
Photo by
hananosu
【掌編小説】きこりが落としたもの
ある日、一人のきこりが鉄の斧で木を切っていると、うっかり手を滑らせて、斧を泉に落としてしまいました。
すると泉から美しい女神が現れてこう言いました。
「あなたが落としたのはこの銀の斧ですか? それともこちらの金の斧ですか?」
女神はそれぞれの手に銀の斧と金の斧を持っていました。
するときこりは女神の白く細い手を取って言いました。
「わたしが落としたのはあなたへの恋です。そう、この世で一番美しいあなたへのね」
女神はきこりににっこり微笑むとこう言いました。
「金の斧と銀の斧、両方喰らいたいんですか?」
それからというものの、今でも女神はきこりが他の女の子に調子のいいことを言うと、寒気のするような笑みを浮かべて、斧を手にします。二人の子どもは、またかと呆れた目でそんな二人を眺めるのでした。おしまい。