クラフトビール店のテーブルを製作しました|家具の設計〜EMARFを使った製作
こんにちは、yujiです。フリーランスで建築・ものづくりに関わるデザインをしています。
先日、わたしが設計・製作したテーブルが店舗に導入されました!依頼をくださったのは、CYCAD BREWING(サイカドブリューイング)というクラフトビール醸造所+タップルーム併設のお店です。
この記事では、このテーブルを設計・製作することになったきっかけ、設計プロセス、組み立てや塗装の様子、テーブルが完成するまでのことをまとめています。
わたしにとって初めての家具づくりの仕事(しかも設計〜製作まで全部!)だったこともあり、最初こそためらいもありましたが、最後までどうにか作り切ることができて本当に良かったです。ご協力いただいた方々への感謝を込めて、そして家具作りをしている方・興味のある方に向けて、この記事を書きました。
⬇︎より詳しい設計についての情報は、こちらの記事からどうぞ!
⬇︎はじめての家具作り体験談も、別の記事にまとめています。
ちなみにこの家具の製作には、上の記事でも書いている EMARF という木材加工サービスを使っています。EMARFを使っている方のケーススタディとして参考になるかと思いますので、「まだ使ったことがないけれど興味がある!」という人も含めて、興味のある方はぜひ最後まで読んでみてください。
お店のテーブルを作ることになったきっかけ
始まりは今年の1月。私がよく行くクラフトビール店 Gremlin (グレムリン)の店主から、新しいお店でスタンディングテーブルが欲しいという相談を受けたことがきっかけです。
これまで自宅用の木製家具をEMARFでいくつか製作していたこともあり「今回もEMARFで製作できるのでは?」と説明したところ、とりあえずやってみよう!となり制作が決定。あっさり動き出したものの、今回のように大きな家具を設計・製作することは初めてでした。不安と期待が混ざった気持ちで製作スタートです。
1. デザインへの要望〜大まかな姿を決定
(グレムリンでビールを飲みながら)「どんなテーブルが欲しいのか?」という会話が続いたのですが、そこで出てきた課題が、
「お客さんが、手荷物を置く場所に困っている」
ということ。手荷物用のカゴなどを常備するのは、動線の邪魔になるし美観上もあまりよろしくない。グレムリンのテーブルには手荷物用のフックをつけているが、お客さんは意外とそれに気づかず、荷物を床に置いてしまっている。この状況を、家具の形状で解決したい!とのことでした。
店主のこうした要望を踏まえて、テーブルのかたちは 天板の下に棚板を設置する形状 で考え進めることになりました。
さっそくお店で現調
概ねの方向性が見えてきたところで、さっそく新店舗の現調へ。実際に店内を見ながら、テーブルのサイズを検討しました。
既存カウンターやレジからの動線的な余裕も考慮しつつ、対面で話をしながらビールを飲むことを想定したつかず離れずな距離感、立ち飲みでグラスを置く高さや、天板下の棚に荷物を置く動作が自然できることなどを考えて、テーブルは幅4.5m、奥行0.6m、高さ1.0mで製作することに決定しました。
2. 細かくデザインを検討→仕様決定
ヒアリングと現調を経て、要望と環境に合う大まかな姿を決められました。次は詳細設計です。
・素材/構造/接合部を検討
具体的な形にするために、どんな材を使うか、どのような構造にするか、往復しながら検討を進めていきました。
まず素材について、最終的に決定したのは以下。EMARFで選択できる材の中から、構造的に成立しつつ、店内の空間とも馴染むように壁・天井の木材と合いそうな材を選びました。
構造と接合部については、家具形状をスッキリさせることを優先しつつ、構造強度や組み立て順序も考慮。継手と仕口が極力シンプルになるように形状を考えました。
手書きスケッチでの検討から始め、次にライノセラスでモデリング。だんだんと解像度を上げていきました。特に接合部の仕口・継手の設計はものすごいエネルギーを消費。ほぼノイローゼ。笑 木材を扱う難しさを感じました。
・店主と一緒にデザインを確認→最終調整
詳細デザインを店主と一緒に確認し、細かな調整を行って設計完了です。初期デザインから段階ごとに確認を挟み、コストについても都度調整・相談をしていたので、スムーズに合意が取れました。ちなみに、相談をもらってから仕様確定までにかかったのはおよそ40日くらい。あとは作るだけとなりました。
<デザインの検証をするために店内+テーブルのCGも作成>
3. 材料を準備
設計→提案内容にOKをいただき、まずはEMARFにデータを入稿。加工された木材が届くのを待つ間に、製作作業に必要なものを買い揃えていきました。
製作経験がさほど多くなかったこともあり、製作過程で必要な道具はプロの方々のYouTubeを漁りながら研究しました。
そして、加工された木材が3月の半ばにお店に到着。届いた木材が設計通りに加工されているか、組み立てがしっかりできるか心配でしたが、概ね問題はありませんでした。
4. いざ製作開始
必要なものが一式揃い、ついにテーブル製作スタート。実際に行った製作手順は以下の通りです。
1日目:脚の組み立て(二人作業)
今回の設計は、基本的にビスなどを使わず、木材のみの接合と接着剤で組み立てていく仕様です。まず始めに、全部で12本ある脚のパーツを組んでいきました。接着剤の塗布後に圧着するための治具も、全ねじ1mと1×4材を活用して自主製作しています。脚を組み立てて、接着剤をつけて治具で圧着して、1日目が終了しました。
2日目:脚同士の組み立て(三人作業)
1日目に作成した脚同士を組み合わせていきます。脚同士を受材で組み合わせ、100均で購入したクランプで止めて、この日は作業を終了。
3日目:棚板と天板の組み立て(七人作業)
ここが一番の山場!棚板と天板を組み立てていきました。木材の反りなどがある中、なんとか組み立てていき、強度も安定感も問題なく、無事にテーブルが立ち上がりました。(2、3日目の現場製作には、グレムリンの常連さんたちが駆けつけてくれました。本当に感謝です。)
4〜5日目:塗装(一人作業)
ひと通りテーブルを組み上げ終わり、次の作業はオイル塗装。防水性と防汚性、使っていくたびにいい感じにエイジングしていくことを期待して、オスモカラーのノーマルクリアを使用。クリア塗装で濡色になり、木目がはっきり出るようになって、内装と馴染むようになりました。
翌日には、2度目を塗りました。木材がオイルをよく吸うので、天板は特にしっかりと塗るようにしました。
6日目:仕上げ(一人作業)
塗装状態の確認後、やすりがけをして仕上げ。格段に手触りが良くなりました。テーブルの完成です!
6. テーブル完成!お披露目の日
4月1日にお店のオープンパーティがあり、家具が使われている姿が見られました。お客さんたちが楽しそうにテーブルを囲んで飲んでいる様子に、とてもホッとしたのと同時に、嬉しい気持ちが込み上げてきました。作って良かった。
お客さんのほとんどが、テーブルの棚収納に手荷物を置いていたようです。設計意図通りに活用されていて、設計者冥利につきます。
これまでは設計者として主に建築を手掛けてきましたが、今回のように家具をゼロから自分でつくることで、非常に多くの学びが得られました。家具製作を任せていただいたCYCAD BREWINGの皆さま、そして家具製作の手伝いをしてくださった皆さまに、心から感謝しています!
おわりに
この記事で紹介したテーブルは、CYCAD BREWINGでどなたでもご覧いただけます。4月1日にオープンした要町駅付近のお店で、池袋からも徒歩10分程度で行ける距離です。この場所では、以前から SNARK Liquidworks(スナークリキッドワークス) の店名で美味しいビールが提供されてきましたが、屋号が変わり、さらにパワーアップ!最高のクラフトビールが飲めます。
EMARFを活用した事例を店舗で見られることは、まだそこまで多くないのかなと思っています。EMARFを活用される際のご参考にも、お店に足を運んでいただけたら嬉しいです。
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下記の有料記事には、設計〜製作の中で上手く行ったこと・上手く行かなかったことなど、事細かに記載しています。ご興味のある方、良かったらご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!この記事が、皆さまのものづくりに役立てたら嬉しいです。
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