真珠湾の潜水艦とピースサイン:忘れられた歴史の記憶
ハワイの真珠湾は、日本人観光客にとっても人気の観光地の一つです。そこには戦争の歴史を伝える多くの施設があり、その中でも「USSボーフィン潜水艦博物館」は多くの人々が訪れる場所となっています。しかし、この潜水艦「ボーフィン」が1944年に日本の避難船「対馬丸」を撃沈し、主に子供を含む約1400人の命を奪った事実をどれだけの人が知っているでしょうか。
観光地としての「ボーフィン」と忘れられた真実
「ボーフィン」は「真珠湾の復讐者(Pearl Harbor Avenger)」という異名で讃えられ、現在もその功績を称える形で展示されています。観光客は内部を見学でき、当時の潜水艦の生活や作戦内容を体験することができます。しかし、その展示内容は、アメリカ側の戦果を強調するものであり、「対馬丸事件」のような悲劇的側面についてはほとんど触れられていません。
一方で、日本人観光客がこの潜水艦の上でピースサインをしながら写真を撮る光景が目立ちます。これが単なる観光地での楽しみだと片付けられるなら、それは深刻な問題です。この潜水艦が多くの日本人、特に子供たちの命を奪った戦争犯罪の象徴であることを知らずに訪れることは、歴史の記憶を曖昧にし、忘却へと導く行為そのものだからです。
対馬丸事件とは何か
1944年8月22日、沖縄から九州へ疎開するために民間人が乗った「対馬丸」が、アメリカの潜水艦「ボーフィン」によって魚雷攻撃を受け、沈没しました。この船には約1700人が乗船しており、そのうち多くが子供でした。犠牲者は約1400人にも及びます。この事件は、非戦闘員が多く含まれる船舶を沈めた明らかな戦争犯罪です。
しかし、この事実は戦後長い間公にされることがなく、多くの日本人はこの悲劇を知らずにいます。それどころか、「ボーフィン」は戦争の英雄として讃えられ、その上で写真を撮る日本人が後を絶ちません。
なぜ日本人は知らないのか
この現象の背景には、日本人の歴史認識の欠如があります。
教育の欠落 日本の学校教育では、対馬丸事件のような日本側の被害についてはほとんど教えられていません。一方で、戦争中の日本の加害行為については強調される傾向があります。その結果、日本人自身が自国の戦争被害について知らないまま大人になるケースが多いのです。
戦後の情報操作 戦後、アメリカは日本に対して「ウォーギルト・インフォメーション・プログラム」を実施し、日本人に「戦争の全責任は日本にある」と認識させる教育を行いました。これにより、日本の被害が軽視され、加害行為ばかりがクローズアップされる状況が作られました。
観光地としての商業化 ハワイでは、戦争の歴史が観光資源として商業化されています。これにより、悲劇の側面は意図的に隠され、戦勝国の栄光だけが強調されています。日本人観光客もその流れに無自覚に巻き込まれていると言えます。
ピースサインの矛盾
ボーフィンの上でピースサインをすることは、一見無邪気な行為に見えますが、深刻な矛盾を孕んでいます。ピースサインは平和の象徴ですが、その場所が多くの命を奪った戦争犯罪に関与した潜水艦であることを考えると、適切な行動とは言えません。この行為は、歴史の重みを理解せず、忘却を助長する象徴的な姿と言えるでしょう。
私たちがすべきこと
対馬丸事件や「ボーフィン」の歴史を知ることは、日本人が自国の歴史を正しく理解する第一歩です。
教育の見直し 学校教育で、対馬丸事件のような事実をしっかり教えるべきです。戦争の悲劇を多角的に理解することで、真の平和を築く土台を作ることができます。
観光地での態度 歴史的背景を知らずに訪れることは無責任です。観光地であっても、その場所が何を意味するのかを理解し、追悼の気持ちを持つことが大切です。
国際的な発信 対馬丸事件のような悲劇を英語や他国語で発信し、戦争の不正義を国際社会に知らせる努力が必要です。
真珠湾の潜水艦博物館でのピースサインは、単なる観光行為では済まされません。それは、日本人の歴史認識の欠如と、戦後の情報操作の影響を象徴する行為だからです。戦争の記憶を正しく理解し、次世代に伝えることは、私たちの責任です。この小さな「違和感」をきっかけに、多くの人が歴史を再考することを願います。