月の満ち欠けのよう
昔からのことなんだが、月の光の強さによって体調が変化する謎の現象が起きている。月がはっきり丸い黄色の光を放つ時、身体が元気だったり、感情の軸がコントロールできなかったり、時に地から離れるような浮遊感や、満たされた感情を伴ったりする。
月は欠けたり満ちたり、朧げだったり、まるで人との繋がりの中に生まれる感情のようだ。
それと、同じくらい音楽がわたしの体や心にもたらす影響力はとても大きい。
昨夜は霞みがかった月夜だった。母と叔母と待ち合わせをし、渋谷のオーチャードホールで行われるサックス奏者KennyGのジャパンツアー2019に参加した。KennyGの来日は5年ぶりのようで、わたしが前回観たコンサートが13歳の時だから、それから17年ぶりとなる。
KennyGは亡くなった父がアルバム「ブレスレス」をずっと車内で流していたので、小さい頃のわたしが眠る時の子守唄だった。それからずっとKennyGを聴くと、歌詞がないメロディーに歌詞が次から次へと生まれてくるように、優しさやリラックスした感情に包まれ、細胞レベルまで何か活性化するような、まるで歌っているようなその音色の虜になった。もう人生に欠かせないアーティストだ。
JAZZは普段あまり聴かない。だけど、昨日は本当にJAZZを楽しめるひと時だった。ツアーを支えるバックバンドのメンバーがとても個性派の実力派揃いで、中にはKennyGと高校の頃からの深い繋がりのメンバーもいた。ピアノの相性はもちろん良いが、ギターもベースもドラムもみんなが楽しそうにパワフルでロックな雰囲気だと思いきや、いきなりメロウに演奏したり、黒人のドラムの人は天性のパフォーマーのように、タンバリンを肩から肩に回して、力強いダンスと一緒に楽しませてくれた。
そこに、KennyGのふんわりと優しいため息の出るようなサックスの演奏が溶け込み、力強くも優しい、そして哀愁も漂う不思議な空間だった。
いつもコンサートに行くと思うのだが、席がとても遠いと本当はもっと近くに寄りたいのに、体も自然と波のようにのるのに近づけなくてもどかしいから、想像の中だけ観客の上を飛び越えて気持ちだけ本人向かうよう飛ばす。空を駆けて、音と光に包まれる。
するとKennyGが近くでにっこりと微笑んでくれて、サックスを吹いてくれる。遠いけど、近い場所。完全なる妄想だ。
昨日はその延長線上で、とても不思議なのだが、側で語り合って写真を撮るイメージが湧いた。こんな広い客席を埋め尽くすコンサートでそれはありえないけれども。
そんなことを考えていたら、英語の紹介の時に、今日はこの後サイン会と写真も撮ろう!と言うものだから、本当に夢かと思った。
コンサートが終わるとロビーにはもちろん、長蛇の列ができた。とても流れ作業的な感じで次から次とサイン会と撮影会が行われて、いよいよ私たちの番に近づいた時に「How are you?」と微笑んで声をかけてくれた。おきまりの言葉を返しつつ、まだ夢の中なのではと思った。会場で購入したCDにサインをしてくれ、写真をみんなで撮り、最後握手までしてくれた。ふんわりと物憂げで優しくてあたたかい人柄だった。
叔母と母も相変わらずキャピキャピはしゃいで楽しそうだった。オーチャードホールを後にし、3人カフェで珈琲を飲んで、私たちはそれぞれの帰路についた。
憧れの人との初めての会話は思ったよりもふつうだったけど、その夜のJAZZと、みんなの笑顔は心を満月のように満たしてくれた。