「水温」はなぜ魚を育てるときに重要と言われているのか?
育てるを育てる。AQSimです。
魚を健康に育てていくために、水質を適切に保っていくことは重要です。
この「水質」の中身には、じつに多様なパラメーターがあります。
ただ、漁業でも、陸上養殖でも、ご家庭のアクアリウムでさえも、誰もがモニタリングしているものとなると限られてきます。
そんな普遍的なパラメーターとして、まっ先に思いつくのは「水温」ではないでしょうか?
では、なぜ「水温」が魚にとって重要なのか。
そして、なぜ「水温」が魚を育てる人間にとって重要なのか。
当たり前のように思っていたことが、実は見えなくなっていることもあります。
本記事ではこの疑問について改めて学ぶキッカケを作っていきましょう。
なぜ「水温」が魚にとって重要なのか?
魚は変温動物!水温範囲は死活問題。
魚にとっての水温の重要性に迫るうえで、魚が「変温動物」だから、というポイントを外すことはできません。
変温動物は、その体温を周囲の温度に依存する動物のことです。周りが冷たくなれば体温も下がり、周りが熱くなれば体温も上がる。そんな動物です。
私たち人は「恒温動物」で、環境によらず自分の体温を一定の範囲内に調節する能力を持っています。だから変温動物の感覚についてあまりイメージできないですよね。
変温動物であるということは、どういうことなのでしょうか?
魚たちは、自分で体温を調節するための能力を持っていません。裏を返せば、魚たちは自分で体温を調節するためにエネルギーを使う必要がほとんど無いのです。体重あたりのエネルギー消費量は、恒温動物の5~10分の一で済むのだそうです。
自分が食べる食事量をイメージして魚にエサをあげ、「えっ、これだけで満腹なの?」「あれっ、まだお腹減ってないの?」と、思ったことはありませんか?必要なエネルギーが少ない分、食べなければならないエサの量も少ないのです。
さらに、
それぞれの変温動物には、もっとも得意とする温度の範囲があります。
魚では「適水温」と表されますね。
適水温の環境下では、魚が最も健康に生活&成長できるとされています。
一方で、高いエネルギー効率の代償のように、特定の温度範囲の中でしか正常に体が機能しないという弱点があります。
水温が冷たすぎると、魚の代謝が遅くなって生存するのに必要な身体活動をするエネルギーすら生み出せなくなって死んでしまいます。
水温が熱すぎると、逆に代謝が過剰になり必要以上のエネルギー消費が生じ、体内にあるリソースが枯渇して死んでしまいます。
また、適水温の範囲内でも水温が急激に変化してしまうと、身体機能が正常に働かなくなり弱ったり死んでしまったりしてしまいます。急激な変化とは魚種や環境にもよりますが、一般的に3~5度以上の変化が短時間におこるとリスクが高まります。
このように、魚にとって自分の得意な水温環境にいることは文字通りの死活問題になるのですね。
この適水温の具体的な値や範囲は、魚種や成長段階、もともとの生息場所により異なるものです。ここでは調べる方法をカンタンにお知らせするので、ぜひ皆さんの飼育魚について調べてみてください。
正確な情報をさがすのであれば、その魚種について研究された論文を情報源とするのがよいでしょう。Elicit: The AI Research Assistantという論文検索サイトが便利です。
英語で知りたい情報を質問することで、その質問の回答になるような論文をピックアップしてくれるとともに、おおまかな要約を示してくれます。シンプルに適水温を聞くとすれば、
『「魚の名前」の適水温は何度ですか?』
➡"What is the ideal water temperature for [name of the fish]?" と聞いてみます。
例えばニジマスで聞いてみます。すると、おおよそ13-15度が適水温ということが調べられました。それがどんな研究で述べられたことなのか?何度まで生存できそうか?といったことも併せて示してくれます。
ただし、あくまでもAIが見つけてきた情報ですので、より厳密で正確な情報が必要な場合は情報源の論文をあたってみてください。自分が扱う魚にも適用して問題無いかどうかは熟慮することをオススメします。
さて。ともかく、魚を飼育するどんな主体でも水温だけはモニタリングしようとする理由が見えてきましたね。変温動物としてメリットとデメリットの両面から、魚にとって水温は重要なのです。
熱いと魚は息苦しくなる。
魚の身体機能以外のポイントからも、魚にとっての水温の重要性は説明できます。
魚に限らず多くの生物にとって必要な「酸素」。
酸素と水温の関係性が魚に対して無視できない影響を及ぼすのです。
実は、酸素が水に溶ける量は、水温によって変化します。
水が熱くなればなるほど、水に溶ける酸素は少なくなっていくのです。
魚はエラを通じて水から酸素を取り入れますが、そもそも溶けている酸素の量が少なくなると、だんだんと息苦しくなっていき、最終的には窒息して死んでしまいます。
たとえ適水温の範囲内であったとしても、陸上養殖のように高密度で魚を飼育している場合や、水槽内の微生物・植物が消費する酸素が増えてしまう場合があるため、水に溶けている酸素の量には注意が必要です。
(酸素供給についても魚にとっての重要な要素。また別記事で詳しくまとめたいと思います。)
なぜ「水温」が魚を育てる人間にとって重要なのか?
魚が健康に生きるために水温が重要であることは、ここまでに説明してきました。一方で、魚を育てる人間にとって、水温の管理が重要である理由はこれだけじゃないのです。
とくに養殖事業者にとっては、水温管理は収益に直結するものといえそうです。
成長・成熟のコントロール
先述したように、魚は水温によってエネルギー消費や成長度合いを変化させる生き物です。
この特性を利用することで、出荷時期をコントロールしたり、魚の産卵時期をコントロールするということが可能になります。
水温を上げることで魚の代謝が活発になることを利用すれば、食欲を増進して、より速く魚を大きく育てることができるようになる傾向があります。
そしてある程度魚が大きくなってからは水温を低く保つことで性成熟を防ぐということも行われます。魚は性成熟すると卵等をつくるために多くのエネルギーを割くようになるため、魚肉の質が落ちるといわれているためです。
逆に、完全養殖や種苗生産をする場合には、水温を高めることで意図的に魚の産卵を引き起こすこともあります。
魚を商品として売るには、市場の流通量や需要を予測しながら価値の高まるタイミングで出荷したいものです。生き物を商品とするにはどうしても不確実性がつきまといますが、魚自身の特性を研究し、それを利用することで効率を高めてきた歴史があるのですね。
水温維持にはコストがかかる
水温の管理は魚にとっても、それを利用する人間にとっても重要であるとわかってきました。とはいえ、実態的には水温を思い通りに維持管理することはもちろんタダでできることではありません。
陸上養殖や水槽飼育の場合は、水温のヒーターやクーラーを設置したり、遮熱性の高いもので水槽を覆ったりといった設備面の工夫が施されます。
外気温が寒ければ寒い程、温かい水温に維持するための電気代は大きくなりますし、逆も然です。魚を死なせてしまうのは間違いなく避ける必要がありますが、収益を上げるために成長を早めようとした結果、電気代の支出が膨れ上がってしまう。といったことにならないように気をつけましょう。
参考までに、一般的な電気代の予測は以下の式で計算できます。
予想される電気代(円)
=ヒーター消費電力(W)×稼働時間(h)×地域の電気単価(/kWh)÷1000
結局のところは、より詳細な情報をもとに見積もりをとる必要がありますから、機材のカタログスペックや使用期間を踏まえて計算し、計画を練っていきましょう。
まとめ
ここまで、水温をコントロールすることが魚にとっても、魚を育てる人間にとっても重要である理由を見つけてきました。
本記事で説明したのは4ポイント!
① 魚は変温動物だから、適水温かどうかが死活問題!
② 酸素は高水温だと溶けにくいので、窒息には注意!
③ 水温を管理すれば出荷時期もコントロールできる!
④ 水温の管理にかかるコストも踏まえて計画を!
このほかにも、魚とそれを育てる人間にとって水温が果たす役割は様々あるかと思います。よければ本記事のコメント欄で教えてください!
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