12. コロンビアのストリート
まるでシルクドソレイユを連想させるようなアクロバットパフォーマンス、片手でつまめるマンゴーやチップスの販売、隣の車から爆音で流れてくるラテン音楽。信号が赤に変わるたび、コロンビアのストリートはあっという間にテーマパークと化す。しかし、その空間は社会の階級を恐ろしいほど鮮明に映し出す。パフォーマンスが終われば、ジャラジャラと小銭数枚を握りしめた手が、ピカピカに磨かれた高級車の窓から伸びてくる。そして物乞いや売り子はそれを目がけ足早に歩いていく。黒く燻んだ色の手と、ブランド時計を身につけている綺麗に手入れされた手のコントラストが目に刺さる。私は何度もこうした光景を見てきた。コロンビアのストリートは、エンタメの宝庫であるのと同時に、深刻な経済格差や社会的弱者の貧困問題が恐ろしいほどに見受けられる空間だったのである。
これは私がコロンビア在住中、毎日のように目にしていた光景だ。渋滞大国として有名な首都ボゴタでは、日々多くの人々が渋滞に巻き込まれ頭を抱えている。こうした状況を利用して、ストリートビジネスは利益を得ている。食べ物やドリンクの販売のみならず、箒などの日用品を売っていることもある。また、様々な道具を使ったパフォーマンスや、洗車サービスまで存在する。渋滞していても必ず暇つぶしする事ができる、まさにエンターテイメントの宝庫なのだ。その反面、様々な社会問題も突きつけられる。ストリートで働く人々の多くは、貧困に苦しみ不安定な収入源で、その日凌ぎの生活を送っている。またホームレスや障がい者、子どもたちなどの、社会的弱者が売り子や物乞いとして道に立っていることも少なくない。親たちは子ども達をストリートに送り出し、同情を買わせにいくのだ。私はストリートという空間に出るたび、困惑と当惑の二つの感情にコントロールされていた。