年間ベスト映画2019を選んだ
今年も自分なりに10本を選んでコメントも書いてみた。作品によってレビューの濃淡や文量が若干異なっているけど10本ぶんコメントしつつ記事として長すぎないようにするための調整ということでご容赦ください。選考対象の鑑賞作品は最後にまとめて載せるよ。
今年劇場で観賞した新作映画、約40本を対象に選定しました。
それではどうぞ。
【いずれの作品も、シナリオの確信に触れている場合があるのでネタバレ注意!!】
10. 愛がなんだ
僕はこの作品の登場人物ってだいたいみんな嫌いなんだけど、テルちゃんやスミレさんが中原くんに「お前と葉子の関係、なんなんだよ!?」的な内容の言いがかりをつけてるのに対して、この2人 (特にテルちゃん)は誰かに矛先を向けることで自分の状況が間違っていないと思いたい想いがあるんだろうなと解釈した。
所謂「職場にいるおばさんたちが女性若手社員に結婚や出産をいつするのかやたらと聞いて話題にしたがるけど、そのおばさんたちは自分の人生の選択が正しかったのかどうかについて不安であるが故に他人の状況に口を出したがっているのだ」みたいな話と重なる。
そうなると、例えばあるSEさんが「技術職なのに会社以外の時間に勉強もしてない同業者ってプロ意識あんの?」みたいに思っていたとして、その裏には「自分が勉強した時間はちゃんと自分の糧になって成果につながると信じたい」っていう不安と焦燥を抱えているのと同じなんだぁと悟って、それに気づかせてくれたこの作品は尊いなぁと思う。
9. エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ
「EIGHTH GRADE」って名前なんだから8位の方が収まりが良いのかもしれないけど9位になった。人生、27歳くらいになってから本格的に楽しくなってきた実感があって、中高生の頃からキラキラしてる人達とはノリが合わなくてもソリが合わなくてもいいんだよとは思っている。でも思春期には、「大人になってから楽しいよ」という我慢のススメなどではくて、今この瞬間を肯定的に捉えられるきっかけが必要だ。そうして「私には特別な何かがあってきっとクールな人間なんだ」と信じてもがく経験をした人こそが、将来本当に自分を持っているクールな人になれる。ってケイラが10年後に自信を持って気づいてくれるといいな。
8. Once upon a time in Hollywood
シャロン・テートが殺害されず、リック・ダルトンがインターホン越しに彼のファンと出会うラストシーンによってあの作品ではいろいろなことが報われたのだと思って爽快な感慨に浸れた。でも一方、現実は報われないこと/ままならないことばかりで、ブラピが演じたクリフがつぶやく「I tried.」という含みのあるセリフのように、「努力ならしたさ (結果がどうかなんて言わせるなよ)」と思ってしまうことばかり。その爽快さと苦さを両方含んだ、爽やかでも湿った風のような作品だと思う。
7. 国家が破産する日
経済的に先行き不透明な時には「政府は国民のためを思ってなんとかしてくれるはずだ」と思いたくなるかもしれないが、実際にはその危機を私欲を肥やすための好機にしようとする人たちが政府の側にもいる。それを忘れてはならない。という告発であると同時に、「公」のために尽くす優秀な官僚が確かにいるということへのエールでもあると思う。この後でJOKERのくだりにも出てくるけど、油断してはならないと痛感した。
6. 天気の子
JOKERもUSもそして天気の子も、既存の社会や体制が用意したセーフティネットの外側にいる人による大きな変革を描いていて、そういう変化の前提となるような格差の拡大・悲しみの蓄積が起こっている。
「バーニラバニラ高収入♪」ソングが “東京らしさ”の一端として鳴ることは非正規雇用を増やして持続している日本の経済状況の象徴だし、陽菜たちが食べるごはんによって、若い子たちが直面する貧しさを愚直に描いている。
タイトルに添えられた「Weathering With You」なんだけど、”Weathering” はもともと「風化」していく、古びていくという意味で、結局これは「(Japan have been) weathering With You」ということなのではないかと最近思うようになった。私達が年をとっていくのと時を同じくして、日本は経済的にも文化的プレゼンスの面でもどんどん沈んで風化していく。
それでも、山田宗樹「百年法」のラストにあるように決して希望を捨ててはいけないのだと思う。そこにあるものを好きな人と一緒に食べて世界を祝福できる気概と勇気を持ち続けていたい。
5. JOKER
社会に蔓延する怒り・悲しみ・憎しみが街に住む人々の間に蔓延し、このクソ過ぎる世の中に変わって欲しいという願いが積み上がった背景があって、シンボルのようにジョーカーというキャラクターが生まれてくる筋書きそのものの怖さによって、現実に現代社会で起きているストレスの急上昇こそが油断ならない不安全状態であることを喝破している。
クラウンがメイクをしているのは、サーカス団のライオンやヘビたち: つまり曲芸用の猛獣に噛まれても観客には笑顔を向けておくためだと聞いたことがある。そんなメイクのように、仕事でも家庭でも降りかかる叫び出したくなるような絶望感を「仕方ないから」と塗りつぶすように、多くの人がメイクのように表情を顔面に上書きして人前に出ているのだと思う。
だから世界が暴動の火に包まれる日が訪れるのは映画の中の絵空事なのでは決してない。油断するな。本作を見てからそう警戒するようになった。
4. アイムクレイジー
音楽活動をやめるかやめないかという自分のコントロール下の問題で悩んでいた青年が、子供と一緒にいる時間を確保しながら仕事を続けようと挑むシングルマザーと出会い、そこへ「施設へ預けるのがこの子のためだろ」と言い張る元夫が現れる。母子とセッションした多幸な一瞬が忘れられないバンドマンは、その子を抑圧ではなく解放に導くように奔走する。
大人が身勝手にいろんなことを決めようとする一方、世の中の複雑さ・ままならなさの前には最適解とか完璧な解なんてものにはそうそう辿りつけるわけではない。だから何かをオンにするかオフにするかの2択のように問題を単純化できないし、悩みながらみんな生き続けようとしている。その葛藤の中で生き続けていること自体が前進なのかもしれない。
曽我部恵一さん (本作で銀幕デビュー!)の「いいおじさん」っぷりが凄くキマっている。必見!
3. ホームステイ 僕とボクの100日間
今年いろんなnoteがアップされた中で、特に素晴らしかったのは下記の「呪いが解ける日」だったと思う。
家族によってかけられた呪いが自分を苛み追い込んで行くようなしんどさの中で生きていることになったという点では本作の主人公: ミンも本当に辛い思いをしている。この映画は小説「カラフル」が原作なのだけど、主人公の周りの人間関係は原作よりももっとドロドロしている。息が詰まりそうだ。
でも、たとえどんなに周囲が信用できなくても、汚く見えても、自分で自分を傷つけたりしないでね。いつかきっと、呪いが解ける日がくる……。どこかにいる誰かにそんなことが届来ますように願いたくなる作品だ。
2. スパイダーマン: スパイダーバース
圧巻の映像美や迫力のカメラアングル切り替えと演出により、映画館で映像を観るという体験に新次元の興奮をもたらしてくれた。映画にできることはまだあるじゃん (もう無いのかとは別に誰も問うてないけど)。
自分が何かの役割を引き受けるという重圧に立ち向かうこと、それを支えてくれる人が、共に闘う仲間がいるということ。主題歌はポスト・マローンの「Sunflower」だったけど、ポスト・マローンの今年のアルバム「Hollywoods Bleeding」にDaBabyもYoung ThugもFutureもオジー・オズボーンも参加している頼もしさがなんとなくオーバーラップする。
1. 家族を想うとき
ネット通販であれコンビニであれ物流であれ、私達が享受する利便性の影では誰かが搾取されていて、家族という枠組みを維持するために労働に耐え忍んでいる悲劇がある。映画の舞台となっているのはイギリスだけど、日本でも多くの人が同様の構造的な問題に苦しんでいるし、今や様々な場面で私達の生活を支えている外国人労働者をこの国は守っているのか?と言う点では懐疑的にならざるを得ない。
この映画はラストシーンの衝撃によって、私達の生活と本作の内容が完全に地続きであることを示している。生き残るには何を身につけるべきか自分なりに考え直す契機として強く刻まれた。
---
まとめて10本を並べる。
1. 家族を想うとき
2. スパイダーマン: スパイダーバース
3. ホームステイ 僕とボクの100日間
4. アイムクレイジー
5. JOKER
6. 天気の子
7. 国家が破産する日
8. Once upon a time in Hollywood
9. エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ
10. 愛がなんだ
鑑賞した作品のリスト
前年以前公開の旧作を含んで37本だった。
1月: なんも観てねぇ
2月:
PSYCHO-PASS S.S Case 01 罪と罰
サスペリア
PSYCHO-PASS S.S Case 02 First Guardian
ファースト・マン
3月:
グリーンブック
スパイダーマン: スパイダーバース
PSYCHO-PASS S.S Case 03 怨讐の彼方に
4月:
バイス
台北暮色
魂のゆくえ
5月:
名探偵ピカチュウ
6月:
主戦場
アメリカン・アニマルズ
ゴジラ キングオブモンスターズ
ハート・ビーツ・ラウド 〜たびだちのうた〜
アベンジャーズ: エンドゲーム
7月:
プロメア
スパイダーマン・ファー・フロム・ホーム
新聞記者
天気の子
8月:
イソップの思うツボ
9月:
やっぱり契約破棄していいですか?
Us
愛がなんだ
Once upon a time in Hollywood
HELLO WORLD
10月:
時計じかけのオレンジ
JOKER
TOURISM
アイムクレイジー
YESTERDAY
ホームステイ ボクと僕の100日
空の青さを知る人よ
11月:
国家が破産する日
12月:
殺さない彼と死なない彼女
EIGHTH GRADE 世界で一番クールな私へ
スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け
家族を想うとき (← 昨日観てそのままベスト1位に躍り出た
来年も、良い映画ライフが待っていますように。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?