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ホロニック:ガール


前置き

 前回↓と同様に、執筆タイムトライアルを継続するぞ!

 前回は、1時間の目標を大幅オーバーしてしまったので、今回はちょっと目標を下げて2時間以内に。題材も難しいやつなので。。

基本情報

ジャンル:ハードSF小説
著者:高島雄哉(たかしまゆうや)
レーベル:創元SF文庫
初版:2024年7月26日
ページ数:308ページ
備考:2024年8月公開の劇場アニメ『ゼーガペインSTA』の補助線となる、ゼーガペインシリーズの「公式スピンオフ小説」。
   既存シナリオのノベライズではなく完全オリジナル作品となっている。著者は『ゼーガペインADP』以降、シリーズにSF考証として参加。
   #ホロニックガール

 STA鑑賞後の感想記事は下記。

あらすじ

 今回は時間の関係&内容があらすじに適さないのでなし!

ネタバレなし感想

ハードSFみ:★★★★★
ゼーガみ:★★☆☆☆
STA補助線み:★★☆☆☆
初見殺しみ:★★★★☆
こなれ文体み:★★☆☆☆
ストーリーのうまみ:★☆☆☆☆

 うーーーーーん。
 今回はどう転んだって辛口になりそうなので、嫌な方は回れ右で。

 ちょうどSTAがらみでゼーガが盛り上がっているところだし、といろんな書店回って探した本だったのでけっこう期待していた……んだけど。
 前作『エンタングル:ガール』も買ってあるものの、二の足を踏んでいるくらいには苦手なやつだった。
 でもでも、ちゃんと読破はしたよ。

 私が本作の何にモヤモヤしたのかを整理してみると、こんなミスマッチが生まれているように思えた。

①ゼーガペインじゃなくね?

 まず、これを「ゼーガペイン」だと思うと面食らいそうという点。
 TVアニメ版ゼーガペインのことをぼんやり思い出してみると、まあ用語や設定が難解ではあるものの、とまれ敵が来たらキョウがぶち壊して千葉県民するところがおもしろいというか、エンタメとしてのバランス感覚に秀でているポイントだと思う。
 そして激しい戦いの中で、キャラクターたちが血反吐(ないけど)にまみれて心を通わせていく、その過程を理解するからこそ「是我痛」の意味を知るわけだよね。

 本作は、ようやく迎えた9月1日を経て、舞浜がどのような未来を歩むのかをカミナギ視点で描くという期待通りのストーリーから始まる。
 しかし。
 なんと本作は、そんなことどうでもいいのだ、とでも言いたげなラストを迎える。
 それを「作者独自の斬新な視点」「壮大なハードSFのすごみ」とおもしろがるのか、期待を裏切られたと断ずるかは人それぞれだと思うけど、私は「ゼーガでやるなよ」と思ってしまった。

 別にゼーガペインはロボットが活躍しなきゃダメ、とか、新設定はいらねー、とかは全く思わない。なぜならSTAも、今までのイメージを裏切ってやりたい放題してるのに「ゼーガだな」と思える作品になっているわけだし。
 でも、本作は違う。ゼーガペインの核となるおもしろポイントを取り入れないまま、ゼーガペインのSF設定をいじって遊んでるだけに見える(言葉強くてごめんだけど)。
 我々は難解な設定が必然的に生み出す物語そのものをたしなんでいるわけで、おもしろ設定を消費しているのではない。スパイスだけではメシは食えん。
 言い換えるなら、私とあなたの「是我痛」の解釈違いがえぐいぞ、って感じです。

②カミナギってこんなだっけ?

 カミナギ視点で話が進むので、地の文はカミナギのモノローグとなる。
 そして本作は結構ハードなSF展開をする。
 だから、必然的にカミナギがSFを語るのだ。

 ところで、カミナギにあんまり興味がない私でも、カミナギの魅力は「ふつーの女子高校生」であることはわかる。
 本作のカミナギをふつーの女子高校生らしさで評価することは、さすがにできないと思う。私が知らなかっただけで、彼女は天才的に頭の回転が速く、極めて内省的で、臨機応変にリーダーシップをとる人間だったのかもしれないけど。

 そしてカミナギに関する追加設定がインパクトありすぎるので、これを認めてちゃんと本編と整合性が取れているかは疑問。なんとなくだけど、時系列こんなだっけ? ループの回数とか多すぎる気がする。

③誰に向けて書いてるの?

 本作は、STAの補助線となるスピンオフ小説だ、という触れ込みだったと思うのだが、STAの補助線には特になっていないw
 STAで登場するキャラクターも出てくるし、STAにまつわる設定は多少書いてある。なんなら一部STAを観る前だったらネタバレだったな、みたいなトラップがあって、事前に読まなくてよかった。でも、STAを深く理解する、みたいなものではないと思う。
 そもそも、本筋がもう補助線云々の規模を超えているので、スピンオフだし”別の世界線”——という概念も本作では通用しなくなっている。
 身も蓋もないけど、もう私は本作を無視することにした。まじでそれしかない。

 あるいは小説を入口に、ゼーガペイン沼に落としたい意図があったと仮定しても、残念ながら……厳しいw
 申し訳程度の用語解説はあるものの、過去の戦いやキャラクターの説明はほとんどないので。

 ではやはり、誰宛かというと、既存のゼーガペイン視聴者なのでしょう。
 そして①に戻る。

ネタバレあり感想

①ダジャレは勘弁してください

 一番許せなかったのはここかもしれない。カミナギ=守凪=神凪。
 これは単に好き放題ダジャレを言って自分だけ気持ちよくなる人間がムカつく性格なだけですが。
 それがダジャレと捉えられるか、言霊と捉えられるかはその言葉が使われる文脈の芸術性の有無によるものだと考えています。私にとってはそういうことでした。

②身体性の欠如

 幻体と身体は切り離せないものだと思うのだが、本作に出てくる人間たちが何を守ろうとしているのかが見えないことで、入り込めないところがあった。
 幻体はデータなので、人体の内部構造を有していないから子宮がない、みたいな話が出てきたと思うが、これはもともとそういう設定なのかな? それはそうかもしれない。
 でも、人間の身体からくる情報を無視して、人間が人間でい続けられると思う?
 例えば幻体は疲労を感じない、とか。疲労を感じないというだけで、人間が人間でいる体験の大部分を無視していることをわかっているのかな?
 疲労は広義には痛みである。それを「疲労を感じないはずなのに、疲れた気分になった(意訳)」みたいに軽く表現して満足しないでほしい。疲れない自分を人間として定義する葛藤はないわけ? そういうのは本編までの時間でやってるから省略ってことなら、まあ目をつぶろう。
 でも他にも、痛みを軽視している描写がわんさかあるのだ。
 一番許せないのは妊娠出産の描写。私は妊婦になったことはないけど、妊娠のおそれは死へのおそれを含んでいる。”誰かのせい”かつ”私のせい”で、”健康なまま”苦しみ、”死にながら殺す”んだもの。それを単なる「生身だから死の危険あるね」とか「分娩の研究を重ねたから準備ばっちり」とかで片づけるなら、はっきり言って小説で書くには浅すぎるので取り上げないでください。
 あと、どんなに天才的でループを重ねた人間だとしても、高校生レベルの精神で、静かにゆっくりと、しかし確実に近づく死や苦しみを覚悟することはできないと思う。それは出産もそうだし、「神凪」が選んだこれから訪れる苦しい宇宙の未来もそう。本当に「神凪」が何をしたかを一瞬で理解して、彼女を励ますためだとしても、瞬時にすべてを受け入れるような器がチホとアマネにあることの説得力はなかった。あるいは、すべて受け入れたのではなく、単に理解が及ばなかったとしたら、中途半端な理解力を持つ天才ということになり、今までの驚異的な理解度への整合性が取れない。
 「消されるな、この想い。」の下地には、消されることへの恐怖がある。原理的に恐怖は身体がもたらす。幻体にとっての身体とは何か? たぶんそれは過去という名の記憶であり、現在の感情であり、選び取る未来である。それは限界まで人間らしさを削り落としたみんなが守らねばならない最後の砦であって、すべては喪った身体への憧れと執着である。そこを否定したら、もう痛みを忘れたことになるのでは?

③神でないなら神に逃げるな、神ならば神でいろ

 これは私の好みですが、こういう神の使い方、好きじゃないです。
 時間や空間を超越しただけの者を、神って言うのやめてください。
 あるいは、神ではないのかもしれない。と言わせるくらいなら神と呼称するのをやめてください。
 神を気取るなら、因果の始点としての存在を徹底させてください。

 カミナギにいろんなものが交じりこんだうえで、様々な宇宙を知る(そもそも知るって何よ。体験? 観察?)、それに耐えきれたっていうのもピンとこない。それって自我があるといえるわけ?
 もっとちゃんと向き合ってよ、カミナギの想いに。

④文体から意図を受け取れない

 もやもやしながらも、この本の良いところを探して読み進めていた。
 考えていたら、この本は意図が読めないところがあるのではないかと気づいた。

 とかく説明口調の文体で、何を伝えたいのかがわからないまま、情報だけがこぼれていく。
 カミナギが何に向かっているのかが読めない。視点が拡散していて、ゼーガペインの物語を進めたいのか、宇宙や世界を解き明かしたいのか、愛のかたちを描きたいのか、「世界は光でいっぱいだよ!」を言いたいのか。そのすべてなのか、一部なのか、そのすべてを同時に叫んでいるのか、声高には言いたくないのか。

 もうすこしこなれた文体で、あるいはもっと徹底した俯瞰視点で書いた方が意図がはっきりしていいのではないか。
 というより、もうこれはゼーガペインではなくオリジナル小説で書いた方がいいのではないか。
 その方が伝えたいことが伝わってくるし、伝えたいことは伝わらなくて済むのではないか。
 ifをいってもしょうがないのだが、そう思ってしまった作品だった。

後書き

 あー、ちょっと2時間超えちゃった。。。
 そして文句ばっかりでごめんなさい。でも正直すっきりした。

 おわり。

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