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スペシャル靴下

ひとり暮らしの貧乏学生をしていた頃
ワンルームの私の部屋は出入り自由だった。

合鍵をポストに入れて
男女関係なしに友達が自由に出入りしていた。

バイトでヘトヘトになって深夜帰宅すると
友達が集まって宴会してたり…
家に帰ると誰かしら居るのが
私には嬉しかった。
それだけで元気が出た。

クローゼットの中の引き出しには、
我が家に出入りする友達の名前がそれぞれ書かれてあり、
みんな部屋着や着替え等私物を入れていた。

その引き出しにお気に入りのグラビアアイドルの写真集を入れてたのが…
今の旦那だ。

自宅から大学まで片道1時間以上かかる彼は、
我が家の居候常連組だった。

彼がたまに実家に帰ると、
大きなリュックを背負って、

「おかんが、apricotちゃんに渡せって持たせてくれた」

と言って
大量の食品や生活用品をリュックに詰めてきてくれた。

海苔、高野豆腐、お米、お煎餅、昆布、レトルト食品、梅干し、
トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチンペーパー、紙皿
…等々

決して洒落た物ではなく、
生活感溢れる素朴な差し入れに、彼の家族の温かさを感じていた。

寒くなってくると、彼は手編みの靴下を家で履いていた。
当時彼には年下の彼女がいて
(その彼女もまた、我が家の常連組でした)

手編みの靴下は、彼女からのプレゼントだとばかり思っていたのですが…

ある日、実家からまたもや大量の差し入れを持ってきてくれた彼のリュックから、

「これ、マジで温かいから、履いてみ!」

真新しい手編みの靴下が出てきました。

彼がいつも履いていた手編みの靴下は、おかんの手編みでした。
それからおかんの靴下は、冬の必需品になり、
いつからか?
「スペシャル靴下」
とか、略して
「スペくつ」
と呼ぶようになりました。

毎年毎年おかんは新しい靴下を編んでくれ、
穴が空けばすぐに直してくれ、
あったかい、あったかい、
おかんのスペシャル靴下

後に彼と結婚して、子どもがうまれ、
小さい可愛い子ども用の靴下も
毎年編んでくれました。

今日から12月
今年もスペシャル靴下の季節がやってきました。
おかんの手編みの靴下で
足元ぽかぽか
体ぬっくぬく


…と言いたいところですが…

ここ数年おかんのスペシャル靴下をはいてません。

思い出せば10年前の冬
おかんからの突然のカミングアウト

「私、ヨットで世界中を旅してくるから、
apricotちゃん、みんなのことよろしくね!」

…と笑顔で
「大阪のおかん」から「冒険家」に転身宣言をして
旅立ってしまったのです。

えっ!?
えっ!?
えぇぇぇぇぇぇー!?


そんなことってある???
いや、これ、マジな話し…
ネタじゃないよ…

60を過ぎて突然冒険家になった
ぶっ飛びおかんの話は…
またいつかあらためて…
(おかんの話はいつかその全てをまとめて記録するべき…と…
おかんへの恩返しに私のするべき使命…
…と思っている…)

今頃どこかの知らない国の海の上…

おかん…
何で…
旅立つ前に…
スペシャル靴下の作り置きしといてくれなかったんよー(泣)

最近の冷え込みで
おかんとスペシャル靴下が恋しくてたまらない日々なのであります。

寒いよぉぉぉ~

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