海での会話 ~恋は奪うもの、愛は与えるもの~
海空先生からの電話の後、塾で1回授業があったが、海空先生の授業ではなかったため、すれ違いはしたが、特に話すわけでもなく経過した。
塾の模試当日、いつもよりおしゃれをして向かった。
国語・数学・英語の3教科のみの模試で、今回の結果は私立高校入試に向けてのものだった。
いつも以上に勉強して臨んだが、成果は微妙な感じな気がした。
模試を終えて、いつも乗ったことのない路線の電車に乗り、待ち合わせの駅に向かった。
その駅は、海空先生の自宅近くの駅だった。
待ち合わせの5分前に到着し、待っていると黒いハッチバックタイプの車を運転する海空先生が迎えに来てくれた。
「お待たせ」と言って助手席に招き入れてくれた。
車好きの私なのに、メーカーは分かったが車種もナンバーも不明。
(たぶんマツダ ファミリアだったような気がする)
中学校の先生方の車は、車種もナンバーもほぼすべて覚えていたのに…
緊張からの失敗だな。
駅からすぐの交差点を過ぎたところで
「海、見に行こうか?」
と言いながら、運転する海空先生。
スーツではない海空先生が、新鮮でものすごく格好良かった。
いつも以上にドキドキしていた私に気が付いた海空先生は、
「そんな感じだと、模試の成績はダメだったか?」
と微笑む。
「うーん、どうかなぁ。
頑張ったけど、ちょっとヤバかったかもしれないかな。」
そう答える私の頭を、左手でヨシヨシするように撫でてくれた。
15分くらいして、海が見える公園の駐車場に到着。
「ちょっと歩こうか?」と海空先生。
車から降りて、2人で浜辺を歩く。
空いているベンチがあり、そこに座る私たち。
「稀琳は、将来はどんな仕事をしたいと思ってるの?」
突然、そんな質問をされた。
「私はね、小さい子どもの面倒をみるのが好きだから、保育園の先生とか幼稚園の先生になりたいかな。
でも、ピアノを習ったことがないから、なれないかもしれないね。」
少し先の波打ち際を見つめながら答えた。
「高校生になってからピアノを習って、目指したっていいと思うよ」
って、笑顔で言ってくれる海空先生を見て【頑張ってみようかな】という気持ちになった。
「ねぇ、海空先生は大学で電気電子工学っていうのを勉強しているんでしょ。
そういうのを勉強して、どんな職業を目指してるの?
春になったら大学卒業なんでしょ?」
海を見つめる海空先生の横顔を見ながら質問してみた。
「俺はさ、車を弄るのが好きなんだよ。
本当は、自動車整備士になりたかったんだよねぇ。
あ、大学卒業したら、そのまま大学院へ行くつもりだから、まだ就職は先なんだわ」
塾で見ていた海空先生とは違う海空先生を見れて、ちょっと嬉しかった。
いつもは勉強のことと、高校受験の話しかしたことがなかったから。
他には、お互いの誕生日が近くて海空先生は2月末生まれで同じうお座だったことや、血液型は海空先生O型、私はAB型とかいろいろ話をした。
海空先生の彼女については一切話題に上らなかった。
少し間が空いて、また海空先生が話し出した。
『恋ってさ、奪うものなんだよ。
そして愛は、与えるものなんだ。
稀琳はまだ恋に恋している感じなんだよな…』
って。
私はナニも言えなかった。
海空先生の哲学(?)が理解できなかったから。
これは1992年10月25日のエピソード。
まだまだ続きます。
※写真は、この時の浜辺近くの海岸で2023年5月に撮影しました。
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