PEファンド面接対策|④未経験での転職はCWFから始めよ
前回は、面接官の視点を意識して、セルフチェックリスト作成の必要性について述べました。皆様は、セルフチェックリストを作成されましたか?
まだ作成されていない方は、読み進めていく前に、一度立ち止まって作業されることをおすすめします。
CWF構文からはじめよ
”石丸さん構文”や”進次郎さん構文”、”ヒス構文”や”おじさん・おばさん構文”など、世の中は構文ブームです。PEファンドに就業を希望される皆様は、CWF構文からはじめていただきたいと思います。
面接官視点との統合プロセスも、この過程にあります。
CWM、すなわち「Can、Will、Must」というフレームワークがありますが、Must(すべき仕事や使命)はCanに包括されるべきとの整理です。
ではCan、Will、Fitとは何でしょうか。
Can:
私は、貴社の即戦力足り得る人材です
Will:
私は、強い意思と動機(Will)があり、ハードシングスを乗り越えることが出来る人材です
Fit:
私は、貴社のカルチャーフィットが高い人材です
上記を面接の中で、効果的に伝達していくことが必要です。
インタビューは、聞かれた質問に回答することが大前提ですが、こちら側の思惑を適切に伝達することも、ビジネスにおけるコミュニケーションには必要不可欠な技術と言えます。
これまで繰り返し述べてきた即戦力アピールは、Canの領域です。
正直なところ、Canのハードルが超えられないと、WillとFitはあまり高いウエイトをつけていくことが難しい印象です。
ただし、Canにも幅が存在することと、魅せ方によっては大きく価値が変動することを忘れてはいけません。
なお、WillやFitはPEファンドにおいて、業界外から見た際には、想像以上に重要な要素です。この点は別途、記載したいと思います。
スポットライトを照らすということ
重要な準備が「まずはCan」であれば、モデルやケースの準備をすべきである、と考えた方もいらっしゃるかもしれません。それは趣旨と異なるのですが、まずは一つの題材を示したいと思います。
インベストメントバンクで就業中の方は馴染み深い話ですが、株価と価値は異なります。
M&Aにおいて株価とは何かと言えば、現在の株式所有者と株式の譲受人が取引する対価のことです。株価は売り手にも買い手にも共通の合意事項であり、取引が成立する場合は、唯一の解だと言えます。
では価値とは何か。価値とは、立場、思惑、考え方などによって大きく変化する対象です。
バリュエーション(価値評価)とは何か。この問いはやや複雑です。
DCFを含む複数の算定方式で取得価額が合理的であるという証拠作成としての位置づけもあれば、入札案件のターゲットプライスを正当化可能な事業計画水準やそこへ向けた到達手段を探るための戦略的フォーキャスト行為でもあるでしょう。今回は、買い手にとっての価値を見つけに行くプロセスをバリュエーションだと考えましょう。
少し例を見てみましょう。
A社
X事業で日本市場のシェア20%を誇るA社は、日本市場の先行きを悲観的に見て、X事業を譲渡し、そこで得た資金をAsia Ex-Japan市場へと振り向けたいと考えます。
B社
一方のB社は、X事業と隣接するY事業を有します。X事業とY事業が統合されれば、原材料の調達原価やサプライチェーン関連費用の著しい合理化が期待され、販売先となる顧客重複割合も多いことから営業効率も上がり、生産性改善により捻出された人材を積極投資中だが人材が不足気味のZ事業へアロケーションさせる戦略の採択が可能と考えます。
市場トレンドなどは、バリュエーションにおいてあくまでも所与の特定因子であり、大事なことは、主体者としてのスポットライトをどこからどう照らしますか?という点です。
単一ではなく、その人や状況によっても変化します。
これまで、未経験者でもPE業界への参画が可能と繰り返しお伝えしてきました。
それは、あなたは、自分自身であなたの価値を創りだせるという事実があるためです。無論、最終評価者は面接官ですが。
そして、ある意味では同質的なキャリアの集団であるプライベートエクイティ業界に、これまでとは異なる専門性やノウハウを持つ人材が参画し、多様性の中で、業界をさらに良い方向へ変えていっていただけたら、大変うれしく思います。
もちろん、戦略コンサル、インベストメントバンクの方々は、志や能力が高く、これまでのキャリア形成を計画的に行ってきた方が多く、ぜひとも希望されるキャリアを形成していただきたいと思います。ただ、杓子定規で聞き覚えのある志望動機は、聞いていて退屈なのは事実です。
あなたのCanを照らすアイデアこそが重要
皆様はマーケティングの勉強をされたことがありますか?
マーケティングは上述の価値に近い性質があると言えます。
誤解を恐れずラフに表現すれば、
どうしてこんなものが売れているのか?というのが、全員には理解されないが特定の需要を持つニッチな商品であり、
これはみんな買うよね、というのがマスの商品です。
PEファンドのインタビューを前に、LBOモデルのトレーニングを否定するつもりはありません。
しかしながら、「モデルできます」、「M&A実務できます」、「BDDできます」という鉄板アピールは、マスマーケティング的な考え方です。
逆に、「自分はここで勝負する」というファクターを入社前に持っておくことは、特に未経験者においては重要性が高いと考えられます。
冒頭に述べた通り、面接の中では、CWFを効果的に伝達していくことが最も重要です。面接の過程で、モデルは大丈夫なのか?という質問は来るでしょうし、来なければ言えば良いわけです。
逆にそこから始めるのであれば、自問自答してみていただきたいことがあります。
それで勝負できますか?
PEファンドにおいては、ラージキャップ~スモールキャップまで、誰もが欲しがる優良なアセットはほぼ共通です。
そのために、ソーシングを積極的に働かせ、非上場企業であれば相対、上場企業においても、外野から突っ込みの入る前の、近時の〇〇ソフトのような状態を形成したいという算段が働くのです。
その空間においては、関係者の利害、恐怖、経済合理性、適法性、リスクなどが、動的な姿となり、ダイナミックかつ繊細に形成されていきます。
3ヶ月あればそれなりに出来るようになるモデルは、ここでは付加価値の源泉にはなり得ません。
インベストメントバンクにおいてグレイ・ヘアが担う役割は、PEファンドでは早々に訪れます。LBOモデル構築、ピッチ、DD対応など、仕事はいくらでもあるのですが、未来永劫アナリストワークをやりたい方はさほど多くないと思います。そもそもモデルなんて経験していない(?)業界シニアの多くが、商業銀行や総合商社から業界に入って活躍されています。
大事なことは、あなたのCanが照らされて欲しくなるシチュエーションを限られたインタビューの時間内において創ることです。
ポジショニング戦略というセオリーがありますが、これは、他社との差別化によって自社商品を選び続けてもらい、売上につなげることを目的としたものです。 究極的には、競合他社のものやサービスと比較されない独自の役割や価値を築くわけです。
実際のPEビジネスにおいても、情報の非対称性が無くなりつつある中で、投資テーマ構築をはじめとしたユニークなアイデアは、価値のギャップを現実空間に創り出すきっかけとなります。
本来、PEファンドにおけるバリュークリエーションの醍醐味はここにあります。
レバレッジ、マルチプル・エクスパンジョン、EBITDAグロースという言葉は皆さんが知る時代になりましたが、投資の原則と価値の源泉は、「アルファであり、歪みをどう見つけ出すか?」です。
テクニカルな分析だけで、超過リターンを上げ続けることは困難です。
共通の情報が普及すればするほど、そこからのアルファは低減します。
この歪みを、行動と知能と人脈で、自らが創り出せるというのが、PEの究極的な可能性と楽しみ方です。
こうした意味で、未経験者が業界に新しく何かを持ち込める可能性が現実的に存在します。
投資家を目指す皆様は、杓子定規に考える必要はありません。皆様はCanを何にセットし、どう照らしますか?
参考書籍
ライト、ついてますか 問題発見の人間学
有名な一冊ですが、読んだことがない方はぜひ。
insight(インサイト)
いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力
自己認識の構造を理論的に解明し、エビデンスにもとづいたより深く自分を知るための方法、その気づきを行動に変える方法が述べられた書籍。
ファンドの業務理解には、事例を知っておくことが有用です。
以下の記事では書籍なども紹介していますので、参照してください。