見出し画像

晴れやかな気持ち

私服とパジャマ、歯ブラシにタオル。
入院の準備が終わった。

昨日から泣きっぱなしで、目が腫れている。
まさか自分が入院するなんて。

昔は夢も見れていた。
あんな暮らしがしたいとか、あんな仕事に就きたいとか。
幼い頃の思い出が蘇ってくる。
何も考えず遊んでいた無邪気な頃。
大人たちに憧れていたあの頃。
こんな田舎の風景さえ、大冒険だった。
でも、全部変わってしまった。

狂い始めたのは、最近のことじゃない。
小学校で発達障害。
学校と両親からの耐えられない理不尽。
中学、高校、そして大学。
蓄積していく不条理と暴言。
感情が壊れていく音がした。

そして今日。

空は憎たらしいほど晴れている。
現実から目を逸らしたくて、最後の抵抗。
イヤホンで耳を塞いで、大好きな音楽をかける。
好きな歌手一人ひとりの歌声が、突き刺さるように鼓膜を揺らす。
ほんと、泣きっぱなしだ。

いつも通りの私服を着る。
雑貨屋で買ったお気に入りの服。
包み込んでくれるような温かさが好きだ。

ため息を吐いて、重い腰をあげる。
外に出ると、やっぱり空は憎たらしい。
人の顔に容赦もなく、日光を照らしつける。
少し伸びた草花がうんうんと頷いている。
日照りの中を虫たちがとことこ歩いている。
そして私は、車に乗る。

車に揺られながら、この20年のことを考える。
ここは祖母とよく歩いた道。
ここはよく自転車でよく通った道。
春の風が桜並木を揺らしている。

今から数ヶ月、旅に出る。
心を治すための旅に。
帰ったら、みんなで歌いたい。
公園に集うて、大きな木の下で、ギターを鳴らして。
泣いたり、笑ったり、たくさんしたい。

美味しいものも沢山食べたい。
綺麗な景色を見に行きたい。
恋バナだってしたい。

だから、今は心を大切に。
みんなと平和を歌えるように。
いつか晴れやかな気持ちになるために。

行ってきます。

いいなと思ったら応援しよう!