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地震物語(4)

[第4日(1月20日)]

 朝が来た。隣の一家が夫だけを残して親元の九州に避難すると言う。朝刊による死者4047人。大学のときによく会った女性から速達葉書が届く。会社に電話して私の無事を確認してくれたらしい。結構嬉しい。

 午後、700メートルほど離れた浄水場で水が汲めることが分かり、父と妻が自転車とバケツで取りに行く。昨晩周囲を見なかった父は、この地の惨状をその往復で認識する。垂水区の親戚宅に移ることを決めた両親と、姫路の親元に身を寄せることを決めた妻と息子とで、焼肉を食べる。電気だけは通じているので保存していた肉を焼くことだけはできた。1歳3か月の息子は一人ではしゃぐ。私一人が残ることを決めた現状では、もうあまり食料は自宅に必要なかった。

 夜、会社からの支援物資が届く。妻を同行させて会社の人たちに礼を言う。昨日通れることが分かった道を使って、駅に近い部長宅に私のクルマで物資を届ける。途中で行きつけの酒屋夫妻を店の前で見つけ、窓を開けて大声で声をかける。大丈夫ですかー。子供さんはー。皆生きてますー。何となく元気が出る。

 品物を渡した後、空を見上げると星が美しい。シリウス、リゲル、アルデバラン、カペラ、ポルックス、プロキオン、ベテルギウス。オリオン座の周囲に六角形に配置された一等星の名を思い出す。小学校3年生のときに覚えたから確かではない。

 帰途は浄水場で大型のゴミバケツにビニール袋を入れて水を手に入れる。流れ放しの水汲み場がもったいない。私たちの安否を気遣う電話が回線状態の良い夜に相次ぐ。深夜に取引先から飲料水の支援バイク便。大阪から来たというアルバイトは、2号線伝いで2時間かけて運んだのだと告げた。

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