【戯曲】あの日、君と、【1】

配役

小橋 モテない主人公

滝田 小橋の就学時代からの親友

浅井 斉藤の元カレ、自分の家族の宗教内で結婚が決まっている

斉藤 左足が不自由 

宮野 小橋の新しいバイト先の姉さん。婚約者に浮気されていた

act1

カフェで向かい合わせに座っている小橋と滝田。

小橋が立ち上がりジャンケン前の儀式(その人の思いつく儀式)を行う


小橋 見える……見えるぞ! おごーりジャンケン! ジャンケンポォン!!


小橋がチョキ、滝田がグーを出す。


滝田 よっしゃあぁ! 俺の勝ちー! はいっ! ここの支払いはお前の奢り  な!

小橋 がぁぁぁぁ! なんでだっ! お前がグーを出すのは予知してたんだよ! 実質俺の勝ちだろうがっ!

滝田 なんだそのアホ理論! グー出すってわかってたんならパーだせよ!

小橋 出したかったさ! でもグーの事も気になるけど、チョキに対する気持ちが忘れられないって時がさ

滝田 そんな瞬間生きてて一回もねぇわ。変な理屈捏ねてないでさっさと千円出せや


滝田、テーブルの上の明細を小橋に渡す


小橋 よしっ……滝田よ。千円くれ

滝田 はっ? いや、俺が千円出したら奢りジャンケンした意味ないだろうが

小橋 まぁな

滝田 「まぁな」じゃねえよ。そもそも奢りジャンケンしようって言ってきたのお前だろ

小橋 いいか、よく聞けよ。奢りジャンケンしようとは言ったが俺に金があるとは一言も言っていない。これに関しては百パーセント、俺が金を持っていると勝手に判断したお前の落ち度だ

滝田 なんで金持ってないんだよ。バイトの給料入ってるだろ?

小橋 馬鹿を言うな。俺は今無職だ

滝田 は? いや、コンビニで働いてたろ?

小橋 辞めた

滝田 辞めたっ! え? 何かあったのか?

小橋 色々あってな。教えたら千円くれるか? 五千円でもいいぞ?

滝田 何で値上がりするんだよ!

小橋 この話には五千円の価値はあるんだよ。話すも涙。聞くも涙。月九ドラマになる可能性すらある

滝田 はぁ……まぁ、一応聞いてやるよ


小橋、立ち上がり咳を二回する


小橋 三か月前、俺の仕事先にくーちゃんと言う大学生のゲキカワの女の子が入ってきた。俺は店長からくーちゃんの教育係に任命された。これは運命だと俺は感じた。多分、くーちゃんも同じ気持ちだった

滝田 んなわけあるかい

小橋 くーちゃんはおれより小柄で髪の毛も逆プリン、私服もサブカル系で俺のドストライクな見た目だ。俺は初日からくーちゃんに懇切丁寧にコンビニの仕事を教えたんだ。そして、いつの間にか俺はくーちゃんに恋心を抱いていた。多分……くーちゃんも……

滝田 んなわけあっ

小橋 シャーーーーラップ! おだまりっ! そしてそこから俺はくーちゃんに近寄る危険を事前に察知して安全を確保してあげるようになった。具体的には、男の客がレジに来たら俺が全て対応し、店内から視線を向けるようであれば番犬のごとくそいつに向かってうなり声をあげた。奴らのような貧弱な男達はそのうなり声に気負い店から逃げ去っていたんだ

滝田 そら店員にうなり声あげられたら怖くて逃げるだろうよ。俺でもやべぇコンビニ店員いるわって帰るわ

小橋 で、だ。俺は考えた。果たしてバイト時間だけくーちゃんを守るだけでいいのか……と

滝田 え?

小橋 昨今の我が国はとても危険でヘビーな国家になっている。そんな国でか弱い女の子が一人で出歩くなど言語道断だと俺は思った

滝田 待て待て待て!

小橋 だから俺はくーちゃんの身の安全を確保するために帰り道のボディーガードをすることを決めた

滝田 ストーカーじゃん

小橋 ボデーガードだ!

滝田 くーちゃんに許可取ったのかよ

小橋 無論

滝田 それなら

小橋 無許可だ

滝田 駄目だこいつ

小橋 俺は自分のバイト時間が終わってからくーちゃんの帰宅時間までは駐車場の隅っこで店内に怪しい男がいないか監視を行った

滝田 お前が一番怪しいぞ

小橋 そしてくーちゃんの帰宅時間になり、俺はくーちゃんに気が付かれないギリギリの距離で後をつけたんだ。もちろん、後ろ姿をカメラで抑えながら

滝田 ストーカープラス盗撮かい!

小橋 そして、くーちゃんは俺のボディーガードにより無事に自宅に辿り着いた。二階建ての一軒家だ。お父さん、お母さん、弟と一緒に暮らしている

滝田 で、それで満足して帰ったのか?

小橋 いや、まだ続きがある

滝田 あるのかよ

小橋 自宅にいて一番危ない時はどこだ? わかるか無能

滝田 誰が無能だ。えーと……寝てる時か?

小橋 それも一理ある、だが一番は風呂に入ってる時だ。全裸だし外に逃げることもできない、それに盗撮の可能性すらある。だから俺はくーちゃんの入浴が終わるまで風呂場の換気扇下に身を潜めることにした。くーちゃんは帰宅後すぐにお風呂に入ってきた。くーちゃんの鼻歌が聞こえてきたから確実だ。俺は家の周りに不審者がいないか警戒しつつ、換気扇から香るシャンプーの匂いを嗅いだ


小橋、何度も匂いを嗅ぐモーション、何度か嗅いだ後に内ポケットから袋を出し匂いを袋に詰めるモーション


滝田 何やってんだよ

小橋 くーちゃんが風呂から出た後、俺は任務を終えすぐにドラッグストアに向かったんだ。そしてこの匂いと同じシャンプーを探した


小橋、シャンプーの蓋を開けて匂いを嗅ぐ、何個か匂いを嗅いだ後に袋の匂いを確認して「これだ!」と言いそうな汚い満面の笑顔をする


小橋 そのシャンプーで頭とついでに体も洗って次の日に自然を装い、くーちゃんに「あれれーもしかして俺とくーちゃんて同じシャンプーじゃね? マジ偶然、はたまた運命?」って言ったんだ

滝田 くーちゃんからしたら恐怖でしかないな

小橋 で、その日の休憩時間に店長に呼び出されたのよ


滝田、立ち上がる。(エプロンがあるならつける店長役)


滝田 あのさ、小橋君。実は誰とは言わないんだけど女の子がね、ちょっと君と働くのが嫌だ……と言うか、うん。気持ち悪いというか……うん……いるんだわ

小橋 はぁ

滝田 まぁさ、俺もこの仕事長いから、若い女の子ってほら、そこら辺過敏じゃん? 一度嫌いになると全部悪く見えるみたいな?

小橋 そうかもしれませんね

滝田 だからこれからあまりシフトが被らないようにするんだけど小橋君はあんまり気にしないようにしていいからね。ほら、何も話さないでシフト被らなくなると逆に気にすると思って

小橋 わかりました

滝田 で、もう一つ、最近コンビニにクレームの電話とメールがよく来るんだけど全部「小橋って店員に威圧された」とか「小橋さんはコンビニの番犬か何かですか?」とかなんだよ。監視カメラを確認したら確かに君がお客さんに度々威嚇してたんだけど、あれは何があったの?

小橋 そこで俺はくーちゃんに対する行動を全て店長に話した。そうしたら店長はこう言った

滝田 ごめん、小橋君。もう俺でも庇いきれないよ。君と働くの嫌だって言ってたくーちゃんが正しかったんだね……


滝田、エプロンを外す


小橋 そして俺はその休憩時間中にバイトをクビになった。な? ひどくね?


滝田、小橋の頭を後ろから叩く


滝田 お前が悪い!


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