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個別レッスン

あれから数か月、週3日通う塾の授業のうち1日だけ海空先生の授業だった。
担当は数学がメイン。
私はもともと数学は得意な方だったので、特にわからない問題は、ほぼ無かった。
いつも授業の最後に
『今日のところで、わからない問題があった人は、授業終了後に個別で質問に来てください』
と決まり文句があった。
いつもは21時に授業が終わって、走って駅まで向かっていた。
なぜなら、遅くなると酔っ払ったサラリーマンが多くて苦手だったから。
でも、この日はどうしても解けない問題があったので、塾の受付前にある公衆電話で自宅に帰りが遅くなると連絡してから、質問する列に並んだ。
私の前には3人いたが、全員が同じ問題で躓いていた。
海空先生は、丁寧に説明してくれたが、私だけが解答を間違えてしまったため、1人だけ残されて同じ説明を受けることになった。
『稀琳さんが、こんな問題が解らないなんて珍しいですね』って、苦笑いされてしまった。
私の隣に座って、もっと丁寧に説明してくれたのだが、とてもいい香りがして頭に説明が入ってこない。
ボーッと海空先生のペンを持つ指先に見惚れてしまった。

突然、ふざけた口調で
『おーい、真凛さ~ん、眠くなっちゃったかな~?』
と言われ、我に返った私は、どれだけビックリした顔をしていたのだろうか、海空先生に大笑いされてしまった。
とりあえず正しい解答になったので、個別レッスンは20分くらいで終わり、挨拶をして塾をあとにした。
電車は、やっぱり酔っ払ったサラリーマンだらけで気持ち悪かったけど、私の心はドキドキが止まらず。

この日を境に、私は海空先生を意識するようになっていったのでした。
これは1991年11月頃のエピソード。

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