明日につづくリズム
前置き
最近、noteが長文化している。。
もともと文章長くなりがちな自覚はあるのだが、こだわりすぎてもいいものができるわけじゃないし。
ということで、質より量のチャレンジをしてみようと思う。
ちかごろいくつかインプットしたものについて、1つ1時間を目安にアウトプットする。
そうと決めたら、さあ、行ってみよう!
基本情報
ジャンル:ヤングアダルト小説
著者:八束澄子(やつかすみこ)
出版社:ポプラ社
発売年月:2009年8月
ページ数:222ページ
備考:青少年読書感想文全国コンクール・中学年の部 課題図書(2010年)
あらすじ
瀬戸内海に浮かぶ因島に住む中学三年生の千波(ちなみ)と恵(めぐ)。
三年生の一学期に同じクラスになった二人は、帰り道におしゃべりが尽きないほど意気投合して友だちになる。ある日、千波が恵の家に遊びに行くと、恵が因島出身のロックバンド「ポルノグラフィティ」のCDを持っていることを知る。同じくファンだった千波は喜び、「ポルノ」を愛する気持ちを軸にして、二人は急速に仲を深めていった。
ボランティア精神あふれる母が受け入れた里子の弟、大地をもつ千波と、父の入院のため仕事で帰りが遅い、看護師の母をもつ恵。複雑な家庭事情を抱えながら受験を控える二人は、お互いにどこかもやもやとした気持ちを抱えながらも、大好きな音楽と美しい島の風景に囲まれてささやかな日常を過ごしていく。
そんな中、恵が「理学療法士になりたい」と夢を打ち明けたことをきっかけに、千波のくすぶっていた夢への想いが、耐え切れずに溢れてしまう。感情をうまく伝えられずに、家族と衝突する千波。そこである事件が起き、千波と恵の関係も、次第にすれ違いはじめる―――。
ふるさとを同じくする「ポルノ」の楽曲の歌詞に想いを重ねながら、揺れ動く思春期にもがく少女たちの成長物語。
ネタバレなし感想
読みやすさ:★★★★★
読後感:★★★★★
奥深さ:★★★☆☆
文体:★★★☆☆
いわゆるティーン向けの青春小説で、実在の因島出身バンド「ポルノグラフィティ」の楽曲を軸にした成長物語。こういう形式の小説は初めて読んだかも。
さすが中学生向けの課題図書だけあってとにかく読みやすい。200ページちょっとなのでほんの数時間で読める。
著者が因島出身なのもあり、海や山だけでなく、実在する町や人々の描写が細かい。登場人物たちが話す広島弁に、島の人々の柔らかい雰囲気がよく出ているし、また少し閉塞した田舎特有の空気や、大人と子どものあいだにいるティーンの繊細なゆらぎをよくとらえている。
極端にいい人や悪い人を出さずに、ふつうの人たちのあいだで起きる衝突やつながりを丁寧に描いていて、主人公に無理なく感情移入できる。
頻繁にポルノの歌詞を散りばめながらも、ポルノのファン小説という趣はなく、終始揺れ動く千波の心に寄り添いながら、愛する音楽とおだやかな海に背中を押される成長物語で、読後感さわやかな良書だった。
文体は淡々としていて読みやすい。ヤングアダルトってこんな感じだった気がする。変化球を使わないこういう文章は、おそらく実際書こうと思うと難しく、繊細な心情を掬いとるプロの技が光っている。
その反面、心に突き刺さるキラーフレーズもなく、読み手の共感力と経験からくる想像力がないと魅力が半減しそう。
思いの外、ポルノファンでなくてもおもしろく読める作品に仕上がっていて驚いたが、まあ私がポルノファンだから色眼鏡で見ている可能性も否めない。あと全く知らない人の場合、ティーンで「ポルノ」は抵抗あるかな。
ただ、いくつか有名な曲を知っていれば違和感なく読めるし、むしろ「青春時代に流行歌として耳にしたことがある」くらいの人ほど、ノスタルジックに読めると思う。
ティーンの気持ちを思い出すだけでなく、大人目線で見てもまた感じ入る部分があると思うので、ストレスフリーな読み物を欲している大人たちにオススメ。
ネタバレあり感想
何回か夏の因島を訪れたことのあるポルノファンからすると、折子の浜や短いトンネル、山坂の多い道、狭い車道や路地、きらめく海や桟橋、造船所の風景などなど――かなりピンとくる描写が多くて、因島にいるような気分にさせてくれる。
歌詞をそのまま引用している部分以外にも、章タイトルや台詞、地の文など随所にポルノの歌詞を使っている。意外にも「ヴォイス」や「Heart Beat」を使っている箇所もあってファンとしてはうれしい。
実際にあったポルノの因島凱旋ライブのドキュメンタリー番組を著者が見たことがきっかけで作られているため、クライマックスでは本当にポルノの二人が出てきて、現実と同じように主人公たちの前でライブをする。同じく当時テレビで見ていたし、毎度ライブにも行っている身としてはかなり臨場感がある。MCでこんなこと言ってたな~、みたいな。
個人的には小説の「ハルイチ」が詩人としてめちゃくちゃ褒められているうえ、ライブで無駄に(?)かっこよく描かれているのは笑った。もちろん歌詞づくりの才を否定するつもりは全くないけど、あの詞は「アキヒト」が歌ってなんぼみたいなところがあるし、ライブでの実際の彼らはもう少し等身大の人間なので、ポルノの魅力については解釈違いやなと思った。まあ、どうでもいいけど。
読後感はさわやかな本作だが、主人公の千波が置かれている立ち位置はそれなりに重いものだと思った。
なにより千波の母のぶ子が、家族に相談もせずに里子を引き取ったこと。思春期の娘がいる家庭に、外からの、それも幼い弟を迎えることの影響がどれだけ大きいかは良識のある大人ならわかるはずなのだが。まじめで実直な父作治は小さな造船所に勤めているものの、不景気にあおられた田舎の島では、経済的にもきつきつだし。
母は里子ゆえに情緒が安定しない弟に愛情を注ぐばかり。中学生にもなればお金に余裕がないこともうすうす感じ取れる。母が見ていないところで弟は生意気な口をきくし、かわいいところもあるけど憎たらしさもある。弟が悪いわけじゃないのに、弟なんかいなければ、などと思ってしまう自分も嫌だ。
友だちは夢を見つける一方で、島を出たい思いはあってもやりたいことが見つからないまま、受験を前に将来の選択を突き付けられる千波。なんの自信も持てないのに、親に負担をかけてまで島を出てしまってもいいのか? なんて、まだ中学生なのにかわいそうすぎて見てらんないよ、こんなの。
高校受験の時点で、島に唯一の学校にとどまるか、島外の学校に出るかを迫られる環境もなかなかしんどい。ただでさえ受験期はピリピリするのに、塾にも行かせずに不安定な弟の世話をさせるなんて、東京のお受験ママならまずありえない話w
しかしのぶ子のもつ、聖母のごときボランティア精神からくる底なしの明るさや、気丈なふるまいこそが、千波たち家族を精神的に支える拠りどころとなっているところに、多面性があってとてもおもしろい。
恵も、入院している父や働きづめの母の代わりに家事をしている。弟は小さいからか自由にサッカーをして家事を免除されているのに、恵は母から愚痴まで聞かされていて完全にヤングケアラー状態。田舎にありそうなナチュラル男尊女卑を感じるし、中学生に家出したいと思わせる親が悪いのは明白だよな。
情けない親や大人たちばかりに見えるけど、不景気の中であえいでいる姿には共感もする。
誰もが完ぺきな親にはなれないし、突然の入院や火事には誰だって動揺する。余裕がなくても不幸な誰かに手を差し伸べたり、子どもの将来のためにお金を工面したり、踏ん張っている姿を子ども見せないようにしたり。それがどれだけ大変なことかもわかるから、完ぺきじゃないといって責めることはできないよな。子どもにとっては唯一無二の親なのだし、生活を支えられているだけで十分偉業を成し遂げていると思う。
火事トラブルを通して家族や友だちとの絆が芽生えて感動ヨカッタネ! というよりは、弟や恵と自分を無意識に比較してしまい、一歩踏み出せない現実にぶち当たった千波が、ポルノの歌や、火事の原因、恵との対話によって内面を磨いて成長したのだ、と読めるところが共感性が高くてよかった。成長のためには、一面的な善悪ではなく、他人のいろんな面を垣間見て受け入れる必要があるのだなと。
後書き
結局、2時間かかっちゃったけど!?!? えーん。
割と簡単な内容だったからいけると思ったのに難しかったな。次はもう少し書きたいことに絞って書くようにしよう。
どんまいどんまい。
おわり。