男性専用車両は本当に痴漢冤罪率の減少に効果があるのか

そこそこ見かける男性専用車両の話。

意見は様々だが、大雑把に以下のように分類される。

男女平等派:女性専用車両があるんだから、男性車両もあって然るべき!

痴漢冤罪対策派:男性が専用車両に移動すれば、痴漢冤罪発生率は減るんや!

痴漢冤罪怖い派:いつ冤罪に合うかと怖くて毎日ドキドキ。早く専用車両導入して!

正直、男女平等派については何も言う事は無い。こういう話はそこかしこで繰り返されるし、人は公平性が失われた時にひどく不快感を感じるものである。納得がいくまで闘えば良い。(筆者は男だが、女性専用車両を不平等だと思った事は無い。)

痴漢冤罪怖い派についても、特別言う事は無い。「社会全体としての効果はともかく、とにかく個人的に冤罪が怖い!」という訴えはまあ理解できる。

今回考えたいのは、痴漢冤罪対策派の主張についてだ。

彼らの主張はこうだ。

・男性専用車両が導入されれば、男性は専用車両を利用するし、痴漢冤罪は減るはず!

この主張がどんな論理・根拠を経て出てきたのかはわからないが、正直私にはピンとこなかった。専用車両を利用すると冤罪率が減る・・・その根拠が何も見えないのだ。

なので、ここでは男性専用車両が本当に痴漢冤罪の対策になりうるのかを考えてみる。

* * *

そもそも痴漢事件が起きるような状況とはどんなものだろうか、改めて調べてみる。

警察庁の調べによると、

> 痴漢は、午前7時から午前9時の通勤通学時間帯に約30パーセントが集中して発生しています。(資料:http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/higai/koramu2/koramu8.html)

との事。つまり、通勤ラッシュの時間帯だ。痴漢犯罪の多くは通勤ラッシュの時間帯に起きている。

また、国土交通省の調べによると、

東京圏における主要区間(31)の平均混雑率は163%。

いずれも午前7時30分~8時30分あたりの輸送人員を元に算出されているようだ。(資料:http://www.mlit.go.jp/common/001245347.pdf)

そんなわけで、首都圏における通勤ラッシュの時間帯は、混雑率100%を超える状態で毎日輸送されている。無論、痴漢の温床となっているのが現状である。

では、痴漢冤罪とはいつどのように発生するのだろうか。

残念ながら正確な冤罪件数に関する統計データは見つからなかった。ただ、その性質上、痴漢率と痴漢冤罪率は比例すると考えられる。

つまり単純に考えると、冤罪の契機となる痴漢事件も、通勤ラッシュの時間帯に多く発生している可能性が高いと考えられる。

男性専用車両を導入すると、痴漢冤罪率が低下する。これが正だとすると、導入において最も効果を発揮するのはやはり通勤ラッシュの時間帯という事になる。本当に効果があるのだろうか。シミュレーションしてみる。

・・・

以下は通勤ラッシュ時の車両の乗車状況を図にしたものだ。乗車員を男性・女性・痴漢と3種類に分けた。※男女比及び痴漢の比率に関しては具体的では無いが、あくまで例の為簡素にした。

◆従来 (一般車両、女性専用車両)


この状況に男性専用車両を組み込むにあたり、いくつかパターンが想定される。

①共用車両を一部のみ男性専用車両にする。

②共用車両を完全に廃止し、男性専用車両と女性専用車両のみとする。

③共用車両を一部だけ残し、残りは専用車両とする。

このうち、②は現実的に厳しい事がわかる。共用車両を廃止すると夫婦等の男女連れが分断される為だ。③に関しては各車両比率をどのようにするかは鉄道毎の男女比率によって変わってくるだろうが、②よりは現実的と思われる。(あくまで比較した場合だが、こちらもやはり厳しいものがある)

ここでは最も一般的に提唱されているであろう、①のパターンを例とする。一部車両のみ男性専用車両にした場合を示した図がこちら。

男性専用車両を導入した場合

まず変化として、以下の点が挙げられる。

・男性専用車両に変わった分、女性が他の共用車両に移った。(⇒ 共用車両の女性比率上昇)

・痴漢は男性専用車両に乗らない為、やはり共用車両に移った。(⇒ 共用車両の痴漢比率上昇)

・共用車両の男性が一部専用車両に移った。(⇒ 共用車両の男性比率減少)

ここでポイントとなるのが、共用車両の女性及び痴漢比率が上昇する点である。

痴漢比率の上昇に伴って、痴漢の発生率も上昇するというのはそこまで想像に難くない。女性比率も上昇するのだからなおさらだろう。

今回の着目点である痴漢冤罪に関してはどうだろうか。冤罪に関しても、痴漢発生率の上昇に比例するというのは先の話の通りである。計画的に冤罪を働く女性が実在するならば、この状況はよりしめたものだろう。

痴漢の潜在率によって結果が異なるかもしれない。確かに、意図的に共用車両に乗ろうとするような能動性を持った痴漢でなければ、今回のシミュレーションのようにはいかないかもしれない。

ここで興味深いデータがある。警察庁が「電車内の痴漢行為で検挙・送致された者219人」に対して様々な調査を行った結果だ。(資料元:http://d.hatena.ne.jp/usausa1975/20120806/p1)

これによると、最も多かった痴漢の動機が

・痴漢をすると興奮するから・・・49.8%

被害者を選んだ理由で最も多かったのが

・偶然近くにいたから・・・50.7%

被害者に目をつけたタイミングで最も多かったのが

・検挙されたその日・・・80.8%

被害者に目をつけた場所で最も多かったのが

・電車の中で・・・78.1%

上記の結果から、大半の痴漢は「たまたま電車内で見つけた好みの娘をターゲットとしている」事がわかる。

この結果からは能動的に痴漢を行っているのか、あくまで偶発的かは断定しきれないが、どちらにせよ近くにターゲットがいれば犯行に及ぶという点は同様と思われる。

ではあくまで偶発的に発生する痴漢だとした場合、彼らはどのように振舞うのか。共用車両に乗っていたとして、おそらくたまたま近くにターゲットを見つけ犯行に及ぶのだろう。そしてその発生率は女性比率に比例すると考えられる。(女性が増えるほどターゲットも見つけやすい)

つまり、能動的・偶発的に関わらず、痴漢の発生率は変わらず上昇すると考えられる。

・・・

以上の事から、男性専用車両を導入した場合、痴漢冤罪発生率の減少どころか痴漢発生率、痴漢冤罪発生率はむしろ上昇するだろうという結論に至った。

今回はあくまで通勤ラッシュ時の混雑率100%の状況を想定している為、他の時間帯ではまた変わるかもしれない。


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