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コンサル業界の新たな競争軸

先日とあるコンサル業界に強い転職エージェントの方と面談し、最近のコンサルファーム志望者のニーズについてヒアリングをしました。

曰く、ジュニア層については、ワークライフバランスが必要条件になりつつあるということでした。ひと昔前までは激務が当たり前だったコンサル業界も、今やワークライフバランスがある程度担保されていないと人が寄り付かなくなってきているということです。アップルも薄々感じてはいましたが、こうやってエージェントの生の声として聞くと、改めて隔世の感があります。激務からワークライフバランスへ。コンサル業界の拡大と成熟に伴い、業界の常識が大きく変わったということです。

一方、マネージャー/ディレクターなどPMロールを担うミドル層については、「自由度」が訴求ポイントになってきているとのことでした。

自分にどれだけの裁量が与えられるのか?
ソリューションやサービスにどれだけの幅や遊びが認められるのか?
ファームや部門の運営に、どれだけ主体的に携われるのか?

これらが他のファームからミドル層を引き抜くための重要な訴求ポイントになってきているようなのです。一般に自由度や裁量は大手ファームよりも小規模なブティックファームの方があるので、ミドル層においてはブティックファームの人気が高まっており、実際に主力のミドル層が大手からブティックに移る流れも強まっているとの言及もありました。

これはこれで業界の常識の変化をあらわす象徴的な話だと思いました。

一昔前までは、ファーム間の移籍はブランドがドライバーになっていたと思います。現在所属するファームよりもよりブランドの強い、よりネームバリューのあるファームへと移籍する流れです。実際、総合系ファームから戦略系ファームへの移籍が、また日系から外資系への移籍が、より高いブランドを求める中で活発に起きていた印象があります。

上記のエージェントの話は、ミドル層が移籍するドライバーがブランドから自由度に変化しつつあることを示唆しており、そう捉えると興味深いのです。ジュニア層における激務許容からワークライフバランス重視への転換と同じくらいのインパクトがあると思います。

それでは、なぜこのようなドライバーの変化が起きているのでしょうか?アップルは「コンサルティングのビジネスモデルとしての完成度の高まり」が背景にあると考察します。

どんな業界でも、どんな会社でも、規模の拡大とビジネスモデルの完成度には相関関係(因果関係)があります。ビジネスモデルの完成度が高まるほど、スケールしやすくなり、規模が大きくなります。このことが近年大手コンサルティングファームを中心に起きていると考えられます。

ビジネスモデルの完成度が高まり規模が拡大することは、ファーム経営としては良いことです。ファーム全体として潤い、中でも経営幹部はさぞ儲かることでしょう。しかし、経営幹部以外の社員たちにとっては一概に良いこととは言えません。以下のようにメリットとデメリットが両面あるからです。

まずメリットから。ビジネスモデルが完成されていれば、顧客基盤は充実し、サービスやオペレーションは標準化され、収益およびそれを原資とする給与は高水準で安定します。これは高年収や安定を求める社員にとってよいことです。

一方でデメリットとして、社員たちの「歯車感」が増します。ビジネスモデルが完成されているということは、上記のとおり様々なことが「標準化」「仕組み化」されることを含意し、一人ひとりの社員はその「標準」や「仕組み」の中で仕事をすることが求められるようになるからです。

こうなると、「一歯車の範疇を超えた大きな仕事がしたい人」や「社内のルールをはみ出したクリエイティブな仕事をしたい人」にとっては、物足りない、かったるいと感じるようになります。そしてそれはスキル・能力の高いハイパフォーマーに顕著にあらわれるでしょう。

こうした「規模拡大と社員の歯車感との間の葛藤」が、ミドル層を中心とした自由度への渇望を生み、自由度が確保されたファーム・ポジションへの流出という形で顕在化しつつあるということだと思います。

上記を踏まえると、今後コンサルティングファームが即戦力となる他ファームのミドル人材、シニア人材を惹きつけるためには、
・できる限り裁量と自由度を与える
・サービス開発の余地を残す(事業や投資との組み合わせも含む)
・職人・プロ集団を超えた、魅力的なパーパスを掲げる

の3つが重要になるでしょう。

業界の成熟化が進む中、これら3つの競争軸でコンサルティングファーム間の競争がさらに激化していくのではないかと思われます。


以上、今回はエージェントから聞いた話を受けて少しだけ考察をしてみました。最後まで御覧いただきありがとうございます!


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