「Tiny Sketches」を観に行ってきました
こんにちは、AQUARING かに です。
5月21, 22日 にクリエイティブコーダー高尾俊介(@takawo)さん初の個展「Tiny Sketches」を観に行ってきました。
当日のツイートや写真とともに展示の感想や思ったことなどを振り返っていきます。
展示の感想
240 Daily Coding Sketches
圧倒的作品数!
まず1500点以上ある作品を240点に絞るという時点で大変なことが容易に想像できるのに、その上で240点の作品を全て印刷出力して展示しようと思ったこと、そしてそれをやり切ってしまうところが本当にすごいです。。
高尾さんの作品は幾何学図形を使ったグラフィックというだけでなく、コードでキャンバス全体に擬似的な質感を上乗せしている作品もたくさんあって、気がついたらグラフィックよりも質感に注目して鑑賞していました。
高尾さんが普段のスケッチで擬似的に表現している質感と実際に印刷された紙の質感を見比べてみたり、近づいたり離れたりすることで作品の見え方や印象が変わったり、印刷されることによってデジタルから印象が変化するような表現もあったり、物理ギャラリーならではの鑑賞体験でした。
展示の仕方もとても考えられていて、入り口から時系列順に作品が配置されているので時期によっての表現の変化がわかりやすくなっています。
「この時期はこういう表現にハマってたんだな〜」とか「このスケッチは数日前のあのスケッチからの引用かな〜」とか「この質感はコードでどうやって書いてるんだろう?」などなど、いろんな視点で楽しめました。
高尾さんのスケッチには乱数やノイズを使ったデジタル表現特有のジェネラティブな性質を持つ作品も沢山ある中で、デジタルでの動的な見せ方ではなくあえて印刷出力することで乱数のひとつの瞬間を切り取ったものを展示しているところから、コードによって描かれる仕組みそれ自体よりも静止画としての見え方に着目して制作しているんだな、という印象も受けました。
5月13日のオープニングトークでも高尾さんが「自分のバックグラウンドには写真があって、シャッターを押す感覚でコード実行している」と仰っていたので、そこに通ずるものがあるのかもしれませんね。
Opening Talk [ Tiny Sketches Shunsuke Takawo's 1st solo Exhibition ]
https://www.youtube.com/watch?v=ruRPUstydnE
また、通常のライティングではなくプロジェクターで白面を投影することでライティング代わりにしているのも、プロジェクターがギャラリーの壁面を覆い尽くすように設置されているNEORT++ならではのおもしろい展示方法だなと思いました。
紙の質感も相まって、投影されている部分と近づいた時に自分の影になる部分でも異なる見え方になるのもおもしろかったです。(ここまで計算されているのかはわかりませんが、、)
Daily Coding with Community Artists
高尾さんとおなじく、日常的に #dailycoding をつけてTwitterに作品を投稿しているアーティスト16名による作品も印刷で展示されています。
なんと、高尾さんからお声がけいただいて自分の作品も展示していただいています!(ありがとうございます!)
2021年の10月からデイリーコーディングを始めて、まだ1年も経っていない自分の作品を先達である高尾さんの作品と同じ空間で展示していただけて光栄です…!!
↓こちらのスケッチを印刷用に少し調整したデータを高尾さんにお渡しして、綺麗に印刷していただきました。
このスケッチを選んだのは以下の理由からです。
#AltEdu2022 のコーディングチャレンジで描いたスケッチなのでコミュニティを紹介する展示と相性が良いこと
ディスプレイと相性のいい発光表現を使っていて、印刷したときにデジタルでの見え方との差異が気になったこと
再帰表現がコードによるビジュアル表現らしさがあること
印刷だとより細部まで見せられるため、近づいたり離れたりすることで再帰表現の特徴が活かせること
「Mandala - Text」の原型になったスケッチはこのあたりです。
#AltEdu2022 のコーディングチャレンジが始まる前は drawingContext でのグラデーションに表現にハマっていて、再帰分割でちょうど曼荼羅を作ったところだったので、矩形の部分を「曼荼羅」の文字に変えました。
印刷展示での16名の作品に限ることなく、リアルタイムに #dailycoding をつけてTwitterに投稿された作品が表示されるディスプレイ展示もあり、現地にいない人も一緒に展示を楽しめるというのが普段からコミュニティを大切にしている高尾さんらしい展示方法ですね。
自分のスケッチがディスプレイに表示されているところも撮れました!
新作NFTコレクション 「Tiny Sketches」
今回の展示のために新たに制作されたNFT作品もディスプレイで展示されています。ぱっと見ですぐに高尾さんらしさを感じる4つの作品で、これまでのスケッチ同様に紙のような質感が付与されているのですが、よく見ると今までのものとはすこし違った質感になっていて、デジタルなのに紙質が変わったかのような印象を受けました。アスペクトが1:1でなく9:16になっているところも空間の広がりを感じさせて良いですね。
Generativemasks
Generativemasks 10,000エディションがランダムに表示されるディスプレイ展示と、その3Dプロトタイプも展示されています。
壁に貼られているのが最近リブランディングしたときに新しくなったロゴで、文字が Generativemasks のエレメントで構成されていてかっこいいですね。
3Dマスクについては、2Dの図案をうまく3Dに落とし込む方法を模索中とのことで、今後の展開に注目です。
展示空間について
ここまでで展示物は終わりなのですが、部屋を一周するように配置されているため二度三度ループすることで同じ作品でも毎回違った見え方になるところがとても考えられていて良かったです。
高尾さんのデイリーコーディングと、コミュニティとの繋がり、そして Generativemasks の活動のすべてがシームレスにつながっていることが展示空間そのもので円環として表現されていて、自身の初の個展としてどのような見せ方にすべきか熟慮した結果たどり着いたひとつの答えなのかな、と思います。
トークイベント「NFT, コーディングの観点から考えるメディア・アート」
21日19時からは、ゲストにICC主任学芸員の畠中実さんと多摩美術大学の久保田晃弘さんをお迎えしてのトークイベントもありました。
自分は大学時代にメディアアートの作品制作を行なっていたこともあり、このトークイベントの情報がリリースされたときに絶対この日に観に行こうと決めましたw
メディアアートのバックグラウンドがあって現在進行形でデイリーコーディングをしている自分にとってはとても興味深い内容がいくつもあったので、興味のある方はぜひ YouTube のアーカイブでご覧ください。
NFT, コーディングの観点から考えるメディア・アート [ Tiny Sketches Shunsuke Takawo's 1st solo Exhibition ]
https://www.youtube.com/watch?v=S5aZ1RIUyHQ
「NFTアートの定義」「アンクリエイティブ・コーディング」「日記としてのデイリーコーディング」などなどいろんなテーマでお話しをされていましたが、中でも久保田さんがスライドで紹介されていた「媒介過程の不確実性」(コード実行時における予測不可能性)という言葉が一番印象的でした。
いままで自分がデイリーコーディングをする中でぼんやりと感じてきた「PCと一緒にスケッチを描いている感覚」だったり「少し値を変えただけでガラッと印象が変わる現象」が簡潔に言語化されていて、しかもその「媒介過程を作品の成立条件とすることで現代のメディア・アートの原型をなす」という考えもとても面白く、今後は今まで以上に意識的にデイリーコーディングを楽しめそうな気がしています。
久保田さんが執筆された以下の記事では、GitHub Copilot を使って p5.js を書く実践がより具体的に紹介されています。
自分のデイリーコーディングについて
ここからは自分のデイリーコーディングの話になります。
今回のトークを聞いたり、高尾さんやNIINOMIさんと実際に会って話してみて、自分のデイリーコーディングについて見つめ直すきっかけにもなったので、最近の活動も含めてここで言語化しておきます。
つぶやきProcessing
最近は普通のスケッチをあまり描いていなくて、ここ3週間以上つぶやきProcessingをデイリーコーディングとしてTwitterに投稿しています。
通常のスケッチとは頭を使う部分が全く違うので、一度つぶやきProcessing脳に切り替えたら一定期間続けて、飽きたらまた通常のスケッチに戻って、を繰り返しています。
自分はつぶやきProcessingをパズルゲーム感覚でやっていて、遊びと表現を両立できコード量も少なく30分程度で書けるのでデイリーで続けやすいです。
あえて正しい書き方から逆行するような(詩的な)コードの書き方を人力ですることによって、無意識的に普段の仕事で求められるコード設計や可読性の呪縛から心理的に解放されている、というのもあるかもしれません。
コーディング過程の記録
ちょうど一週間ほど前からコーディングの過程を画面収録してYouTubeにアップするようになりました。
(黙々とコードを書いているので喋ってはいませんが…。)
始めたきっかけはデイリーコーディングとは関係なく、仕事で他のメンバーが書いたコードをリファクタリングしていたときに「ただコードを修正してコミットするだけでは元のコードを書いたメンバーの本質的な理解に繋がりにくいのでは?」と思い、思考の過程を共有するという目的で試験的にリファクタリングの様子を録画して共有してみたことがあって、それをデイリーコーディングでもやってみたものが続いている、という状態です。
例えばスケッチを書き始めた時点では「こういうスケッチを描きたい」と思っていたけどうまくいかず、途中でコードを全部消して書き直した結果最初に作りたかったものとは全く違うスケッチができあがることもしばしばあって、その過程というのは出来上がったコードと実行結果のみからは一切読み取ることができないので、コーディング中の様子を記録として残すことでクリエイティブコーディングのより本質的な部分も共有できたら、と思ってコーディング過程の録画を続けています。
仕事でのコーディングとの違い
仕事でのコーディングと自分のデイリーコーディングは合目的性や機能性という意味では対極にありますが、コーディングの過程で「コーダーが何を考えてどういう順番でコードを書くのか」「何を選んで何を捨てているのか」が重要だというのはどちらにも共通していて、ことデイリーコーディングにおいてはその過程も含めて創造的な行為なのだな、と思います。
仕事では可読性や保守性など目的ごとに設けられた方針に従って半ば受動的にコードを書いていくのに対し、デイリーコーディングの場合には偶然できる形や模様の面白さを能動的に探っていきます。
この部分は、まさに今回のトークイベントで久保田さんが仰っていた「媒介過程の不確実性」にもつながる話ですね。
高尾さんのデイリーコーディングとの比較
自分から見た高尾さんのデイリーコーディングは以下のような特徴があります。
静止画
図形を並べる
質感へのこだわり
生活や文化をコードに落とし込む
心情の表現
オルタナティブな表現
MIT(まあいいか適当で)精神
日記感覚
こうしてリスト化したときに、自分との共通点として挙げられるのは以下の2つかなとおもいます。
生活や文化をコードに落とし込む
日記感覚
自分のスケッチはアニメーションやインタラクションがあるものが多く静止画のスケッチは少ないのですが、身の回りにあるものから着想を受けてそれを再現するようなコードを書いたりする部分は似ていると思います。(自分の場合は具体物で高尾さんの場合は質感にフォーカスしている点では違いますが)
日記感覚というのは、別の言葉にするなら「日々と表現の記録」のような感じで、「きょうは〇〇であそびました。たのしかったです。」くらいの日記をつけてるような感覚でコードを書いています。自分は季節ネタでスケッチを描くことも多いので、その点では日記的性質も多分にありますね。
デイリーコーディングを始めてからまだ一年も経っていないので、自分で自分の作風みたいなところはまだ認識できていないのですが、もし他者目線での印象や特徴などあれば聞いてみたいところです。
さいごに
今回の展示鑑賞を通して改めて継続することの強さを実感するとともに、作品やモノの質感を見る解像度がすこし上がったような気がします。
トークイベントも気づきや納得がたくさんあって、自分のデイリーコーディングを見つめ直す良い機会になりました。
展示は6月12日(日)まで開催しているので、クリエイティブコーディングに興味がある方もない方もぜひギャラリーへ足を運んでみてください〜!
ギャラリーに来られない方は、Twitter に #dailycoding をつけて作品を投稿しましょう〜!
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