▶︎甘酸っぱい、夏の味

夏になると思い出すのは、甘酸っぱい蜂蜜レモンの味である。

練習が盛んに行われるようになる夏の時期は、監督やコーチといった大人たちも「熱中症」に人一倍敏感になる時期だった。私が中学生だった頃は、まだどこか根性論が残っていたような時代でもあって、炎天下の一番暑い時間帯にどれだけ集中して練習に取り組めるかを課題にしていたような節もみられた。

スポーツドリンクの「がぶ飲み禁止」もそれに該当するのかもしれないが、あるときから私たちは、「蜂蜜に漬けたレモン」を休憩中に摂取するよう指導を受けた。当時はそれにどの程度の効果があるのかは分かってはいなかったが、ビタミンやミネラルが豊富に含まれる蜂蜜と、クエン酸を含むレモンは熱中症対策にはもってこいの代物のようだ。

甘い蜂蜜とレモンの酸味、そしてほんのり感じる皮の苦み。調子に乗って食べ過ぎると、少し胸やけしてしまうところが難点ではあったが、蜂蜜レモンを食べられる休憩時間はどこか「ご褒美」の時間のようで、私はそれが待ち遠しかった。

大学生になっても部活動に所属していた私は、監督から「蜂蜜レモンを作ってほしい」と依頼されることとなった。中学時代とは違い、マネージャーとして部活動に在籍していた私は、後輩のマネージャーと手分けをして毎日レモンを蜂蜜に漬けた。

ご褒美のように食べていただけのあの頃とは違い、今度は作る側となってしまった私にとって、蜂蜜レモンはいつのまにか、悩ましいものへと変化してしまった。

まずは、均等に切るのが難しい。そして、毎日大体同じ分量で作っているつもりでも、部員からの評判にはバラツキがでる。もちろん、部員が私たちマネージャーに直接言葉を投げかけるわけではない。タッパーいっぱいに作ったレモンが、ときたま大量に余ることがあるだけだ。

それはどこか、好きな人に手料理を作るのと似ているかもしれない。今日は残さず食べてもらえるか。美味しいと思ってもらえるか。気にしていないようで毎回ドキドキするその心境は、きっと恋をしたことがある人ならば分かってもらえるに違いない。

たくさんのレモンが余ってしまった日は、レモンを後輩と一緒に口に頬張り、「今日は甘すぎたね」「今日は酸っぱいですね」と首をかしげながら話し合いを重ねた。あれほど研究を重ねた蜂蜜レモンの黄金比も、今ではすっかり記憶から抜け落ちてしまったのが残念でならない。頼りになるのはただひとつ、舌で覚えた記憶だけだ。

甘酸っぱい、夏の味。いつかまたそれを口の中で味わう日が来たならば、私はきっとあの頃のことを思い出すのだろう。

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riraさんの夏の企画に参加させていただきました。

色んな夏の想い出がある中で今回は、味の記憶をもとにしたエッセイを書いてみました。riraさん、素敵な企画をありがとうございました。

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