リップヴァンウィンクルの花嫁(2016年)

画像1 リップヴァンウィンクルの花嫁は、岩井俊二監督が自身の小説を映画化した作品。物語自体、映画化のヒロインに選ばれた黒木華に当て書きされたものだそうで、作品のイメージに妥協しない岩井俊二監督らしいです。実際役柄や性質がピッタリで、彼女の良さが最大に生かされた作品になっていると思います。
画像2 主人公の皆川七海は派遣教師として働いている。ネットで知り合った男性と待ち合わせてデート。相手の鉄也も教師で、その日に2人は意気投合。いとも簡単に手に入ってしまったとSNSに書き込む七海。そのままお付き合いはとんとん拍子に進み、結納まで交わす。離婚した父母がその場を繕って結納に参加した。岩手から出てきた父親は訛りが強く、真面目でちょっと気難しそう。母親は若い男を作って家を出た。あっけらかんとしていて、七海の性格やイケてない感じを相手側の両親に晒してケラケラ笑っている。どこかチグハグな家族関係が見える。
画像3 七海はクラムボンというアカウントで投稿している。友達付き合いがあまりない七海は、結婚式に呼ぶ人が2人しかいないと鉄也に話すと、見栄えが悪いからもう少し呼べないのかと言われてしまう。SNS上で見知ったランバラルという人物から、披露宴代理出席のバイトがあることを教えられ、そのサービスを受けることにした。
画像4 ランバラルに披露宴代理出席のバイトを仕切っている安室という人物を紹介され、待ち合わせ場所のカフェに行ってみると、いかにも胡散臭そうな男が待っていた。安室行舛(アムロ行きます)ってwww 事業内容やサービスについて淡々と説明し、事務的に話を進めていく安室。この得体の知れない軽い男がまたよく似合うのよねーw お安くしときますよ、「ランバラルの友達なんで」が口癖。早くも安室は七海を取り込んでしまった。この時から七海はこの何でも屋を通して、今までの生活とは打って変わった体験を続けるのである。
画像5 授業をする時の声が小さいことを生徒にからかわれ、教壇にマイクを置かれる七海。本当にマイクを使ったら、学校から注意を受け、派遣契約を打ち切りにされてしまった。生徒達にはマイクが原因でクビになったとは言えないので、寿退社ということにしてしまう。生徒達から花束を貰い、心が通いあったと思いきや、花束の中にはおもちゃのマイクが仕込まれていた笑。
画像6 派遣教師をする傍らコンビニバイトをしたり、オンラインで家庭教師をしたり、ギリギリの生活で細々と暮らしていた七海だが、ついにネットで知り合った鉄也と結婚。ニセモノの親族や友人に出席してもらい、余興あり、笑いあり、涙ありの良い式を開くことができた。突然やってきた幸せの絶頂。
画像7 しかし、部屋を掃除している時に女性の指輪が落ちているのに気づく。え?浮気?!とっさに安室に相談して浮気調査を依頼する。またある日鉄也の浮気相手の彼氏を名乗る男が突然訪ねてくる。卒業アルバムを開きながら、鉄也の同級生の浮気相手の女性を確認。疑惑が現実に変わり、事態をやっと飲み込み始めた七海は気分が悪くなり、その場に蹲ってしまう。その後七海は浮気相手の彼氏から誘いを受け、弱みを握られた負い目で関係を迫られる謎の展開にハマるが、安室が助けに来る。でもどうやら男と安室はグルのよう?
画像8 親族の葬儀で鉄也の実家を訪れた際、浮気現場をとらえた動画を鉄也の母親から見せられ、問い詰められる七海。もちろん否定。鉄也こそ浮気していると反論するが絶縁宣言され、追い出されてしまう。「実家の岩手まで」とタクシーに乗せられたが、自身の潔白と鉄也の不貞を証明するため、一旦世田谷のマンションへ向かう。しかし、浮気相手の顔写真が載った卒業アルバムからその女性が消えており、鉄也の浮気疑惑自体が無かったことになってしまった。一体どういうこと?七海を完全にハメてどん底に突き落とそうと仕組んでいるのは誰なのか??
画像9 住む家もない、仕事もない、頼れる人もいない。七海を不倫疑惑の罠にハメたかも知れないのに?自分の都合良いように七海をコントロールしようとしてるかも知れないのに?でも、やはり安室に連絡してしまう。安宿に逃げ込んで、そこで住み込みで働き始めたが、もっと安い物件や割りのいい仕事があると安室に紹介され、何の疑いもなく話に乗る七海。そして今度は自身が結婚式のニセモノの親族として代理出席する仕事をすることになった。
画像10 結婚式の代理出席のバイトで知り合った人たちと帰りに飲みに行って打ち解けた七海。そのうちの1人で女優である里中真白(Cocco)と二次会に行ってカラオケを歌う。全くタイプが違う真白のことが七海は気になって仕方なく、好意を寄せるのだが、帰りに駅に向かう途中に人混みではぐれてそれっきりになってしまう。SNSの真白のアカウントにメッセージを送り、帰宅した。真白のアカウント名は「リップヴァンウィンクル」だった。
画像11 七海は安室が持ってきた報酬100万の仕事に興味を持つ。家主が不在の間、住み込みで働くメイドの仕事である。まるでパーティーが終わってそのままの状態かのように散らかった部屋。水槽で飼われた海洋生物。家主はかなり変わっていそうな気配。何でももう1人メイドがいるという。会ってみると何と真白だった。彼女と住み始め、実は真白がAV女優だと知り、驚きとショックを隠せない七海。お互いに様々なトラブルを抱えながらも、2人は寄り添いながら暮らしていく。
画像12 2人で歩いている時に見つけたブライダルサロンを真白が覗いてみたいといい出し、中に入る。すると試着して写真を撮るサービスを無料で提供しているとのこと。2人はドレスを着せてもらい、撮影することに!このシーンはまさに岩井俊二ワールドという感じで、魔法がかかったみたいでとても素敵なんです。女性を美しく華やかに撮るのが本当に上手な監督だと思います。
画像13 ウェディングドレスを着たまま2人はドライブする。この颯爽としたシーンも大好き。2人のウェディングドレスに身を包むシーンは、後にやってくる悲劇と対照的で切なくもあります。「お店の人が自分のために買った物を袋に入れてくれたりするのって、一つ一つが優しいなって思う。だから人は感謝の気持ちをお金に変えるんだ。そうしないと私壊れる…。」このセリフは印象的で、伝えたいことはとっても分かる、でもあまりにも繊細すぎるよ…真白ー!と子供のような真白がとても愛おしく思えました。
画像14 真白に添い寝する七海。もし一緒に死んでと言ったら?と真白に聞かれ、いいよと答える。この夜を最後に、七海と真白は永遠に別れることになる。真白は末期ガンで1人で死ぬのが怖くて、一緒に死んでくれる人を探していたのだ。でも七海のことを道連れにせず1人で死んだ。水槽で飼っていた貝の毒で。住み込みバイトの家主は真白だったのだ。何一つ自分の強い意思で選んでいない七海という人間。でも真白の死が確実に彼女の何かを変えた。真白のマネージャー役の夏目ナナをはじめとし、葬儀のシーンにはリアルなAV女優さんも出演しています。
画像15 真白の母に真白の遺骨を届ける。一度は捨てた娘だとAV女優の娘を蔑んで、遺骨はいらないと突き返していた母。娘の気持ちを理解しようと、何と裸になって酒をあおり号泣する。安室も泣きながら脱ぐ笑。滑稽で奇妙なシーンだけど、そこに何とも言えない人間性が滲み出ていて印象に残る。安室の涙は本物なのか?寄り添うフリして墓石の手配金が目的だろうと、どちらでもいい。最後に七海が大きく手を振って新しい一歩を踏み出すのを見ると、安室が善人なのか悪人なのかはどうでもいい。人が人を求める理由はそんな簡単じゃないと思った。

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