奈落の底ってこんな感じかな
海空先生に数学を教えてもらったあとの小テストは、90点だった。
早く知らせたかったが、今度の個人授業は2週間後の日曜日に約束していた。
塾に行くことは出来ないので、我慢した。
約束の日曜日、前回と同じ待ち合わせ場所。
今回は約束の時間より30分早く到着。
海空先生はまだ来ていなかった。
10分後、海空先生の黒いハッチバックタイプの車が来た。
手を振って飛び出していこうと思ったら、助手席に誰かが乗っているのが見えた。
私は咄嗟に改札口の方へ隠れた。
たぶん海空先生からは死角になる場所。
こっそり見ていると、助手席から海空先生と同じ歳くらいの女性が降りてきた。
「また水曜日の夜ね」
「水曜の夜は塾のバイトだから、
いつものとこで10時過ぎな。」
なんて声が聞こえてきた。
私は、自分の鼓動が早くなるのを感じていた。
その女性は、私の横を通っていった。
海空先生と同じ香りがした。
5分ほどして、次の電車が来たタイミングで海空先生の車へ向かって歩いていった。
一生懸命、笑顔になるようにして・・・
でも、苦しかった。
やっぱり付き合ってる人がいたんだと、目の前で証明されたようなものだから。
車のそばへ行ったけど、助手席のドアを開ける勇気がなかった。
「今日も早めに来て待ってたよ!
稀琳に会いたくて仕方なかったんだぞ!」
助手席の窓を開けて、海空先生は笑顔で言う。
堪えていたけど、涙が溢れてきてしまった。
海空先生が慌てて車から降りてきて、ドアを開けて私を助手席に乗るように促した。
助手席に座った途端に、泣きじゃくる私。
「どうした?
高校で何か辛いことあったのか?
そうだ、海を見に行こう!」
と心配そうに私の手を握ってくれた。
海の見える公園の駐車場に着くまで、私はずっと泣き続けた。
これは1993年6月初旬のエピソード。
すごく苦しい記憶が甦ってきています。
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