に生きていますように。


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