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捻くれ将軍の気遣い症候群

 ぼくは捻くれ将軍だ。

 物心がついた頃にはすでに、”絶対的権力に逆らえるものはいないのだから気に入られておいた方がいい”という思考回路が出来上がっていた。

 小学生の時、「先生に言うからね!」という言葉を、誰もが一度は使っただろう。大抵の人間は脅し文句としてそれを使う。が、私は本当に言った。結局みんな先生が怖いのだから、先生を使うのが一番だと思っていた。
 しかし、この先生にチクる行為には、日頃の生徒の行いが重要になってくる。真面目でいい生徒であればあるほど、先生からの信頼は厚く、すぐに信用してもらえる。逆に、不真面目な生徒であればあるほど、「まーた嘘ついて」や、「はいはいわかりました」で、若干信用してもらえないかもしれない。
先生も人間だから。
いつかの「先生に言うからね!」の実行のために、私は日々、信頼貯金を蓄えていたのだ。もちろん私の信頼貯金は功を奏し、いつだって万全の威力を発揮してくれたのだ。

 さらに学年は上がり、中学生になった。授業も、小学校に比べ一段も二段も難しくなり、テストで100点なんて取れなくなった。なんなら呼び方だってテストから試験というなんかちょっと難しそうな呼び方になった。試験方式も先生の自作のものになったため、同じ国語の授業でも、担当してる先生によってテストのレベルに差が出始めた。
 運命のテスト返却。私のクラスの国語の平均点があまりにも低かった。そう、難しすぎたのだ。今思えば、平均点が低いと言うことは、みんな点数が低いので、恐らくクラスでの相対評価の成績にはなんら影響はないし、影響があるとすれば、テストの学年順位だが、そんなの知る術がなかったので関係ない。が、私のクラスは先生に大ブーイングをかました。先生、落ち込む。元々細くて小さくて、さらに苗字にも細がつく先生が(関係ない)、どんどん小さくなっていった。萎む先生。私の目が光る。今こそがチャンスだ!みんなに嫌われている今この瞬間こそ、私の好感度を上げるチャンスなのだ!ただ、露骨に先生を慰めて他の生徒の反感を買うわけにもいかない。この作戦を感じとられるのもまずい。そこで、友人を誘い、なんとなく間違えた問題の質問をしに行く。その行動も反感を買うんじゃないかって?買わない。なぜなら私は学級委員だからね。普段からの真面目貯金のおかげでそんなことは思われないのだ。ここで少しでも先生の中での株を上げておけば、仮に成績で89%(90%以上が580%以上が4だと仮定して)で評価が4になった時、「この子は真面目でいい子だから5にしてあげよう。受験頑張れ!」という気持ちになるだろう。
先生も人間だから。
多分、不真面目少年少女は89点でもなんの迷いもなく4で通すよ。人間だもの。私ならそうするね。人間だもの。まあ、結局成績がどうなったかは覚えてないが、推薦受験の作文対策にとても力を貸してくれた。やはり、信頼貯金はしておくものなのだ。

 高校受験当日に必死に単語帳やノートを見る人間たちがいるが、あれって本当に意味あるのだろうか。正直、当日にやることなど、試験に向けて心を落ち着かせること、トイレを済ませておくこと、お腹が鳴ることに気を取られないように腹ごしらえをしておくこと、睡魔に負けないように睡眠しておくこと、他人の邪魔をすることぐらいじゃないか。そう、最後の最後に自分を上に上げることなど出来ないのだから、他人を下に落とすことをすればいいのだ。
 静かな教室。聴こえるのは時計の秒針の音、ページを捲る音、鉛筆が紙を駆ける音だけだ。このような時ほど、音に敏感になるのが人間の性なのだろうか。
 「はじめ」の合図で一斉にページを捲る音がする。そこで隣前後から、自分より早く次のページを捲る音がするとどうだ、焦るだろう。だから1ページ目など解いてもいないのに、とりあえず誰よりも早く次のページへの扉を開いた。それだけでは終わらない。さらに、鉛筆の音を無駄に立たせて、より相手の集中力を損なわせる。効果は抜群だ!!さあ、焦るがいい!私の周囲のライバルども!!これは受験ではない戦なのだ!と言わんばかりに私の心は他人の邪魔をするのに燃え上がる。………何やってんだか。
 などとゲスい作戦を思いついた私は、違和感のないように他人の邪魔をする最低(限)の力を最後に使い切り、無事受験合格。ちなみに私の周囲の人間たちも無事合格。私の最低(限)の努力は儚く散った。

 大学生になってアルバイトを始めた。本当に多種多様なバイトした。アパレル、ドラッグストア、コンビニ、居酒屋、清掃、工場、イベントスタッフ、タピオカ屋、代行人エトセトラ。。。
 出会いがあれば別れもあるように、はじまりがあればおわりがある。これを読んでいる人はバイトをどのように辞めていたのだろうか。バイトをやめる報告してから約1ヶ月間、こいつどうせもういなくなるのに、、という期間が私はもどかしい。なんとなく、気まずい。大した理由もないのにどうしてやめるのか聞かれるのが鬱陶しい。ならば、理由を聞きづらくすればよいのだ!と考えた捻くれ将軍は、あたかも”夜の仕事をしなければ生きていくことができなくなった”人間に擬態をし、どのアルバイトからも立ち退いた。こう言ったからには、次の出勤からはなんとなく暗いオーラや、元気のない空気感、日に日になくなる笑顔等、小細工を忍ばして出勤する。あくまでも、家庭の事情で辞めますとしか伝えない。だが、漂う負のオーラ。そこから残った人々には何かを察してもらう。仮に、どうしたの?と聞かれても「ここのバイトだと厳しくなってしまったので…」の一点張り。こうすることで後味の悪さも感じることなくバイトを辞めていたのだ。
……今思うとこれ効果あったの?
まあ、当時の私には最高の案だったからいっか。

捻くれ将軍は今日も何処かを歩いている。

でもそんな捻くれ将軍は気遣い症候群を患っている。

それはまた、次回にしよう。



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