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【1単語エッセイ】どぎまぎ

小さな頃から、なんでも完璧にこなすのが好きだった。

……いや、好きだったわけじゃない。

誰に強制されたわけでもないのに「あなたはなんでもできて当然」「こなすのが当たり前」という空気を感じとってしまい、自ら課した呪いのようなもの。

いつの日か、失敗を極端に恐れるようになってしまった。イメージダウンに繋がるとでも思っているのだろうか。

人は、失敗を繰り返して学び、成長を続けていくものなのに、何事も卒なくこなしてきた子ども時代から、考え方を変えられずにここまできてしまったようだ。


外国人であるパートナーと初めて仲違いした日、きっかけはやっぱりわたしの失敗恐怖症だった。

うまく英語が話せない。
伝えたいことが美しく伝えられない。
もし間違ったことを言ってパートナーを不快にさせたら別れることになるかもしれない。
どんどん勝手に恐怖心を植え付けていく。

いっそのことホラー映画の脚本でも書いたらいいんじゃないかってくらい、自らを恐怖の沼に引き摺り込むのが天才的に上手いんだ。

でもね、やっぱりtext messageには限界がある。
今どんな表情でこの言葉を口にしてるのか。どんな気持ちで何を考えてるのか。
無機質なフォントの羅列からはさっぱり読み取れない。
でも、完璧に作り上げた英語の文章で、あなたに自分の真意を説明したかった。
いくら頑張ったって、気持ちが伝わらなきゃ意味がないのにね。


きっと私、あなたの前では「完全無欠」で居たかった。
仕事も、歌も、ほかの趣味も、お金のやりくりも、人間関係も、人生設計も…全てが順調で、いつも穏やかにニコニコと笑っているわたしでいたかった。

感情の波を露わにすれば、自分の出来の悪さが露呈する。醜い私が隠せなくなる。
自分を曝け出すということは、とても勇気が要るんだな。

嫌われたくない。
ガッカリされたくない。
意固地なプライドで固めた鎧を崩すのはなかなか大変だったけど、パートナーが油を差して、部品を一枚ずつ剥がしていってくれた。

私がどんなに喚いたって、どんなに自分を卑下したって、どんなに日常生活の不満を吐いたって、彼はI love youと伝えるのを欠かさない。

彼からのまっすぐな愛でこころが満たされ、失敗から目を逸らすのをやめようと、徐々に思うことができている。

そして彼も、日本語を勉強していて、私との会話の中で覚えた単語を一生懸命教えてくれる。

将来も一緒にいる姿を想像したとき、彼は
「お互いに自分たちの失敗を笑いつつも、引き続き勉強するモチベーションを高め合っている」
と言っていた。

そう、パートナーとの良好な関係には失敗がつきもの。恐れていては、前に進んでいけないの。


私の大好きな詩人、茨木のり子が書いた「汲む-Y.Yに-」という詩を心に留めながら、これから先の人生を過ごしていきたい。

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい

あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……

「汲む - Y.Yに - 」より抜粋/ 茨木のり子

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