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温かい苺と鶏のたまご

17才長女と10才長男を連れて、実家へ行った。以前は月に2回以上は様子を見に行っていたが、伝染病や私の怪我が重なって、会う機会は数ヶ月に一度になっている。

両親は、放っておくと致命的に仲が悪くなってしまう。こまめに会って、簡単な昼食を用意して二人の話を聞く必要がある。月に2回は孫に会わせて二人を和ませようと、頑張って通っていた。夫婦でお互いを尊重できなくても、子どもや孫を大切にする人たちなのだ。

パンデミック開始から半年会えないでいたら、親戚を巻き込んでの大喧嘩になっていたらしい。結論だけいうと、近隣の親戚と絶縁、両親は仲が悪いながらも二人っきりになった。半年ぶりに会って話を聞いたら、この夫婦は一周回って仲良くするしかないところに追い込まれていた。

今回も、会うのは2ヶ月ぶりくらいだったか。両親はとても歓んで、いちご狩りに連れて行ってくれた。

ひなたで温まった完熟いちご

子どもたちは初めてのいちご狩りだ。いちごは、木ではなく草で、地面に植わっていて、ビニールハウスで育てられる。畑で頂くいちごは、ひとつひとつ味が違っていて、温かいということ。

私の両親は仲が悪いけれど、子どもと孫にたくさんの経験をさせてくれる。大事にしてくれる。私を親戚大戦に巻き込まなかった。

***

ありがとう、また来るね。二人と別れて子どもたちと帰路についた。車で5分くらい走ったところで長女に電話がかかってきた。父が、卵を持っていけと言う。

実家は鶏を何羽か飼っていて、時々、卵をかえしてヒヨコも育てている。田舎で隣の家まで徒歩1分くらい離れていて敷地も広いから、来客のない時は小屋から出して遊ばせているらしい。とても美味しい卵を拾えるのだ。私たちは実家に引き返した。

すっかり日は落ちていた。山の中、外灯のない本当の夜の闇に、父は独りで私たちを待っていた。大事に育てている鶏の卵を10個もパックに入れて、渡すために。

学校が始まったら、昼間に実家へ通う日を作ろう。父はきっと、暗闇で独りだ。母もまた、独りリビングでため息をついている。私や弟たち(3人姉弟きょうだい)に負担をかけないように、辛くても二人でそれぞれ我慢している。

消毒しながら、お昼ご飯を作るよ。マスクして一緒に散歩をしよう。ずっと来れなくてごめんね。

真っ暗闇に卵を持って立っていた父を何度も思い出して、ごめんと口の中で言っている。


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