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キンッキンに冷えた手で、魚を生かす。研究者が真冬の水に手を浸けるワケと願い


育てるを育てる。AQSimです。

素手で触るな!

水産の現場では、生きた魚に触れるとき、かつ、触ったあとも元気でいて欲しいときに「素手で触っちゃダメだ!」と注意を受けることがあります。

これはなぜでしょう?

大抵は「魚がヤケドをしてしまう。」という表現で説明されます。
変温動物である魚にとって人の体温35-37℃はかなり熱いものであり、ダメージを受けてしまう、そうです。

でも、もう少し理解を深めて納得できるようにしたい。
そこで少し具体的に見ていきましょう。

素手で触るとどうなるのか

魚の体表は基本的に「粘液」によって保護されています。粘液は体内への病原菌の侵入を防ぐ重要なバリアとして機能するものです。タンパク質などの成分で作られているため、熱によって変性するという特性があります。

(変性については、生卵→ゆで卵のように、熱を加えてタンパク質の性質が変わる例がよく知られていますね。)

多くの魚にとって、人の体温35℃程度は粘膜がはがれてしまったり、本来の機能を果たせなくなってしまうレベルの熱さです。

熱以外に、手でつかむ圧力・摩擦・細菌などの要因も、素手で触るべきではない理由になります。いずれも粘液層へのダメージを与えてしまいます。

バリアである粘液が損傷してしまうことで、ストレスを受ける、免疫力が落ちる、感染症に弱くなる、生き残りにくくなる。という悪影響を受けるのです。

魚にとって、人間の素手がかなりの凶器であるということが見えてきました。

魚を生かすため、手を冷やす日々。

一方で、研究や養殖の現場では、魚の成長度合いをモニタリングするために定期的に魚の体長を測る必要があります。

成長をモニタリングしたいので、できる限り魚へのダメージを与えないように測らなければならない。

そこで、よく用いられるのがコチラ。

ニトリル手袋です。

ニトリル手袋を履き、先に水槽の水に手を浸けておきます。
魚に触れる面を魚の生息する水温にできるだけ近づけるため。また、手袋を濡らし摩擦を最小限にするためです。そのうえで、圧力をかけないように優しく、触っている時間を極力短くします。

厚手の手袋は、手の感覚が鈍くなってしまうため繊細な力加減がしにくい=魚にダメージを与えやすいという理由で避けられます。

ここで1枚、写真をご覧ください。

生息している水温に合わせて、手を浸けます。
すなわち、氷点下の冬でも、です。

めちゃくちゃ冷たいです。一番冷たいのは、水の中ではなく濡らしたあと寒風に吹かれたときです。きっと、間違いなく、私たちの体表にはよろしくない冷たさ。むしろ水中の方が温かいまであります。

でも、魚に生き残ってほしいから。

研究が滞りなく進んでほしいから。

皆さんに美味しい魚を届けたいから。

日々、手をキンキンに冷やして魚を触っている誰かがいるのです。

魚体計測は素早く・優しく・正確に。


そんなことしなくても。

どこまで気づかったところで。魚に触れる時間はそれだけでストレスを与えてしまいますし、計測者の労力も大きいという課題があります。

この課題を踏まえて、近年では様々な研究により、魚に触れずに、体長測定ができる技術開発が進められています。例えば、水中カメラでの撮影により、魚が泳いでいる映像から体長推定を行う技術開発など

キンキンに冷やさなくてはならなかった無数の手が、温かく守られる。
研究意義として表立って示されるような大きな成果ではないかもしれませんが、現場レベルではこういう細かいところがありがたいとも思えます。

まとめ

  • 魚の粘液は熱に弱く、素手でもダメージを与える

  • 生き残らせるために、手を冷やす計測者がいる

  • 触れずに計測できる技術も生まれ始めている

ちなみに。
水族館にあるタッチプールでは、素手で触られることへの耐性が強い生き物を入れていることが多いそうです。確かにヒトデやウニなど、外皮が硬い生物の印象が強いですね。それでも、生物へのダメージを抑えるために、強く掴まないこと、手を水に少し浸してから触れることを意識してくださいね。

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